宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

ゾンビは小津に負けたってよ——アニメ『思い、思われ、ふり、ふられ』感想

思い、思われ、ふり、ふられ(完全生産限定版) [Blu-ray]

 プライムビデオで配信が終わるというので、アニメ版『思い、思われ、ふり、ふられ』をみました。以下、感想。

 引っ込み思案な少女は、自身の住むマンションに引っ越してきた活発な少女と偶然出会う。方や運命の王子様に恋焦がれ、方や遠距離恋愛中の彼氏がいるというこの二人と、それぞれの幼馴染、義理の弟とが、思いもよらぬ関係を結んでいく。

 『アオハライド』などで知られる咲坂伊緒による漫画のアニメ映画化。監督は『少年ハリウッド』の黒柳トシマサ、脚本は『ぼっち・ざ・ろっく!』でいまをときめく吉田恵里香。実写映画と同時期に公開という企画だったようだが、画面におざなりな感じはまったくなく、手堅い背景美術にプロップのディティールもぬかりがない。コンビニの描写など、新海誠監督『秒速5センチメートル』に匹敵する密度だったので素朴に驚いた。お話もスマートに整理され、きちんと映画としての格をもっているのがうれしい。

 おそらくこの漫画のおもしろさは「ふり、ふられ」というアクションを軸にドラマを駆動させていくところだと推察するが、場面ごとに雨や雪、紙吹雪が「降る」のはかなり律儀でおもしろい。映画製作者志望の少年が小津安二郎風の映画に愛着を表明したりする(でも小津映画だったら「20年前」公開じゃねえよなあとか思っちゃうんだけど)ことがその後の展開の導線になっていたりするのも気が利いている。これでこの少年が『鉄男』とかゾンビ映画好きだったら一気に『桐島、部活やめるってよ』になってまう!しかし『桐島』公開時はさえないやつらのよりどころとしてぎりぎりアリだった映画秘宝的なものは、この10年で一気に「ださい」ものになってしまった気がする。これは差異化のゲームの進行の結果なのかわからんが、とにかくよいことでしょう。

 話がそれた。結部、家族の亀裂が前景化する展開は、あの母親のパーソナリティをヒロインも少なからず受け継いでいるような感触もあって、もっとドラスティックな展開を想像したりもしたのだけど、まあそれは野暮ってものでしょう。みんながみんな『フェイブルマンズ』の境地に達していたらそれはそれでとてもつらいに違いない。