宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

引用と再利用、そして運命——『ザ・フラッシュ』感想

f:id:AmberFeb:20230624073704j:image

 『ザ・フラッシュ』をみました。公開からそんな経ってないのにもう上映回数がだいぶ減っててびびる。以下、感想。

 スーパーマンバットマンたちととともに、ジャスティス・リーグの一員として世界を救ったヒーロー、フラッシュ=バリー・アレン。その能力である超高速移動を最大限に発揮し、各地の人助けに駆り出されせわしい日々を過ごしていたが、父の公判を控えたある日、自身の時間遡行能力が強化されていることに気づいた彼は、「運命の日」へとさかのぼり、悲劇の回避を試みる。それがおそるべき事態をもたらすとは知らずに。

 DCユニバースのなかの1作で、新型コロナウイルス感染症の影響やもろもろで公開が延び延びになっていたフラッシュを主役とする1本がようやく公開にこぎつけた。制作過程での混乱ぶりはさほど作品にはあらわれておらず、タイムトラベルをガジェットとし、フラッシュというヒーローのオリジンともいうべき挿話を描く、意外にも手堅い映画になっている。

 マーベル映画をはじめとしてスーパーヒーローのオリジンものが無数に描かれるなかで、制作者もそれぞれ苦心しているように思うのだが(たとえばマーベルは『アントマン』や『シャンチー』に顕著だが、別のジャンルのメソッドを密輸することでバリエーションを確保している)、このフラッシュは多元宇宙という設定を利用して、いままで積み重なってきたヒーロー映画の歴史そのものを作品に引きずり込むことでオリジナリティを確保する力技をやってのけている。

 予告でも登場していたマイケル・キートンバットマンは第2の主役といっていいほど躍動し、自在に滑空しつつ重装甲に身を包んで敵を殴打していくスタイルが小気味よく演出されている。アクションの爽快感でいえば、ノーラン版や近年のその他バットマンたちのなかでもナンバーワンといっていい。

 お話の次元でも、大きな見せ場はザック・スナイダー監督『マン・オブ・スティール』の再利用で、マイケル・シャノンがふたたびゾッド将軍として出てくるのだから素朴に驚いた。ふたりのフラッシュ、バットマン、そしてスーパーガールの3人が世界の危機に立ち向かうこのシークエンスはとても胸が高鳴る。だからこそほとんど尻切れトンボのようにゾッド将軍を打倒できずに終わる展開には驚きを感じもした。サッシャ・カジェの佇まいが見事だっただけに、スーパーガールにもっとみせばをあげても…と思わずにいられないが、まあフラッシュの映画だからな。

 結部の歴史改編で、この水準だったら時空は乱れないのか?という当然の疑問を解消するために、あの男が画面にあらわれて終幕!というのも見事。もう過去作の大スターを引っ張ってきたからっておどろかないぜ、という気持ちがぶっとぶのでずるですね。

 これは公開延期の余波かもしれないが、多元宇宙というモチーフや、過去作品のサプライズ的引用という点で、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』と重なるし、ヒーローのオリジンとしての「悲劇」を引き受ける…という構造も相似形。さらにおもしろいのは、同日公開の『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のストーリーラインの核心部が、まさにヒーローのオリジンとしての「悲劇」を超克することにあることで、その意味で『ザ・フラッシュ』は絶妙な立ち位置になっていると思う。ともかく、このタイミングで公開されたおかげで奇妙なおもしろみを感じることができて、感じますね、運命を。

 

関連

amberfeb.hatenablog.com