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大胆不敵!——『劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram』感想

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 『劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 後編 Paladin; Agateram』をみたので感想。

  スマートフォン用ゲーム『Fate/Grand Order』で、最も人気の高い章といっても過言ではないであろう「第6特異点 神聖円卓領域キャメロット」の映画化。前編は、黄瀬和哉総作画監督にむかえながら全体として見どころに乏しく、小太刀右京の脚色が勘所を適切に抑えていなかったこともあって、作品としてはいまいち魅力に欠けるものだった。対して、荒井・バリキオス・和人が監督を務め、また小太刀とともに脚本も務めたこの後編は、キャメロット攻略を目指す後半部で一気に急加速し、アクション作画の魅力の一点突破で映画体験を充実させるという方策をとったことで、映画としての魅力は著しく高まっている。それだけで自閉し完結するものとして映画をとらえるならば、この作品はひどくいびつにもみえるが、しかしゲームという原作ありきで、そのアダプテーション、変奏としてみるならば、まったくもって正しい方策だったといわねばならない。

 アニメ版『Fate/Apocrypha』 で、この数分だけで作品の価値を決定したといっても過言ではない「22話 再会と別離」におけるジークフリート対カルナを演出した伍柏諭がクレジットされているが、おそらく彼が演出したであろうランスロット対アグラヴェインのシークエンスから、ほんの刹那で作品の雰囲気が豹変したのは、端的にいって大きな驚きだった。それまで前編の延長戦のような、あまりうまくないレイアウトが目についたような気がしたが、アグラヴェインがベランダを歩く場面から一気に画面に緊張感がみなぎり、直後ランスロットに会敵したその瞬間に作品自体のギアが破壊的にあがっている。このような瞬間をもつアニメ映画は、ちょっとないんじゃないか。あまりよくなかった映画が急激によくなるなんてこと、ないと思うので。

 その瞬間から以後、論理もへったくれもあるもんかといわんばかりに超人たちが躍動するのがひたすらに楽しく、また原作からマッチメイクを適宜変えたりしつつ、キャラクターに見せ場をあたえてゆく手際もよかった。前編で、キャラクターの印象に統一性をもたせたことが、逆に『Fate』らしさを損なっていたのでは、と感じたのだが、この後編ではキャラクターの強度に信を託し、同一性を攪乱するレベルで統一感を乱してゆく演出の大胆不敵さが見事に効いていたと思う。ゲームにおいてはほひとつのクライマックスであった、マシュ・キリエライトの宝具真名解放も、映画においてはあくまでベディヴィエールという騎士の使命を助けるための脇役に徹していたのもえらい。散漫なようでいて、最後はこの騎士の物語に収束させていく手際も見事。

 総じて、前編の低調ぶりがもったいないと強く感じる、誠実な仕事だったと思います。

 

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