宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2022年3月に読んだ本と近況

大きな環境の変化もありましたが、やっていきますわよ。

先月の。
2022年2月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

印象に残った本

 1冊選ぶなら長谷正人『敗者たちの想像力』。長谷先生にブログ記事を捕捉されたときは背筋がぴりつきました。過分な感謝の言葉をいただきマジで嬉しかったです。

amberfeb.hatenablog.com

 

読んだ本のまとめ

2022年3月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:3582ページ
ナイス数:126ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly/2022/3

 

■現代の現代性――何が終わり、何が始まったか (岩波講座 現代 第1巻)
 2015年から刊行されたシリーズで、社会科学・人文科学を中心とした識者がこの総論的な一巻に論考を寄せ、各巻で各論に踏み込むような構成(になっているはず)。 各論考の長さはまちまちで、ジョン・ダワーは超長くて斎藤美奈子は6ページほどだったりする。ポスト東日本大震災という雰囲気が濃く、7年の時を経たいま読むと時代の雰囲気が濃厚に感じられる(それは必ずしも古びているということではない)のがおもしろい。科学技術論である中島秀人の文章をとりわけおもしろく読みました。
 これはシリーズ拾い読みしてみようかと思ったんですけど、ごつくて持ち運びが億劫なので挫折。
読了日:03月05日 著者:
https://bookmeter.com/books/9877923

 

■自発的隷従論 (ちくま学芸文庫)
 フランス、ルネサンス期に書かれ、さまざまな思想家に霊感を与えてきた小文。圧政はそのおこぼれにあずかる連中によって支えられ、それに民衆が自発的に隷従することで完成する。いかにも人文主義的な感じを与えるレトリックに時代が刻印されているが、書かれている機制は普遍っぽい感じがする。
読了日:03月05日 著者:エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ
https://bookmeter.com/books/7703474

 

■一〇年代文化論 (星海社新書)
 「残念」という語彙の含意が2000年代後半から変わってきたことを後付け、そうした「残念」さのポジティブな捉え返しに10年代文化のトーンを見出す。ある種の自虐の身振りのコモディティ化みたいなことをなんとなく思い、いま並行して読んでる太田省一『社会は笑う』とつなげてなんか頭の中がはっきりしてくるようなそうでないような…。
 わたくしにとっての10年代を総括するなら、「黄昏と殺伐」ですね。

 読了日:03月06日 著者:さやわか
https://bookmeter.com/books/7964541

 

■砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか? (星海社新書)
 2018年のロシアワールドカップを前に突如解任された日本代表監督、ヴァイッド・ハリルホジッチ。その目指したサッカーを、現代サッカーのエリア戦略と歴代日本代表の課題から位置づける試み。ある種の現代サッカー入門として非常におもしろく読めて、テレビで漫然とみていた攻防にはこういう陣地の占有と利用をめぐる戦略的なアイデアがあったんやなーと大変勉強になりました。ロシアワールドカップの結果についてはおそらく著者の予想は裏切られただろうが、でもあれは長期的にみてよくない勝利だったよなとの感を改めて強くもった。
 次回ワールドカップ、地獄みたいなグループにはいったらしいですね。まあどこでも地獄だとは思うけど...。
読了日:03月10日 著者:五百蔵 容
https://bookmeter.com/books/12818520

 

■「利他」とは何か (集英社新書)
 「利他」という主題はぼんやり共有されているが、それが前景化しているのは伊藤講演くらいで、そのほかは近々の問題関心を語っているような印象。國分功一郎は『中動態の世界』のイントロと語り残したこと(責任概念について)なんかを簡潔に述べていて勉強になりました。
読了日:03月12日 著者:伊藤 亜紗,中島 岳志,若松 英輔,國分 功一郎,磯崎 憲一郎
https://bookmeter.com/books/17610041

 

日本哲学の最前線 (講談社現代新書)
 2010年代の日本語圏の哲学を、6人の著者に代表させて不自由論という観点から眺める試み。参考文献が必ずしも適切に提示されていない(鬼界彰夫が「J哲学」という言葉を提唱したのはなんの論文なのよ!)が、議論の俎上にのせるそれぞれの著書に対する読みは誠実だし、全体の構図も明快で存外よい本でした。
読了日:03月15日 著者:山口 尚
https://bookmeter.com/books/18271186

 

■敗者たちの想像力――脚本家 山田太一
 山田太一のドラマは「敗者」を「社会的敗者の位置から成り上がっていく「勝利」の過程においてではなく、反対に「敗者」であるままでいかに肯定し救済し得るかを問うた作品」なのだとし、その可能性を探る。大胆に自身の視聴体験を語りつつ、しかし自分語りに堕さずに作品に寄り添う語りは極めてスリリング。山田のドラマにまったく接したことのないわたくしでも大変おもしろく読みました。
読了日:03月19日 著者:長谷 正人
https://bookmeter.com/books/5180357

