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余白の息づかい——映画『どうにかなる日々』感想

どうにかなる日々 新装版 みどり

 映画『どうにかなる日々』をみました。以下、感想。

  かつての恋人の結婚式。男子校の卒業式。従姉が転がり込んできた夏休み。文化祭前。それぞれに積み重なっていく時間。

 志村貴子による同名短編集から、4篇をセレクトしてアニメ映画化。監督は佐藤卓哉。アニメ化に際して、おそらく性交渉の場面がそれほど前景化しないものがセレクトされたのかなと推察され、また近親相姦の話もまあ避けるだろうなとは思っていたけれど、いくつかあった幽霊話はどれも外されていて、それはちょっと意外だった。また、3篇目と4篇目は連作エピソードを選んでいて、これも意外。

 挿話の選択によって、大きな出来事というよりは、食事や睡眠のような生活上のワンアクションとして性行為が日常化しているような塩梅があり、志村貴子のデザインを活かした柔らかな雰囲気のキャラクターデザインもあって、挿話の下世話さに対して上品な感じを失っていない点は美点でしょう。都市の環境音のなかに出演声優のつぶやきのような声が混じっているなかでクレジットがあらわれる冒頭は、なんだかありふれたミニシアター映画のような趣もあり、そうした立ち位置を狙っていたのかなとなんとなく感じる。

 さて、志村貴子の漫画のアニメ化といえば、『青い花』、『放浪息子』とあるわけですが、いずれも原作未完のなかで、テレビシリーズとして区切りをつけてみせた『青い花』、原作を組み換え、またほとんど異様な密度で作品世界を構築してみせた『放浪息子』と比べると、この『どうにかなる日々』はポジティブな意味でコンサバティブというか、原作の雰囲気をはっきりアニメという場に移そう、という意志が感じられた気がする。端的にいえば、志村貴子という作家の生み出した余白が、この映画化においてもなお生きている。そうした余白に生じては消えてゆく感触のようなものが、「どうにかなる日々」を形作るものであるなら、この余白の息づかいこそ原作の核心にあるものであり、どうにかして映画というかたちで再現しなければならなかったものなのかもしれない。その意味で、このアニメ化は見事な成功を収めていく、と思う。

 余白に生じる息づかいに身をゆだねているうち、1時間という短い時間はここちよく流れてゆき、映画館という空間に足を運んだ満足感がたしかにあったな、と思う。こういうアニメがつくられること、それは疑いなく一つの豊かさでありましょう。

 

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どうにかなる日々 新装版 みどり

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どうにかなる日々 新装版 ピンク

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【作品情報】

‣2020年

‣監督:佐藤卓哉

‣原作:志村貴子

‣脚本:佐藤卓哉、井出安軌、冨田頼子

‣演出:有冨興二

‣キャラクターデザイン:佐川遥

 

‣音楽:クリープハイプ

‣アニメーション制作:ライデンフィルム京都スタジオ

‣出演