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団地と飢餓と冒険——『雨を告げる漂流団地』感想

映画「雨を告げる漂流団地」Original Soundtrack

 Netflixで『雨を告げる漂流団地』をみました。劇場公開と同時配信だとよっぽどの思い入れがないと劇場に足を運ばなくなってしまった。以下、感想。

 いままさに、取り壊されようとしている団地。すこし前までそこに住んでいた小学6年生の少年、熊谷航祐は、友人の自由研究を口実に解体工事中の団地にいざなわれ、同じくかつて団地に住んでいた幼馴染の少女が忍び込んでいることを知る。そして少年少女たちは団地とともにいきなり異界へと運び去られ、夢か現かも判然としないまま、大海を漂流することになる。

 『ペンギン・ハイウェイ』のスタジオ・コロリドおよび石田祐康監督によるオリジナル劇場長編。Netflix配信、またキャッチ―なバンドを挿入歌に起用しているあたりは同スタジオの『泣きたい私は猫をかぶる』と重なる。永江彰浩によるキャラクターデザインは素朴で柔らかく、どこか温かみを感じさせる。『陽なたのアオシグレ』以来、このスタジオの魅力はこのキャラクターによるところが大きいと改めて感じた。

 一方で、脚本はどうも展開に起伏が乏しく、画の魅力によってなんとか見ていられるが残念ながらおもしろい映画だったとは言い難い。唐突に異界に運び去れられた小学生にそこで果たすべき大きな目的などあろうはずもなく、しかも団地一棟という空間はサバイバルのために探検するには刺激が少なすぎる。団地はなによりその内部の均質性によってこそ団地たりえるわけで、住民が既に引っ越した団地は均質な箱以上のものではない。

 少年少女たちに『野火』のような限界状況でのサバイバルをさせるはずもなく、一方で『二年間の休暇』のように未知の世界を冒険する余地もない。団地という舞台はノスタルジーを誘うが、この物語にふさわしい舞台とは到底いえなかったと思う。少年少女たちの身体は容赦なく傷つき、血も流れるが、一方でパルクールばりのアクションやどう考えても骨折ものではないかという負荷がかかっても大事には至らなかったりして、そのあたりのバランス感覚も判然としない。全体として、作品世界を統御する思想がみえてこなくて、それがみていてどうにもすわりの悪い感覚を喚起するようなところがある。

 今年の秋口に公開された団地アニメとしては、優れた原作をもち、かつ適切な脚色がなされた『ぼくらのよあけ』はキャラクターデザインが原作の絵の魅力を殺しているという大きな瑕疵があり、一方でこちらはキャラクターデザインの魅力でどうにかみていられるが作品世界の設計もドラマもどうにもこなれていない感じで、ううむという感じですな。わたくしが映画を十分に楽しめる精神状態でないのがよくないかもしれないが...。

 

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ペンギン・ハイウェイ』はすぐれた作品だと思うんで、またすぐれた原作ないし脚本をアニメ化する機会に恵まれたら...と強く思います。

 

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