仲道祐樹『刑法的思考のすすめ』を読んだので感想。
本書は大和書房からでている「未来のわたしにタネをまこう」というシリーズの1冊。大和書房が早稲田に社屋を構えていることから、早稲田大学の研究者を引っ張ってきて一般向け(高校生向け?くらいの感じだろうか)のシリーズを書かせようというコンセプトのようだ。以下の『自分のあたりまえを切り崩す文化人類学入門』とか、キャッチーな表紙が書店で目を惹くので気になっていたのだが、しらべてみたら「刑法的思考」なる耳慣れない言葉にひかれて本書を手に取った。
本書は、殺人罪や詐欺罪など、ニュースでよくきく犯罪や身近な犯罪を例にとり、過去の実際の事件を参照しながら、有罪・無罪や量刑などをどのように判断していくのか、そのロジックを説明していく。法律の条文を実際の事態にあわせて適切に解釈し、その根拠を明確なものとして一つの結論を導いていく…というのが「刑法的思考」であるとわたくしは理解したが、こうした思考のロジックは公務員など法令にかかわる仕事についている人間が暗黙のうちにこなしているものでもあるという気がして、改めてそれを思弁的なゲームのような装いで提示されると結構おもしろいなと素朴に感じた。
因果関係は「あれなければ、これなし」という論理で判断するとか、同様の事例でも国によって主流となる考え方が異なる…というようなことは、学部の基礎の基礎という部分なのだろうと思うのだけど、ふつうに勉強になりました。
わたくし自身は法学部の出ではないが、仕事の上で法令・規則のあれこれが問題になってくることもあって、本書を読んでなんとなく思考がクリアになった気がしてきた。その意味で、本書は素朴に「役に立つ」本だと思う。こうした思考を鍛える場が法学部なのであれば、その進路の一つに公務員があがってくることにも結構納得である。
またある種の法の解釈のためには、そのことによって生じる「あるべき社会」を念頭に置くべきではないかというような話は、わたくしは読みさしになっているのであれなのだが、ハート『法の概念』でいうような、法の言語ゲーム的な側面が実際の法解釈の現場で生じているのだなとわたくしには読めて、その意味でもおもしろかった、というか『法の概念』をちゃんと読みましょうという気持ちになっています、いま。