『ハウス・オブ・グッチ』をみたので感想。
ロドルフォ・グッチとアルド・グッチにより経営される世界的ファッションブランド、グッチ。ロドルフォの息子、マウリツィオは家業にさして興味をもっていないようにみえたが、彼に近づく女、パトリツィア・レッジアーニは野望を秘めていた。華麗なる一族の一員として成り上がろうとする野望を。
グッチの創業者一族周辺でおこった骨肉の争いを映画化。監督はリドリー・スコットで、2017年に公開された『ゲティ家の身代金』とは有名一族の実話をモチーフとする点で共通するが、本作はフランシス・フォード・コッポラ監督『ゴッドファーザー』三部作を想起させる。それも終ぞ実現しなかった、アル・パチーノとロバート・デュバルが対決する幻のPart.3を。
グッチに近づく「よそもの」の女をレディ・ガガ、彼女と結婚する御曹司をアダム・ドライバーがそれぞれ好演。ガガは洗練されていない小金持ちの娘という雰囲気が冒頭からよく出ているし、中盤以降はみなぎる野心と苛烈な狂気を見事に引き受けている。アダム・ドライバーがいかにも世慣れない若造という風情のおぼっちゃんから、次第に自負と驕りとを身に着けていくさまも非常によかった。
ジャレッド・レトやアル・パチーノの演技も無論すばらしいのだが、ロドルフォの腹心にして、やがてマウリツィオとパトリツィアをグッチから放逐するために動いていいたらしいことがわかる伊達男、ドメニコ・デ・ソーレ演じるジャック・ヒューストンがの佇まいは白眉。このドメニコが演じる役回りは『ゴッドファーザー』のロバート・デュバルを想起させるがゆえに、ここに幻のPart.3を幻視してしまうわけですね。しかし、このドメニコ・デ・ソーレも、この映画で新時代の旗手として颯爽登場したトム・フォードとともに、21世紀のはじめにはグッチを放逐されてしまうことを我々は知っているわけで、なんというか諸行無常ですわね。
極めてすぐれた俳優陣による絢爛たる悲喜劇。これを劇場で眺める時間はたいへん幸福でありました。