やっていきをやっていきです。
先月の。
印象に残った本
1冊選ぶなら戸田山和久『教養の書』。戸田山氏の啓蒙本はまじで楽しく読めるのでよいです。インターネットチンピラの自己啓発本読むくらいならこれと『論文の教室』よめばいいんですよ。
読んだ本のまとめ
2020年11月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3300ページ
ナイス数:120ナイス
https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly
■駿河城御前試合 (1983年) (河出文庫)
あの『シグルイ』の原作。無駄をほとんど削ぎ落としたような語り口に痺れるし、そこでドラマをドライブさせるのは、おおむね抑えることのかなわぬ肉欲であるあたりが生と死とか紙一重でせめぎ合うこの小説にふさわしいと感じる。「無明逆流れ」がおもしれえのは勿論のこと、最後の「無惨卜伝流」は気合の入り方がギア一つ違うなと思いました。
読了日:11月05日 著者:南条 範夫
https://bookmeter.com/books/494873
■砂の女 (新潮文庫)
「砂のがわに立てば、形あるものは、すべて虚しい。確実なのは、ただ、一切の形を否定する砂の流動だけである。」この逃れ得ぬ虚無に飲まれることで、逆説的に満足を得るという皮肉。居場所を見出したことで失踪する、あるいは逃げられる状況が与えられて逃げる気がなくなる、この相矛盾した感覚こそこの小説の真価という感じがする。
読了日:11月06日 著者:安部 公房
https://bookmeter.com/books/580862
■ローマ史再考: なぜ「首都」コンスタンティノープルが生まれたのか (NHKブックス 1265)
タイトルの「ローマ史再考」はやや大上段に構えすぎという感じで、副題にあるようにコンスタンティノープルがいかに帝国の首都としての地位を確立していったかが本書の主題。皇帝位をめぐる闘争の中で、帝国が分裂し次第にコンスタンティノープルのプレゼンスが高まっていくさまを丁寧に論ずる。
読了日:11月08日 著者:田中 創
https://bookmeter.com/books/16204514
■ユリイカ 2019年5月臨時増刊号 総特集◎橋本治
追悼文的なトーンの文章と過去に『ユリイカ』に掲載されたインタビューやら原稿やらの再録を所収。橋本が自身をある種の素人としてプレゼンテーションしようと試みるのはなるほど橋本治やなと思う。小谷野敦「文藝誌にフランス革命を!」はほめてるのかどうだかわからないけどまあ褒めてるみたいな感じが小谷野的と感じました。
読了日:11月08日 著者:橋本治,高野文子,高山宏,さやわか
https://bookmeter.com/books/13699485
■教養の書 (単行本)
こうした教養論のおもしろみは、結論ではなく、書き手がいかに手札を繰り出してくるのか、その語り口にかかっていると思うのだが、これは(あの『論文の教室』と同様に)サービス精神旺盛で非常に楽しく読みました。ジェームズ・キャメロンやタランティーノからフランシス・ベーコンまでを縦横に議論の俎上に上げて「教養」の輪郭と意義とを提示していく手つき、まさしく本書で提示される「教養」の実践でしょう。
読了日:11月10日 著者:戸田山 和久
https://bookmeter.com/books/15293975
■日本アニメ誕生
ある種の昔話であるのだからこういう印象は野暮かもしれないが、自慢話をしたいのね、という感じがすごい。テレビアニメ黎明期にSF界隈の人脈が影響力を持っていた、というのが平井和正らの挿話とともに語られるのはへえ〜という感じではあった。著者はヘイト本を出して小銭を稼いでいるようで(本書にも特定への国への誹謗中傷がひょろっと顔を出す)、うへえとなりました。
読了日:11月10日 著者:豊田有恒
https://bookmeter.com/books/16395117
■人間の解剖はサルの解剖のための鍵である
著者が『現代思想』などに寄稿したテクストを集めたもの。それぞれはさほど長くないが、それゆえこのようにまとまると著者の関心のありようがはっきりわかるという気もする。人文的な教養とドーキンスなど生物学などの知見とをごった煮的に料理してみせる腕力はこの書き手の魅力でしょう。
読了日:11月19日 著者:吉川浩満
https://bookmeter.com/books/12929490
■歴史人口学事始め (ちくま新書)
歴史人口学の泰斗が自身の生涯を回顧する。解説にあるように、体調不良のために後半以降は様々な原稿の寄せ集めだが、それでも十二分におもしろい。留学先のベルギーで歴史人口学と出会ったことを「運」と言い切る達観ぶりに唸る。半世紀前の中東旅行記のあたりは描写が分厚くてそれだけで読ませます。
読了日:11月26日 著者:速水 融
https://bookmeter.com/books/15067319
■ピーターラビットの謎―キリスト教図像学への招待
ピーターラビットの物語の裏には、キリスト受難の物語が隠されていたんだよ!な、なんだってー!本書の見立てを要約してしまうと陰謀説じみたこじつけに思えるが、著者の専門とするキリスト教図像学の丁寧なイントロダクションと、引用される場面のモチーフについての解説を読むと、これはなるほどなるほど、と思えます。専門家の目で「読む」とはこういうことなんやで、ということを教えてくれる好著。
読了日:11月27日 著者:益田 朋幸
https://bookmeter.com/books/58956
■中世の覚醒 (ちくま学芸文庫)
ヨーロッパ中世において、イスラム世界を経由してもたらされたアリストテレスの思想のインパクトがキリスト教を大いに揺るがし、やがては理性と信仰とか分離して近代科学が胚胎するまでを跡付ける。アリストテレスを『2001年宇宙の旅』のモノリスにたとえ、理性と信仰との絶えざる緊張関係と、それが生み出したダイナミズムを摘出する本書の筆致は、門外漢にもわからないなりにおもしろく読めるのがえらい。
読了日:11月28日 著者:リチャード・E. ルーベンスタイン
https://bookmeter.com/books/13116428
近況
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