1か月の休暇…
先月の。
印象に残った本
1冊選ぶなら、マッカーシー『血と暴力の国』。
読んだ本のまとめ
■私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)
平成黎明期の東京、私立探偵は少女誘拐をめぐる事件に巻き込まれ…。平成初期の直木賞受賞作は、レイモンド・チャンドラーへのオマージュが濃厚なハードボイルドサスペンス。これほどまでにチャンドラーのスタイルを自家薬籠中の物とできるのかと素朴に驚き、時折みせるまがいものとしての屈託に信頼感を覚えたりもする。結部にタイトルが大きく変わるサービスは巧みで、大変おもしろく読みました。原尞という作家のこと、恥ずかしいことにいままで知らなかったんですが、大先輩に教えてもらって読みました。
読了日:06月02日 著者:原尞
https://bookmeter.com/books/553680
■0歳児の心の秘密がわかる本―赤ちゃんて、どうして泣きやんでくれないの?
原著が出たのが20年前なのでどれほど古びているのかはわからんが、月齢による認知の発達についてなんとなくわかってよかった。でも、これ語りかける対象が母親だけなのよね。母親のつらさや苦労に共感を示しつつ、しかし無限といってもいい献身を要求する記述にううむ、という気持ちに。わたくしが知りたいのは丁度いい塩梅の手の抜き方なのよね、端的にいえば。
読了日:06月03日 著者:H. ヴァン・デ・リート,F. プローイユ
https://bookmeter.com/books/1922395
■民俗学の熱き日々―柳田国男とその後継者たち (中公新書)
柳田國男の仕事がむしろ民俗学プロパー以外の様々な分野の人物に影響を与えたことを論じるあたりがいちばん興味深く読んだ。その意味で本書のタイトルはややミスリード気味では。全体としては散漫で、柳田國男の仕事をある程度知ってないと読むのに難儀しそう。
読了日:06月03日 著者:鶴見 太郎
https://bookmeter.com/books/381525
■オリンピック・デザイン・マーケティング: エンブレム問題からオープンデザインヘ
2020年東京オリンピックにおけるエンブレム問題を一つの終着点とし、オリンピックにおけるエンブレムの役割・機能の変遷、その過程で浮上していくエンブレムの「作り方」と「使い方」の緊張関係を跡付ける。デザインをめぐる語りが「パクリ探し」と「大喜利」に収斂してしまうメディア環境にあって、いかに市民のコミットメントを調達していくべきか…という問いは、デザインの分野に限らない射程をもっていて、その意味でまさしく社会学者の仕事だと思います。
読了日:06月05日 著者:加島卓
https://bookmeter.com/books/12402636
■総括せよ! さらば革命的世代 40年前、キャンパスで何があったか
1968年の運動関係者へと取材した新聞連載に加筆修正を加えたもの。小熊英二の大著『1968』と同時期の刊行で、文献資料を狩猟して運動の全体像を立ち上げようとした小熊の仕事に対して、こちらはインタビュー中心の構成。本書は当事者にあらためて「総括」せよと迫るが、小熊の仕事に対しての当事者からの反応がおおむね感情的な反発に過ぎなかったことを想起すれば、「総括」など望むべくもないでしょう。
読了日:06月07日 著者:産経新聞取材班
https://bookmeter.com/books/487267
■秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本 (光文社新書)
在日米軍として来日した著者が全国各地で撮影した写真を収める。1950年代終盤から60年代初頭のものが多い。特におもしろくみたのはその時期の東京の変遷で、吉見俊哉が『都市のドラマトゥルギー』で跡付けたような盛場の勃興が目に見えて理解できる。著者は高知を訪れて「1世紀遅れている」と感じたというが、日本列島のまだらさというのは今も昔もなかなか体感的な理解が難しいわね。
読了日:06月11日 著者:J・ウォーリー・ヒギンズ
https://bookmeter.com/books/13187384
■「彼女たち」の連合赤軍 サブカルチャーと戦後民主主義 (角川文庫)
1972年。消費社会的な感性を内面化していたかどうかの切断線をそこに見出し、凄惨なリンチ殺人にいたる連合赤軍内のコンフリクトを読み解いていく。執筆当時、大塚の頭にはオウム真理教の問題が大きくあって、連合赤軍からオウムを逆照射するような語りになっているのだが、それゆえいま読むとピンとこない感じもするわね。
読了日:06月15日 著者:大塚 英志
https://bookmeter.com/books/479788
■0歳児とのあそびかた大全
まだ首がすわってない子どもにはこちらから働きかけることはそんなにできないのはそうなんだけど、勉強になりました。絵が中性的な感じで、母親・父親どちらも描かれているのが政治的に正しくてとっても今風。これは肯定的な言及です。
読了日:06月15日 著者:
https://bookmeter.com/books/12774994
■血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)
コーエン兄弟による映画版がとっても好きなんだが原作は読んだことなく、このタイミングで追悼と思って読みましたが映画と負けず劣らずの素晴らしい小説経験でした。心情描写を廃し、読点もほとんどないソリッドな語りは癖になりますね。その外見は「ふつうの男」なのに行く先々で死体の山を築くアントン・シュガーの恐るべき存在感は、ハビエル・バルデムの醸すそれとはまた異質ですわね。
読了日:06月20日 著者:コーマック・マッカーシー
https://bookmeter.com/books/548616
■さよなら、愛しい人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マーロウものとして『長いお別れ』、『大いなる眠り』と並ぶベスト3の一角と名高い本書ですが、いくつかの短編のアイデアを集約して長編に仕立てたという成立経緯からか、やや突飛な場面転換でお話が接続しているように感じられる箇所もあったりした。訳者解説で指摘があるように、1940年に書かれた本書ではフィリップ・マーロウがまだ若々しさを帯びていて、それが味になっている。
読了日:06月30日 著者:レイモンド チャンドラー
https://bookmeter.com/books/3340211
近況
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