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悪漢と復讐者——『キャッシュトラック』感想

【映画パンフレット】キャッシュトラック 監督 ガイ・リッチー キャスト ジェイソン・ステイサム, ホルト・マッキャラニー

 『キャッシュトラック』(原題: Wrath of Man)をみました。以下、感想。

 現金輸送車の警備を生業とする会社に、入社を希望する強面の男。入社テストは合格ギリギリだったが、襲撃してきた強盗をいともたやすく撃退するその手際は、尋常の人間のそれではなかった。男の隠された過去とその目的が明らかになるとき、ロサンゼルスに血の雨が降る。

 ガイ・リッチー監督の最新作は、フランスのノワール映画『ブルー・レクイエム』のリメイク。デビュー作の『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』以来、ガイ・リッチーのフィルムはつねにある種の脱力感というか、だらっとした感触が持ち味だったという気がするし、たとえば『コードネーム U.N.C.L.E. 』などはそれをよい塩梅に洗練させて洒脱な雰囲気を演出することに成功していた。しかしこの『キャッシュトラック』はそうした監督の手癖を封印し、かなりベタなノワール映画になっている。劇伴はつねに重苦しく、不穏な緊張感が全編を覆う。

 主演のジェイソン・ステイサムは一目見ただけで堅気でないとわかる存在感なのだが、この映画のなかではそれでも『ワイルドスピード』的な無敵の男ではない。ほとんどの人物が銃弾の前に倒れるクライマックスの緊張感を担保しているのは、撃たれれば倒れるその生身の身体の感覚だろう。

 対する悪役たちも、ポストイラク戦争という文脈は付与されつつも、それをことさら強調することはせず、それがあくまでノワールのドラマにとどまろうとするこの作品の美徳だろう。とりわけ、凶悪極まる悪漢を演じるスコット・イーストウッドのニヒルな佇まいは印象的で、父親が西部劇で主演を張っていた時代のように、その悪漢ぶりを発揮できる映画がたくさん作られていたならば、この偉大な西部劇俳優の息子もまたいまとは違ったポジションにおさまっていたのではと空想する。

 こうして意外な器用さを我々に示したガイ・リッチーが、次どんな球を投げてくるのか、わりと素朴に楽しみです。またジェイソン・ステイサムと組むみたいだし。

 

こうなってくると『ジェントルメン』未見なのが悔やまれますね、なんかタイミングがあれで劇場行けなかったのですよね。