もうひと波、来ますかね。
先月の。
印象に残った本
一冊選ぶなら小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』。遠く離れた場所の、わたくしなどが到底想像もしないような論理と倫理とで、しかし同時にわたくしたちと同じようにインターネット環境を駆使して生活する人たちのありようを垣間見る、極めてスリリングな読書体験でした。
読んだ本のまとめ
2021年11月の読書メーター
読んだ本の数:11冊
読んだページ数:2882ページ
ナイス数:123ナイス
https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly/2021/11
■情報生産者になる (ちくま新書)
自身のゼミでの指導経験をもとに、リサーチして論文を書く、その手順を教授する。KJ法をアップデートした情報整理法や、目次を絶えずアップデートしながら論文の骨組みを作っていく作業など、実際の手の動かし方をかなり細かく書いてくれているのが親切。わたくしはたぶんもう論文とか書かないんだけど、それでもなんとなく啓発される感じのアジテーションが気持ちよかったです。
読了日:11月01日 著者:上野 千鶴子
https://bookmeter.com/books/13054221
■ガールズ・メディア・スタディーズ
メディア文化における女性表象についての教科書的入門書。映画から広告、メイド喫茶など扱う対象は多岐に渡るが、とりわけおもしろく読んだのが、90年代における宮台真司の援交少女擁護の言説実践を、ササキバラ・ゴウ『<美少女>の現代史』を補助線に、「理解による支配」という概念で批判的に論じる東園子「女子高生ブームと理解による支配」。
読了日:11月04日 著者:田中 東子
https://bookmeter.com/books/18133293
■「私物化」される国公立大学 (岩波ブックレット NO. 1052)
近年の大学改革によって教授会の機能が弱まり学長の権限が強化された結果、各地の国公立大学で国や一部財界の意のままに「私物化」されている様を告発する。真理の探究を使命とする学問の府であるべしという大学教員の志と、税金が投入されているのだから「役に立つ」ことをせよという国家との葛藤・緊張関係が一気に噴出した例として、学術会議の問題ともパラレルだと思う。
読了日:11月07日 著者:駒込 武
https://bookmeter.com/books/18523604
■平成史―昨日の世界のすべて (文春e-book)
政治、アカデミズム、サブカルチャーを参照軸に語る平成史。キーとなるのは歴史の喪失ともいうべき事態。「成熟」の方途を見つけられず、自身が歴史から切断された存在であるかのような所作があらゆるところにみられると指摘する著者の、ダウナーな感覚が全編を覆う。500ページ超の紙幅故に扱われるトピックも多岐にわたるが、その倦怠感の持続で一気に読ませる。平成の記憶がぎりぎり生々しい今こそ読むべきでしょう。
しかし、サブカルチャー語りの典拠がおもに宇野常寛だったりするのは貧困!というしかないでしょう。個人的な回想としてはいいかもしれないが、「歴史学者」という肩書で世に問うた著作としては...。
読了日:11月10日 著者:與那覇 潤
https://bookmeter.com/books/18480900
■メディア論の名著30 (ちくま新書)
この手のブックガイドとしては、著者自身が人生のなかでその本(および周辺の本を)どう読んできたのか、という履歴がふんだんに盛り込まれていることが本書の特色だろう。どういう文脈でそれぞれの名著が佐藤の研究を形づくってきたのかが整理されたある種の自伝、とまでいったら言い過ぎだろうか。ハーバーマス批判など、単なる名著の紹介にとどまらないあたりもおもしろい。『グラモフォン・フィルム・タイプライター』や『場所感の喪失』、手に入りやすくなってほしいものですが…。
読了日:11月13日 著者:佐藤 卓己
https://bookmeter.com/books/16757483
■チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学
