今年は到底予想もできないようなドタバタぶりで、個人的にも大きな転機があった年だったのですが、ひとまず無事に年を越せそうで安堵しています。来年もそうありたいものです。以下、今年の振り返りを簡単に。
昨年のものはこちらです。
2020年新作映画ベスト10
以上。
『Mank/マンク』は、政治と芸能の緊張関係という現代的な主題を、栄光ある過去に全体重を賭けて託すことによってある種の普遍性を獲得した見事な作品であったと思います。ゲイリー・オールドマンをはじめとしてモノクロの画面に名優の渋い演技が光ったが、とりわけアマンダ・セイフライドの風格はすんばらしかった。
ひきくらべると、『レ・ミゼラブル』は現代性の極北のような地点にスポットライトを当て、かつ極めてすぐれたジャンル映画のような手触りをもった作品だった。白黒はっきり区別のつかない人間たちの蝟集する団地で、それでも正義に忠実であろうとする試みの価値と無価値。
この歴史的な災禍のただなかにある2020年という年に、逆境からの再起を描いた劇場版『SHIROBAKO』が公開されたことには、今思い返すと素朴に励まされるところがある。テレビシリーズで活躍した面々がほとんどもれなく画面に映ってくれる同窓会映画でもあるが、往々にして遅々たるものである我々の人生の歩みそのものを肯定してくれるという意味でも、とてもあたたかな映画であった。
「メガネを捨てた大人たち」*1である我々にとって「魔法」≒フィクションとは何か、ということに誠実に回答を与えた『魔女見習いをさがして』も今年の秀作の一つである。フィクショナルな意味での魔法に残酷な機能を与えたうえで、我々の日常のささやかな魔法を信じることの責務を説いた、極めて啓蒙的な物語であったと思う。馬越嘉彦のキュートなキャラを劇場で拝めることの幸福!
『滑走路』はとにかく抽象度の高い画面の力が強烈で、しかもそれを利用した脚本の仕掛けも巧みであった。自死というセンシティブな題材を扱う手つきは誠実で、かつ結局なにもよいことなどおこらないのだが何故か異様な爽快さが訪れるラストの映画的詐術には痺れました。
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』は、あのほとんど犯罪ともいえる『スカイウォーカーの夜明け』の仇をライアン・『最後のジェダイ』・ジョンソンがとってくれたことに大変大きな安堵を覚えた。遺産は誰が継がねばならないか、その答えはライアン・ジョンソンの中では明確であったのだ。犯人を演じた男の代表作のことを想起するならば、相当の皮肉もきいている。そのような無数の文脈読みは抜きにしても、クラシカルな道具立てで開幕したかと思いきや二転三転するドラマは素朴に楽しくみました。
『TENET テネット』はこの災禍のなかでほとんど唯一公開されたブロックバスター的な超大作だと思うのだが、期待にたがわぬ大仰さとばかばかしさ、そしてそれをマジでやってみせる誠実さに強い愛着を感じる。『ディスコ探偵水曜日』的舞城王太郎イズムをわたくしは高く買いたい。
『はちどり』の描いたミニマルで息苦しい世界と、そのなかでもがく少女の姿は強く印象に残る。フラジャイルな思春期の心情を繊細な手つきで映し出す一方で、フェミニズム的な主題系を巧妙に取り入れた点も上手い。いささか散漫ではあるが、その散漫さが罪にならないのはひとえに主演の強烈な魅力故だろう。
『1917 命をかけた伝令』は、もう見世物としてはこれ以上ないのではないかというサービス精神にあふれた、あまりにリッチな娯楽映画だったと思います。疑似ワンカットの映像のなかで、ここまで多種多様な画をみせてくれるのか、という驚き。
『ジョゼと虎と魚たち』は、ドラマ上の瑕疵も少なくないとは思うが、背景美術とキャラクターの織り成す作品世界の強固さと、それを見事に切り取って見せるレイアウトの妙のもたらす快楽は今年のアニメ映画のなかで随一であったと思います。
上記以外にも『どうにかなる日々』、『フォードvsフェラーリ』などもよかったし、また作品の出来は抜きにして『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』には強く心を動かされました。
2020年みた映画まとめ
- 『アナと雪の女王2』
- 『フォードvsフェラーリ』
- 『1917 命をかけた伝令』
- 『キャッツ』
- 『リチャード・ジュエル』
- 『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
- 『SHIROBAKO』
- 『レ・ミゼラブル』
- 『ミッドサマー』
- 『Fukushima 50』
- 『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
- 『AKIRA』IMAXレーザー版
- 『はちどり』
- 『もののけ姫』
- 『千と千尋の神隠し』
- 『風の谷のナウシカ』
- 『Fate/stay night [Heaven's Feel] III.spring song』
- 『2分の1の魔法』
- 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
- 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
- 『TENET テネット』
- 『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』
- 『どうにかなる日々』
- 『罪の声』
- 『魔女見習いをさがして』
- 『Mank/マンク』
- 『羅小黒戦記〜ぼくが選ぶ未来〜』
- 『劇場版 Fate/Grand Order 神聖円卓領域キャメロット 前編 Wandering; Agateram』
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
- 『滑走路』
- 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』
- 『佐々木、イン、マイマイン』
- 『ジョゼと虎と魚たち』
劇場で鑑賞したのは、旧作込みで34本。
自宅視聴まとめ
- 『バーニング・オーシャン』
- 『ウインド・リバー』
- 『アナと雪の女王』
- 『空飛ぶタイヤ』
- 『グエムル』
- 『ブラック・クランズマン』
- 『ニンゲン合格』
- 『バリー・シール/アメリカをはめた男』
- 『ホットギミック ガールミーツボーイ』
- 『翔んで埼玉』
- 『いぬやしき』
- 『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』
- 『8 1/2』
- 『天国はまだ遠い』
- 『殺人の追憶』
- 『関ヶ原』
- 『弁護人』
- 『柳生一族の陰謀』
- 『家族ゲーム』
- 『アス』
- 『七つの会議』
- 『移動都市/モータル・エンジン』
- 『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
- 『クリード 炎の宿敵』
- 『シカゴ7裁判』
- 『ブルース・ブラザース』
- 『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』
- 『泣きたい私は猫をかぶる』
- 『ハッピーアワー』
- 『脳男』
メモしたのは30本。
2020年の10冊
- 佐藤亜紀『黄金列車』
- 小熊英二『1968』
- 米澤穂信『巴里マカロンの謎』
- 劉慈欣『三体Ⅱ 黒暗森林』
- テッド・チャン『息吹』
- 小野不由美『白銀の墟 玄の月』
- 法月綸太郎『ふたたび赤い悪夢』
- 戸田山和久『教養の書』
- カミュ『ペスト』
- 司馬遼太郎『韃靼疾風録』
2020年にみたアニメ
- 『小林さんちのメイドラゴン』
- 『攻殻機動隊 SAC_2045』
- 『とらドラ!』
- 『刻刻』
- 『PSYCHO-PASS サイコパス 3』
- 『鬼滅の刃』
- 『学園戦記ムリョウ』
- 『日本沈没2020』
- 『ツルネ -風舞高校弓道部-』
- 『世界征服〜謀略のズヴィズダー〜』
- 『リトルウィッチアカデミア』
含再見。
各月のまとめ
- 2020年1月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年2月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年3月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年4月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年5月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年6月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年7月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年8月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年9月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年10月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年11月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
- 2020年12月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬
今年はこういう状況なので個人誌は出せずでしたが、2010年代を振り返る時間をとれたのでよかったのかもしれません。来年はやります。やりますよ。