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蒼井優さんはマジでえらい——映画『ハチミツとクローバー』感想

ハチミツとクローバー

 このところ気力が減退していて、みたい映画を能動的に選ぶことさえ億劫なほどなのだけど、プライムビデオの「もうすぐ配信が終了する映画」でもみて「なにかやってる」雰囲気を出そうと試みている。

 そうしてみたのが2006年に公開された『ハチミツとクローバー』。羽海野チカの同名漫画を原作とする、美術大学を舞台にした青春群像劇。同作が完結したのは映画公開とおなじく2006年なので、終盤と同時並行するかたちで制作されたものと推察されるこの映画は、わりと穏当な感じで軟着陸しておしまいとなる。

 監督をつとめた高田雅博はCMディレクターとして名が知られた人物のようだが映画はこの一本を撮ったきりのようだ。この映画はとくに原作への批評性みたいなものは感じないし、なにか映画としての使命みたいなもの感じさせるとかもない。映画的なおもしろさを感じさせるようなリッチな映画ではぜんぜんない。

 それでもなんとか眺めていられるのは、ひとえに役者の魅力、これに尽きる。とりわけヒロインの花本はぐみ演じる蒼井優は、原作のキャラクターのほとんど非現実的なたたずまいとはまたニュアンスがちがうのだが、現実から遊離した魅力をはなっていて、素晴らしい仕事だったと思う。羽海野の漫画のメルヘン具合を再現しようとしたらそれは一歩間違えばメルヘンで痛々しいコスプレパーティーになってしまうのではないかと思うし、花本はぐみはまさしくメルヘンそのもののような存在だと思うのだけれど、それを現実につなぎとめてみせた蒼井優はほんとうに偉大である。

 伊勢谷友介加瀬亮堺雅人らは原作のキャラクター性に必ずしも忠実とはいえないだろうが、しかしそれもまた、メルヘンの世界をリアリズムにつなぎとめるために役者たちが選んだたった一つのさえたやり方だったのだろうと思う。羽海野チカの画では王子様だった森田も、伊勢谷が演じると一気に危険な雰囲気漂う。その後の『3月のライオン』実写版で伊勢谷が演じた役柄を想起すると、奇妙な文脈が生じておもしろいというのもある。これは『3月のライオン』のキャスティングがこの作品を意識していたなら(たぶんそんなことはないんだろうけど)めちゃくちゃ意地悪だよな。

 そうした俳優陣のなかで、ほとんど唯一、主人公の竹本演じる櫻井翔はよくなかった。櫻井というアイドルは、なにか甘やかされたいいとこのぼっちゃん然とした雰囲気がつねにあり、それはアイドルグループの一員として舞台に立ったりとか、あるいはスポーツキャスターのまねごとをしたりだとか、そういうときには美点になるかもしれないが、役者としてスクリーンに映るときまでその雰囲気をまとっていたらダメだ。ぼんやりとした何者でもない大学生が、甘やかされたいいとこのぼっちゃんの雰囲気をただよわせていたらそれはマジで嫌な奴じゃん。アイドルのファンだったらそういう櫻井くんをみてよしとするかもしれんけど。

 

キャスティングの素晴らしさは『3月のライオン』もそうだったんですけど、主演の差、残酷極まりない!

 

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