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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

みえない風を探して——映画『ブルーサーマル』感想

ブルーサーマル―青凪大学体育会航空部― 3巻: バンチコミックス

 『ブルーサーマル』をみたので感想。

 日本列島、東京。大学進学をきっかけに長崎から上京してきた少女、都留たまきは、アクシデントから航空部に所属することになる。思いもよらぬ大学生活を送ることになった彼女の、奮闘と成長を描く。

 小沢かなによる漫画『ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-』をアニメ映画化。監督は『ばらかもん』、『プリンセス・プリンシパル』の橘正紀、アニメーション制作はテレコム・アニメーションフィルム。谷野美穂によるキャラクターデザインは素朴な味わいでキュート。

 まず、大学の航空部、グライダーの飛行という題材が新奇でおもしろい。原作者の小沢は実際に大学時代に航空部で活動していたというが、これは確かに経験者でなければ描けないだろうなと感じる。たとえば最初にヒロインが妻沼飛行場に見学に訪れる場面など、そもそも「ワイヤーで引っ張って飛ばす」ということすらわたくし知らなかったので、ディティールに驚きの連発。工具を失くして怒られるシーンのいやーな雰囲気とか、おそらく実際の経験に取材してるんではないかと思うのですが、胸が悪くなるリアリティ感覚があって非常によかった。

 そうしたまさに現場感覚の航空描写のディティールの厚みが魅力的である一方で、キャラクターの造形がやや陳腐で、そんな適当で強引な勧誘の仕方ある?とか、先輩の高圧的な態度が普通に最悪とか、しばらく会ってない姉の距離感がおかしくないか?とか、態度や言動が大学生にしては幼稚すぎると感じる場面が散見され、作品世界に没入できない感覚はつねにあった。陳腐といえば、消えた先輩のため大会優勝を目指す、という筋立てもまさにそうで、そのようなわかりやすい課題設定よりも、彼女たちの日々の活動のディティールが積み重ねられていくのをもっとみたかった。それはおそらく、映画館ではなくTVシリーズという形態のほうが適当なのだろうという気はするけれど...。

 それはともかく、飛行のシーンは劇場で映えていて、熊谷や木曽川沿い、日本アルプスを眼下に眺めて飛行する場面はよかった。熊谷とか、これ『翔んで埼玉』で映った気がする!みたいなのもあり...。タイトルの「ブルーサーマル」とは目に見えない上昇気流の意とのことだが、その目に見えないものを大げさに描写したりせず、わずかな振動を感受するヒロインの感性でもってみえないままに観客に投げ渡したのはお見事だったでしょう。エンジンの推力による力強い飛翔ではなく、ただ風にその身をゆだねる飛行、それを体現するようなドラマがこの作品に備わっていたら...と想像せずにいられませんでした。