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ネコと和解せよ――『キャッツ』感想

キャッツ - サウンドトラック

 『キャッツ』をみました。以下感想。

  道端に打ち捨てられた袋。中には白ネコ。選ばれしものが天上に上り幸福な転生を遂げるらしいというその晩、我々はネコたちの世界へと足を踏み入れる。

 ブロードウェイでロングランを記録した超有名ミュージカルを、トム・フーパーが映画化。主にネコちゃんたちのヴィジュアル面で公開前から悪評に晒されていた感があり、わたくしもまた不気味さを感じていた一人ではありますが、これは人間でもなく猫でもなく、ネコの映画だということはスクリーンを眺めているうちに自ずと感得されてくるので、本編をみていると予告編を交通事故的に目撃した時の不気味な印象はきえ、この奇妙な異世界にしばらく身をゆだねてみようという気になってくる。

 『レ・ミゼラブル』でミュージカルの映画化というプロジェクトに取り組んではいたトム・フーパー氏ではあるが、我々があまたの創作物を通して知る19世紀フランスの世界を再現し、いわば我々の先入観と幸福な共犯関係を結ぶことができた『レ・ミゼラブル』に対し、この『キャッツ』では人間風情に知ることのかなわぬネコちゃんたちの世界を現前せしめねばならぬというまったく方向性の違う挑戦を課されているのであって、先入観と怠惰にたわむれることで己を慰撫する人類の多くがこの挑戦の成果物に理解を示さぬのも、悲しいかな必定といえよう。

 しかしこのプロジェクトを遂行するトム・フーパー氏にはおそらく一片の迷いもなく、非人間的なネコ的身体の所作がスクリーンの上で躍動する。このある種の確信こそ、この映画になんだか奇天烈な楽しさを充填しているのであり、そしてまた、わたくしが『スカイウォーカーの夜明け』に怒りを禁じえぬのも、この謎めいた確信ともいうべき信念の滲むショットがほとんど絶無であった点にあるのだと得心する。一方で『最後のジェダイ』にはそのようなショットがいくつもあったのであって、『最後のジェダイ』と『スカイウォーカーの夜明け』を決定的にわかつ分割線は、何が何でもこのことを語らねばならないという確信の有無なのだと思う。

 この『キャッツ』が映画として優れているのか、といわれれば、それはまったく別の問題なんだけど、少なくとも、作り手の確信と意志の鼓動が感受されるという点において、わたくしはこの作品を結構好きっぽいのです。

 

 

 

キャッツ - サウンドトラック

キャッツ - サウンドトラック

  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: MP3 ダウンロード