香港のチョンキンマンションを根城にするタンザニア人たち。そのボスを自認する男、カマラは夜は仲間たちとだべりスマホの動画で大笑い、昼過ぎまで寝ている変なおじさんだが、同時に敏腕ブローカーでもある。その奇妙な経済のありさまを「ついで」をキータームとして記述するのだが、その独特の合理性を丹念に記述しロジカルに説明してみせる著者の分析に唸る。大変おもしろく読みました。
読了日:11月15日 著者:小川 さやか
https://bookmeter.com/books/13908670
■東京裏返し 社会学的街歩きガイド (集英社新書)
社会学者である著者が、東京街歩きをしながら「より高く・速く・強い」東京ではない、もう一つの東京を構想する試み。本書の後に出た『東京復興ならず』とは表裏一体とみてよいでしょう。街歩き中の語りをそのまま文字にしたような趣があり、自由闊達に話題が展開するのがおもしろい。本書に導かれてわたくしもぼんやり散歩してみましたが、そういう楽しみ方ができるよい本です。
読了日:11月16日 著者:吉見 俊哉
https://bookmeter.com/books/16350079
■歪む社会 歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う
近年跋扈する歴史修正主義に対抗する手段をさぐる対話。アカデミズムによって立つ左派は、歴史修正主義者たちの粗製濫造に対して、「運動としての出版」で対抗しなければならない、という提起はなるほどなとなりました。つくる会などが出てきた90年代後半に一つのターニングポイントがある、という指摘。
読了日:11月18日 著者:安田浩一,倉橋耕平
https://bookmeter.com/books/13444902
■令和元年のテロリズム
登戸通り魔事件、農水省元次官による息子殺害事件、京都アニメーション放火事件を取材したルポルタージュ。実行者たちの人間像を丹念に取材しつつ、彼らをセーフティネットから取りこぼしてしまうような社会のありようを問う、極めて真摯なテクストだと思います。
読了日:11月27日 著者:磯部 涼
https://bookmeter.com/books/17650453
■渋沢栄一 上 算盤篇 (文春文庫)
本書の伝記としての面白みは、渋沢栄一の思想を儒教的教養とサン・シモン主義との影響関係から位置付け、そのほとんど奇跡的なバランス感覚を説明してしまう手際だろう。深谷の豪農から生まれ、徳川慶喜の配下としてパリを経由し明治政府で辣腕を振るったかと思えば、下野して日本列島における資本主義黎明期に八面六臂の大活躍。これは大河ドラマになるわけですよ。
読了日:11月29日 著者:鹿島 茂
https://bookmeter.com/books/6948961
■従順さのどこがいけないのか (ちくまプリマー新書)
我々の身近なものとして立ち現れる「政治」における、不服従の価値と効用とを平易に語る。アイヒマンをめぐる議論やミルグラム実験などを引きつつ、『アンティゴネー』からゾフィー・ショル、そしてグレタ・トゥーンベリまで線をつなげてみせる語り口は非常に巧み。そして共通善に賭け金を置けという誠実なアジテーション。高校生向けに本書を企画した編集者の力量を感じますわね。
読了日:11月30日 著者:将基面 貴巳
https://bookmeter.com/books/18414112
近況
繋ぐ意志、翔ぶ群れ——古舘春一『ハイキュー!!』感想 - 宇宙、日本、練馬
もう一つの人類史へ―—『エターナルズ』感想 - 宇宙、日本、練馬
アニメという多面体——アニメ『呪術廻戦』感想 - 宇宙、日本、練馬
存在しないものの奇跡——『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』感想 - 宇宙、日本、練馬
世紀末から遠く離れて——アニメ『スプリガン』感想 - 宇宙、日本、練馬
玩具箱と円環——国立新美術館「庵野秀明展」感想 - 宇宙、日本、練馬
はてなブログ10周年記念サイトにお前のブログとりあげたでってメールがきてたので見に行ったら、「はてなブログ編集部が選ぶ注目のブログ」に取り上げられてて嬉しかったです。まさか紙屋高雪のブログとわたくしのブログが一緒に並んでると思わんじゃん。次の10年も、「わたしに見とれろ!すべての角度で!」の気概でやっていきますか。やっていくわよ。
来月の。