宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2021年10月に読んだ本と近況

地獄は続くぜ!

先月の。

2021年9月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

印象に残った本

 一冊選ぶなら吉見俊哉『五輪と戦後』。出たばかりのころ買って、結局一年くらい積んでたのですが、かえってよかったかもしれません。『都市のドラマトゥルギー』から延びる線の一つの到達点でしょう。

読んだ本のまとめ

2021年10月の読書メーター
読んだ本の数:9冊
読んだページ数:2766ページ
ナイス数:99ナイス

https://bookmeter.com/users/418251/summary/monthly

 

高畑勲をよむ: 文学とアニメーションの過去・現在・未来
 鈴木彰「『平家物語』読者としての高畑勲」目当てに読む。

 しかし、山田尚子がサイエンスSARUで『平家物語』をやるとは、まさかまさかですよ。
読了日:10月03日 著者:中丸 禎子,加藤 敦子,田中 琢三,兼岡 理恵
https://bookmeter.com/books/15790063

 

■中世ヨーロッパ
 中世は暗黒時代であった、中世の人々は地球は平面だと信じていた、中世の人々はまったく風呂に入らない不潔な連中だった…などなど、我々に広く中世ヨーロッパ的なるものとして理解される事柄が、いかに事実とかけ離れたものかを一次資料を引いて説明する。それらは中世ないしカトリック教会を貶めたい人々による表象が流通してしまったことによる、と総括してもいいだろう。意外だったのがそうした誤解を形作った歴史家としてジュール・ミシュレが挙げられていたこと。
読了日:10月13日 著者:ウィンストン・ブラック
https://bookmeter.com/books/18025204

 

■五輪と戦後: 上演としての東京オリンピック
 『都市のドラマトゥルギー』と同様、「上演」という枠組みから1964年の東京五輪を捉え、その都市開発と不可分に結びついたありようがソウル、北京へと移植されていくさまを跡付ける。イベントのフレームの移植という発想は『博覧会の政治学』『万博幻想』を想起させ、また近年の『東京裏返し』、『東京復興ならず』に通ずるオルタナティブな東京を幻視する都市論でもある。吉見俊哉という書き手の仕事が結晶した、見事なテクストでした。
読了日:10月18日 著者:吉見俊哉
https://bookmeter.com/books/15549830

 

■公務員という仕事 (ちくまプリマー新書)
 厚生労働省男女共同参画関連の業務に従事した著者が、自身の経験をもとに国家公務員の仕事がどのようなものかを語る。ジョブローテーションや出向など、国家公務員がどのようにキャリアを重ね、具体的にどんな仕事をしているのか簡明に書かれていて、公務員志望の高校生とかが読んだらかなりよい感じなのかなと思うし、また非公務員にとっても勉強になるので、適当に公務員バッシングしてる連中に読ませてやりたいわね。
読了日:10月21日 著者:村木 厚子
https://bookmeter.com/books/16047066

 

■大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!
 千葉大学で長年教員をつとめた著者が、大学教員の業務のうち、広報活動と教育活動に焦点をあてて自身の経験を紹介するエッセイ。高校・予備校に出向いての模擬講義などの広報活動の話や、理系の研究室の運営の話なんかは特に興味深く読みましたが、一方であまり面白くない駄洒落や、浪人を薦めるなど現在の社会にそぐわない提案をズケズケ行う無神経ぶりに閉口したのも事実。不人気学科といえども国立大学だから定員割れはないわけだし、そういう意味でも自身が相当恵まれた環境にいたことを自覚的か無自覚的かはわからないが隠蔽していると感じた。
読了日:10月24日 著者:斎藤 恭一
https://bookmeter.com/books/15530334

 

■オーバーヒート
 関西で大学教員を務める気鋭の哲学研究者を語り手にした表題作と、新宿2丁目のバーでハッテン場での経験を回想する「マジックミラー」を所収。いずれも私小説的な雰囲気で、かつセクシュアリティを露骨に描いている点で共通しているが、ツイッター関係の描写が気持ち悪いリアリティをもつ表題作によりおもしろみを感じました。
読了日:10月25日 著者:千葉 雅也
https://bookmeter.com/books/18245139

 

■日本人と遠近法 (ちくま新書)
 日本列島では、なぜ独自の遠近法が生まれなかったのか。その源泉を宗教にあると見立て、日本における遠近法の輸入のありようを跡づける。宗教決定論的な見方の妥当性はともかくとして、視点を固定するヨーロッパの線遠近法に対して、日本では視点を自在に移動させるような描写法が発達してきたという指摘はなるほどなという感じ。
読了日:10月27日 著者:諏訪 春雄
https://bookmeter.com/books/253961

 

すべてがFになる (講談社文庫)
 森博嗣のデビュー作にして第一回メフィスト賞受賞作。1996年に世に出た本書は、おそらく新奇なガジェットとしてコンピュータのプログラムをトリックに取り入れたのだろうが、そのあたりは四半世紀を経たいま読むとやや古めかしい感じがある。しかしキャラクター小説としての強度は流石ですね。京極夏彦といい、何がミステリの魅力を担保しうるか、極めてクレバーに認識していたのだなという気がする。
読了日:10月27日 著者:森 博嗣
https://bookmeter.com/books/580438

 

■椿井文書―日本最大級の偽文書 (中公新書 (2584))
 近世後期に捏造され近畿地方に流通した偽文書。その作成、流通過程と、それが近代の歴史叙述にもたらした影響を記述する。「わたしたちの過去」を語るフェイクがアイデンティティの拠り所とされるうち、それをフェイクと指摘することが困難になってしまう、という機制。中世、近世を対象とした歴史研究でありつつ、いま・ここのわたくしたちにとって常にアクチュアルであろう過去との関係性を問い直す、極めて優れたテクストです。
読了日:10月31日 著者:馬部 隆弘
https://bookmeter.com/books/15393456

 

近況

10月はレイトショーも再開してくれたおかげで結構映画館に行けたわね。『カラミティ』は見逃してしまいましたが...。

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来月の。

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