『ハウス・オブ・ダイナマイト』をみたので感想。
現代、アメリカ合衆国。平凡な朝のように思われたが、突如、正体不明の敵から弾道ミサイルが発射される。ミサイルの到達地点はどこなのか。迎撃システムによる対応は成功するのか。撃ってきたのはどの国なのか。ロシアや中国はどう反応するのか。そして、アメリカ合衆国は報復に出るのか。ミサイル発射から着弾までのおよそ20分間、無数の判断と決断が交錯する。
『ハート・ロッカー』、『デトロイト』のキャスリン・ビグロー監督の最新作は、ミサイル攻撃の対象となったアメリカ合衆国政府が対応を迫られるさまをスリリングに描く政治スリラー。『K-19』以来、実話をベースにした映画を送り出してきたキャスリン・ビグロー監督だが、今回は架空のシチュエーションを舞台にした、しかし強烈なリアリティ感覚の映画になっている。いつもの一日の始まりから一転、ミサイルの発射を認識した時点から、シカゴへの着弾までのおよそ20分間にフォーカスし、視点人物を変えて都合3度繰り返す。
まずは対応の最前線にあるホワイトハウス勤めの軍人、オリビア・ウォーカー海軍大佐(レベッカ・ファーガソン)を中心に混沌とした現場を描き、第2幕では大統領副補佐官ジェイク・バリントン(ガブリエル・バッソ)が核兵器による即時報復に傾く軍人たちをなんとか抑えようと奮闘するさまを映し、最後に大統領(イドリス・エルバ)が突如究極の決断を迫られる。
シチュエーションの反復によって、別の人物からみるとブラックボックスだった部分が次第に可視化されてゆき、観客に合衆国政府という組織体の運動がなんとなく理解されるという仕掛けになっていて、嫌な緊張感が全編にわたって持続する。結局、報復攻撃を行うか否かという大統領の決断の部分は宙づりにされてエンドロールに入るが、この映画の眼目はあくまで破局に対峙する合衆国政府でなにがおこるのかというシミュレーションであって、その最終的な事態の帰趨ではないのだろう。
特におもしろくみたのはイドリス・エルバ演じる大統領のパートで、断片的な情報から、全人類を滅ぼしうる究極的な決断を迫られる、というシチュエーションに、核兵器のボタンを握ったアメリカ合衆国大統領という立場の異常性が端的にあらわれていたと思う。いま核のボタンをにぎっている人物のことを思えば冷や汗どころの騒ぎではないのだが…。映画では軍人たちが即時報復を求めて政府内でパワーゲームを繰り広げるが、現実の軍人たちは理性的に銃口を納めてくれるはず…と楽観的に信じないとちょっとやってられないわね。とにかく、おもしろくみました。