宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

虚ろなまなざし——『アンビュランス』感想

アンビュランス - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 『アンビュランス』をみました。以下感想。

 妻の手術のため、多額の資金を必要とする男。男が頼ろうとした義理の兄は、まさに未曽有の金額を強奪を決行するところだった。なりゆきで地獄への道行きを選び取った男は、やがて瀕死の警官と救命士を乗せた救急車を強奪し、ロサンゼルス中を駆け巡る逃避行がはじまる。

 マイケル・ベイ監督ひさびさの劇場公開作品は、LAを舞台にした強盗とその顛末を描くアクションスリラー。主演に『マトリックス』の記憶も新しいヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世とジェイク・ギレンホールエイザ・ゴンザレスを迎え、ノンストップで2時間を駆け抜ける。最低限の説明ののち強盗の決行、そして以後は救急車での逃走劇がひたすら続き、救急車は物理的に走り続けるので展開も停滞しない。警官を殺害した場合に訪れるリスクが、銀行強盗にも瀕死の警官を助ける動機づけを与え、逃走と救命とが絶え間なく課題として浮上してくるため、起伏があってだれないのもよい。

 かつての『ザ・ロック』と同様、退役軍人とその不遇に向けられたまなざしは、北アメリカに住むある種の人びとを勇気づけるのだろうと思うが、彼のフィルモグラフィのなかでも快作といっていいだろう同作をもはや忘れられた作品として登場人物に言及させる自虐はなんだかものかなしい。マイケル・ベイって、なんというかくだらない(うえにおもしろくもない)ギャグで時間を間延びさせがちというイメージがなんとなくあったんだけど、この『アンビュランス』はそういうのがないのがまず意外で、ありがたくもあった。

 これみよがしのドローン撮影とか、さながら『GTA5』ばりの強盗&観光映画じみたところとか、この映画の魅力はいろいろあると思うんだけど、まあなによりジェイク・ギレンホールの虚無的なまなざしによって生じる引力に拠って立つ映画だよなあと思う。躊躇なく打算的に殺人を実行することをいとわない冷血漢でありつつ、血のつながらない弟に全幅の信頼を置いてもいる。ドラマを大きくドライブさせるのは、この狂気の強盗犯ではなくて、むしろ弟や救命士のような善意の人々が止むにやまれず撃った弾丸である、というのもある種の皮肉か。そうした偶然をその身体に引き受けて、なおも虚無的な調子を失わないそのまなざしが、この映画を支配している。