宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2020年の回顧(と展望)

  今年は到底予想もできないようなドタバタぶりで、個人的にも大きな転機があった年だったのですが、ひとまず無事に年を越せそうで安堵しています。来年もそうありたいものです。以下、今年の振り返りを簡単に。

昨年のものはこちらです。

2019年の回顧(と展望) - 宇宙、日本、練馬

 2020年新作映画ベスト10

  1. 『Mank/マンク』
  2. 『レ・ミゼラブル』
  3. 劇場版『SHIROBAKO』
  4. 『魔女見習いをさがして』
  5. 『滑走路』
  6. 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
  7. 『TENET テネット』
  8. 『はちどり』
  9. 『1917 命をかけた伝令』
  10. 『ジョゼと虎と魚たち』

  以上。

 『Mank/マンク』は、政治と芸能の緊張関係という現代的な主題を、栄光ある過去に全体重を賭けて託すことによってある種の普遍性を獲得した見事な作品であったと思います。ゲイリー・オールドマンをはじめとしてモノクロの画面に名優の渋い演技が光ったが、とりわけアマンダ・セイフライドの風格はすんばらしかった。

 ひきくらべると、『レ・ミゼラブル』は現代性の極北のような地点にスポットライトを当て、かつ極めてすぐれたジャンル映画のような手触りをもった作品だった。白黒はっきり区別のつかない人間たちの蝟集する団地で、それでも正義に忠実であろうとする試みの価値と無価値。

 この歴史的な災禍のただなかにある2020年という年に、逆境からの再起を描いた劇場版『SHIROBAKO』が公開されたことには、今思い返すと素朴に励まされるところがある。テレビシリーズで活躍した面々がほとんどもれなく画面に映ってくれる同窓会映画でもあるが、往々にして遅々たるものである我々の人生の歩みそのものを肯定してくれるという意味でも、とてもあたたかな映画であった。

 「メガネを捨てた大人たち」*1である我々にとって「魔法」≒フィクションとは何か、ということに誠実に回答を与えた『魔女見習いをさがして』も今年の秀作の一つである。フィクショナルな意味での魔法に残酷な機能を与えたうえで、我々の日常のささやかな魔法を信じることの責務を説いた、極めて啓蒙的な物語であったと思う。馬越嘉彦のキュートなキャラを劇場で拝めることの幸福!

 『滑走路』はとにかく抽象度の高い画面の力が強烈で、しかもそれを利用した脚本の仕掛けも巧みであった。自死というセンシティブな題材を扱う手つきは誠実で、かつ結局なにもよいことなどおこらないのだが何故か異様な爽快さが訪れるラストの映画的詐術には痺れました。

 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』は、あのほとんど犯罪ともいえる『スカイウォーカーの夜明け』の仇をライアン・『最後のジェダイ』・ジョンソンがとってくれたことに大変大きな安堵を覚えた。遺産は誰が継がねばならないか、その答えはライアン・ジョンソンの中では明確であったのだ。犯人を演じた男の代表作のことを想起するならば、相当の皮肉もきいている。そのような無数の文脈読みは抜きにしても、クラシカルな道具立てで開幕したかと思いきや二転三転するドラマは素朴に楽しくみました。

 『TENET テネット』はこの災禍のなかでほとんど唯一公開されたブロックバスター的な超大作だと思うのだが、期待にたがわぬ大仰さとばかばかしさ、そしてそれをマジでやってみせる誠実さに強い愛着を感じる。『ディスコ探偵水曜日』的舞城王太郎イズムをわたくしは高く買いたい。

 『はちどり』の描いたミニマルで息苦しい世界と、そのなかでもがく少女の姿は強く印象に残る。フラジャイルな思春期の心情を繊細な手つきで映し出す一方で、フェミニズム的な主題系を巧妙に取り入れた点も上手い。いささか散漫ではあるが、その散漫さが罪にならないのはひとえに主演の強烈な魅力故だろう。

 『1917 命をかけた伝令』は、もう見世物としてはこれ以上ないのではないかというサービス精神にあふれた、あまりにリッチな娯楽映画だったと思います。疑似ワンカットの映像のなかで、ここまで多種多様な画をみせてくれるのか、という驚き。

 『ジョゼと虎と魚たち』は、ドラマ上の瑕疵も少なくないとは思うが、背景美術とキャラクターの織り成す作品世界の強固さと、それを見事に切り取って見せるレイアウトの妙のもたらす快楽は今年のアニメ映画のなかで随一であったと思います。

 上記以外にも『どうにかなる日々』、『フォードvsフェラーリ』などもよかったし、また作品の出来は抜きにして劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデンには強く心を動かされました。

2020年みた映画まとめ

劇場で鑑賞したのは、旧作込みで34本。

 

自宅視聴まとめ

 メモしたのは30本。

2020年の10冊

 

2020年にみたアニメ

 含再見。

各月のまとめ

 今年はこういう状況なので個人誌は出せずでしたが、2010年代を振り返る時間をとれたのでよかったのかもしれません。来年はやります。やりますよ。

amberfeb.hatenablog.com

 

*1:cf.『電脳コイル