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父親の資格、共生の倫理────『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』感想

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 『小林さんちのメイドラゴン さみしがりやの竜』をみたので感想。

 東京近郊に住む労働者の小林は、ひょんなことから異世界からきたドラゴン、トールと同居することになる。さまざまな偶然が重なって異世界からの同居人は増え、いまは小林、トール、カンナカムイ、イルルの4人で共同生活を続けていた。ある日、カンナを連れ戻そうとその父親が現実世界に現れる。

 クール教信者による漫画作品を、京都アニメーションがアニメ化。2017年にテレビシリーズ第1期、2021年に第2期が放映され、今回の映画はその直接の続編。メインスタッフは第2期と共通で、監督は『涼宮ハルヒの憂鬱』、『響け! ユーフォニアム』の石原立也京都アニメーション放火事件で亡くなった第1期の監督、武本康弘はシリーズ監督としてクレジットされている。門脇未来によるキャラクターデザインはテレビシリーズ同様キュートで、シンプルな線で描かれる丸みをおびたキャラクターたちはこの作品の大きな魅力になっている。

 テレビシリーズ同様、根底には隔絶した力をもつ他者との共生の方途を探ること、その不確かな日常をそれでも寿いでいくというトーンがあって、日常を舞台にした緩いコメディが基調になっていたテレビシリーズに対して、シリアスな事件が発生するこの映画では、よりその他者との共生のなかで生じる緊張関係がより先鋭化しているように思える。『小林さんちのメイドラゴン』はそのキュートなルックと和やかな雰囲気とは裏腹に、破局に至るかもしれない危うい緊張をはらみもつ作品であり、だからこそ倫理的な作品でもあるのだ。単に労働者でふつうの「女の子」である小林が、カンナのために自ら危険を顧みず渦中に飛び込んでいくその姿に、ある種の理想が賭けられていることに疑いはない。

 さて、そうした共生をめぐる寓話とは別に、今回登場したカンナの父親、キムンカムイをめぐるドラマは、父親になる資格も能力もないにもかかわらず父親になってしまった男の悲喜劇のようなものが仮託されていて、同じく子を持つわたくしとしては、そちらに結構身につまされるものがあった。

 キムンカムイを演じるのは、『新世紀エヴァンゲリオン』であの碇ゲンドウを演じた立木文彦。ドラゴンであるがゆえに人間とは隔絶した価値観をもち、父親としてふるまうことを求められても理解できない。しかしカンナは、なぜかキムンカムイに父としてふるまうことを要請する。この否応なしに他者に要請される感覚こそ、親という立場の特異性なのかもしれず、やがては穏当なところに落ち着くこの親子のドラマは、父親という立場のプリミティブな困惑がよく描かれているという気がした。

 

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