 

■社会は笑う・増補版: ボケとツッコミの人間関係 (青弓社ライブラリー)
 80年代のマンザイブームがいかに笑いという体験を変え、そしてそれが社会にどのように波及したかを辿る。「大事なのは、「仲間」での内輪ウケの構図をいかにして維持するかということのほうである。ただしその場合、単純に外部の異文化を排除したり、無視したりするということにはならない。むしろ異文化は、内輪ゥケの普遍性を保証するために、さまざまな表象として活用される。」など、なるほどなーという指摘にしばしば遭遇し大変おもしろく読みました。
読了日:03月19日 著者:太田 省一
https://bookmeter.com/books/6880350

 

■文学国語入門 (星海社新書)
 大塚が『物語の体操』や『ストーリーメーカー』で試みた実践、すなわち物語の作者を育てることで市民社会の担い手を鍛えるという目論みを反対方向から行おうとしているようにも思える。すなわち、そもそも作者ではなく「読者」を育てるため、テクストを読む方法論を提示しようという試みである、と。あとがきから、大塚はかつての戦略を捨てたわけではないようにも思えるけれど、近著を読むとそうした実践がかならずしもうまくいかなかったことを踏まえての方向転換のような気がするのだよな。終章の扇状的な題は星海社の下品な編集者がつけたのか?
読了日:03月20日 著者:大塚 英志
https://bookmeter.com/books/16780915

 

山崎豊子と<男>たち (新潮選書)
 山崎豊子が戦後の大衆作家のなかで誰よりも「男らしい」男を描き得たのはなぜか。山崎の作品を追いそのなかで描かれる「男の中の男」のあり方を探る試み。『白い巨塔』や『華麗なる一族』のなかでは男らしい男は悪漢として描かれたが、その後敗戦という敗北を引き受けた男たちが善性を備えた男として現れる、とおおよそ整理できるだろうか。大澤の著作のなかでは極めてリーダブルでたいへんおもしろく読みました。
読了日:03月21日 著者:大澤 真幸
https://bookmeter.com/books/11778541

 

■思想家の自伝を読む (平凡社新書)
 著者の博覧強記ぶりにふえ〜ってなったんだけど、不良中年を自称するおっさんの文体はめっちゃ痛々しいよ。東浩紀への当てこすりみたいな文字列が散見され、不良ってのがそうやって名前の売れた書き手をくさす免罪符になると思ってるならマジで終わってるわね。でも勉強になったのはほんと。
読了日:03月22日 著者:上野 俊哉
https://bookmeter.com/books/616476

 

■隔たりと政治―統治と連帯の思想―
 『現代思想』などなどに発表された論考をまとめたもの。とりわけ大学改革と官僚、官邸との関係を論じた4章、5章、漫画版『風の谷のナウシカ』を論じた「ナウシカニヒリズム」などおもしろく読みました。
読了日:03月24日 著者:重田園江
https://bookmeter.com/books/13235853

 

■その街の今は (新潮文庫)
 大阪の街で生活する女性の目で眺められた世界と人間。古い8ミリフィルムを収集するのが趣味だと作中の人物が語る時、柴崎の小説を手に取る人間がそういう趣味に親しみを感じないわけがないので、あざといな〜となる。大阪の地理に明るいともっとおもしろく読めるのだろうなとは思った。
読了日:03月26日 著者:柴崎 友香
https://bookmeter.com/books/579873

 

■モダンのクールダウン (片隅の啓蒙)
 久しぶりの再読なんだけどやっぱり筋を追うのがめっちゃむずいわよ!東浩紀の郵便的脱構築の議論と永井均「解釈学・系譜学・考古学」を対比して「あり得なかった可能性」に対するスタンスの綾を論じるあたりはとりわけおもしろく読みました。
読了日:03月30日 著者:稲葉 振一郎
https://bookmeter.com/books/375668

 

近況

みえない風を探して——映画『ブルーサーマル』感想 - 宇宙、日本、練馬

ずっと続いてゆく、きっと続いてゆく——『小林さんちのメイドラゴンS』感想 - 宇宙、日本、練馬

暗闇にようこそ——『THE BATMAN-ザ・バットマン-』感想 - 宇宙、日本、練馬

啓蒙か、希望か——『ドント・ルック・アップ』感想 - 宇宙、日本、練馬

弱い男の運命——『パワー・オブ・ザ・ドッグ』感想 - 宇宙、日本、練馬

旅の終わりのさみしさと——『ゆるキャン△ SEASON2』感想 - 宇宙、日本、練馬

黄昏時に「よく生きる」こと——『ベルファスト』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

来月の。

amberfeb.hatenablog.com