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きっとまた旅に出る——『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』感想

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 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』をみました。以下感想。ストーリー上の仕掛けに触れています。

 ミステリオの策略により、自身がスパイダーマンであることを暴かれ、しかもミステリオ殺害の容疑までかけられてしまったピーター・パーカー。自身のみならず、友人たちの進学まで妨げてしまったことにさいなまれた彼は、旧知の戦友である魔術師、ドクター・ストレンジに、世界中の人々の記憶の抹消を依頼する。それが多元宇宙を巻き込み、親しい人を危険にさらす大事件につながるとも知らずに。

 マーベル・シネマティック・ユニバースの27作目にして、トム・ホランド演じるスパイダーマンの3作目。前作『ファー・フロム・ホーム』はMCUフェイズ3のエピローグのような雰囲気であったが、この『ノー・ウェイ・ホーム』はトム・ホランドによるスパイダーマンの総決算であり、かつ新たな出発を予感させる作品になっていた。

 配給側からの「ネタバレ厳禁」の強調にやや鼻白んだことは否定できないが、鑑賞後、この作品の仕掛けをネタバレ抜きで体感できた幸福を実感したのも事実。まさかかつてのスパイダーマンたちが一堂に会するとは、想像はしても実現するとは思わなんだ。トビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールド、そしてトム・ホランド三者三様の佇まいが誠実に画面に映っていてとにかくうれしかった。この企画を実現させた剛腕ぶりにまず脱帽。アイデア自体は『スパイダーバース』と相似形だから新味があるかといえばそうではないんだが、きちんとその人を連れてくるというのがすごい。

 思えば『スパイダーマン』は『X-MEN』とならんで現代アメコミ実写映画の嚆矢ともいえる存在なわけで、その大役を果たしたトビー・マグワイアが再びスパイダーマンを演じる姿をみて不意打ち的な感慨が去来しました。

 とはいえ、映画としてはこちらのノスタルジーと共犯関係を結ぶためのサービスシーンでやや間延びした感もあり、またアクションシークエンスにおけるスパイダーマンの躍動ぶりも『ファー・フロム・ホーム』と比べて一枚落ちる。それでもなお、アメイジングスパイダーマンが、彼の映画で果たせなかった仕事を果たしてヒロインを救ったとき、それがいかにも二次創作的な安易な想像力の産物であろうとも、心動かされずにはいられないわけです。

 この『ノー・ウェイ・ホーム』で、マーベル・シネマティック・ユニバースはあらゆるヒーロー映画を植民地化しうる道具を整え、そしてそれを製作面においても作劇面においてもやってみせた。これが一回限りのお祭りなのか、はたまた再演される可能性があるのかはわからないが、それが『エンドゲーム』までで語られた、アメリカの(オルタナティブな)神話というモチーフからは遠く離れた、なにか別の枠組みを準備する燃料になればいいね、とは思う。

 これで数年後かにトム・ホランドスパイダーマンが再びわたくしたちの前に現れたら、それはやっぱりうれしくなっちゃうのだろうな。それを老獪な制作陣が理解していないはずもなく、みなしごとして世界に投げ渡されたピーター・パーカーが、より強くしなやかな姿をわたくしたちにみせてくれる日を今から楽しみにしておきましょう。