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手加減のない未来へ——『地球外少年少女』感想

【映画パンフレット】地球外少年少女 前編「地球外からの使者」

 磯光雄監督の最新作、『地球外少年少女』をみました。前編を劇場でみて、我慢できずに帰宅後に後半を一気見してしまいました。いや見事な作品でした。以下、感想。

 2045年、日本製の宇宙ステーション「あんしん」で、少年少女たちは事故に巻き込まれる。宇宙生まれの少年少女と、地球からきた少年少女はなんとか生存の道を探り宇宙ステーションを探索するが、そこにはテロリスト、あるいは狂気に陥って「殺処分」されたかつての超高性能AI、「セブン」の影がほの見える。

 凄腕のアニメーターとして広く知られる磯光雄の、『電脳コイル』以来15年ぶりとなる最新作は、宇宙を舞台にしたジュブナイルSF。Netflixで全6話が配信され、前編・後編にわけて劇場公開されるが、これ前編みたらすぐ後編みたくなると思うので、商売的にはどうなんでしょうね。しかし、全6話というスケール感で過不足なくドラマを語り切り、かつ想像以上に遠い場所までのビジョンを見せてくれる、極めて優れたストーリーテリングがなされている。

 キャラクターデザインには『交響詩篇エウレカセブン』や『Gのレコンギスタ』の吉田健一。絶妙な塩梅でわざとらしくないレベルに記号的なキャラクターは、ルックでその性格をなんとなくこちらに伝え、短時間でキャラが立つので活劇への移行が極めてスムーズ。『電脳コイル』と同様、身近な近未来ガジェットの提示の仕方と、それをスムーズに活用するアイデアは極めて巧妙。AI搭載のドローンは『電脳コイル』におけるメガネのような「高性能おもちゃ」的な雰囲気もあり、それらが跋扈してAR空間が立ち上がるアクションシーンは『電脳コイル』の正統進化のようなおもむきもある。遠い未来というよりは、我々の知りうる現代の先端技術がより洗練され一般化した、手の届きそうな未来のビジョンを提起するこのバランス感覚は、磯光雄という作家の才能の一つだろうか。

 一方で、この『地球外少年少女』の2045年という未来は明るいだけではない。宇宙で生まれた少年を多額の経済的コストを払って「生かしている」ことを非難しているらしいことが仄めかされるが、それは日本列島の社会が経済的な余裕をいよいよ喪失している我々の「いま」と共振するがゆえに挿入されているようにも思える。超高性能AI「セブン」のもたらした事故をきっかけに、AIには強力な規制がなされるようになり、技術の進歩に対して希望を失いつつあり、そして人口問題や環境問題など、現在の我々が想定する破局的な問題も必ずしも解決されていない、そのような未来として、この作品の2045年は設定されている。

 『地球外少年少女』はそうした閉塞した現在を少年少女が打破し、そして遥かな未来を拓いていく、そのような物語を語ってみせる。そうした飛躍を可能としたシチュエーションが、彗星を落下させ人類のおよそ3分の1を葬る、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を彷彿とさせるテロリストの計画であり、しかもその対処の仕方と結末とは見事なアップデートがなされていて、『逆襲のシャア』に作画監督としてクレジットされた磯光雄という作り手が、見事にそれを乗り越えてみせたという感じがする。そして宇宙への扉がほとんど無法なかたちですべての少年少女に、あるいは人類すべてに開かれ、物語は終わる。

 あくまで少女と少年のささやかな成長譚に徹した『電脳コイル』から一転、この『地球外少年少女』は宇宙規模のスケールまで無法に飛躍してみせたが、しかしそれでも少年少女が「ゆりかごの外」に踏み出すという点で、ジュブナイルSFの精神性は見事に継承されている。ほんとうによい作品をみたという気持ちになる、快作でした。

 

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 あ、最後は時空検閲官の部屋から『エヴァ破』みたいな展開になるし、実質エヴァンゲリオンだといえます。

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電脳コイル』との関連でいえば、ミイナとハカセ姉弟は、フミエとアキラの姉弟を想起させますよね。弟役を演じているのはどちらも小林由美子氏だし。トウヤはどことなくダイチっぽい感じもあるし。ゼロ年代ベストテレビアニメのひとつは『電脳コイル』!と信じるわたくしですが、久しく再見していないので、この機に見返そうかしら。

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【作品情報】

‣2022年
‣原作・監督・脚本:磯光雄
‣キャラクターデザイン:吉田健一
‣メインアニメーター:井上俊之
‣音楽:石塚玲依
‣アニメーション制作:Production +h.

‣出演