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最弱にして最強の敵――『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』感想

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 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』を2D字幕版でみました。以下感想。ネタバレが含まれます。

  アイアンマンが登場して以来、世界各地でスーパーヒーローが次々と現れた。そんななか第二次世界大戦の折に生み出された超人兵士キャプテン・アメリカスティーブ・ロジャースは永い眠りから目覚め、ヒーローチーム・アベンジャーズのリーダーとして世界を守るため力を尽くしてきた。彼らは多くの命をたしかに救ってきた。しかし、彼らの手から零れ落ちてしまった命、あるいは彼らが人を救う過程で知らず知らずのうちに奪ってしまった命もあった。度重なる戦いによって、彼らが救えなかった命もまた積み重なり、人々は彼らの正義に手綱をつけようとする。それに従うことは、自らの立場が権力によって保証されることと引き換えに、彼らの武器であった柔軟性や機動性が著しくそがれることを意味する。かくして、ヒーローたちは二つの立場に分かれる。管理を受け入れるか、否か。その対立に、キャプテン・アメリカと同時代を生きた戦友にして、洗脳され殺人機械と化してしまった男、バッキー=ウィンター・ソルジャーを巡る陰謀の影が差し、アベンジャーズの決裂は決定的なものとなっていく。

 2008年公開の『アイアンマン』から8年。その歳月をかけて積み上げられてきたヒーロー同士の友情と、その友情が深まっていくのとパラレルに浮き彫りになっていった信念の違い、それが結晶し、そしてひとつの決着をみるのがこの『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、『アベンジャーズ』以来のスーパーヒーローの共闘関係の地図が大きく書き換わる。

 『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』の結末は、ヒーローたちの共闘という「祭り」がもはや終わりに近づいているのだという予感を漂わせていたけれど、キャプテン・アメリカとアイアンマンが対決するこの『シビル・ウォー』でいよいよその終わりが描かれる。

 とはいっても、映画全体の雰囲気は、仲間同士の戦い、友情の終わりという展開から想像するほど陰惨なものにはなっていなくて、場面によってはむしろマーベル・シネマティック・ユニバースの作品群のなかでもコミカルな印象をうける。それはこの作品でヒーローチームに加わるアントマンスパイダーマンの存在感によるところが大きくて、アントマンはデビュー作『アントマン』でみせたコミカルさをそのまま『シビル・ウォー』にも持ち込んでいるし、作品内でオリジンが触れられるスパイダーマン=ピーター・パーカーは、サム・ライミ版・マーク・ウェブ版よりもより幼い印象で、それゆえどのヒーローたちよりも気楽で楽天的にみえる。このアントマンスパイダーマンがそれぞれの陣営にいることが、なんというかいい塩梅に効いているというか。

 そうして新参のヒーローたちが加わったアクションシーンは、前作『ウィンター・ソルジャー』を彷彿とさせる格闘アクションに特化してシーンが構成されているという印象。キャプテン・アメリカもアイアンマンもばっちり近接戦闘で殴り合うし、ウィンター・ソルジャーは相変わらず動きの切れ味がすんばらしい。加えて新登場のプラック・パンサーもまたべらぼうに動きがよくて、ウィンター・ソルジャーと互角以上に渡り合うバトルシーンは非常によかった。スパイダーマンもすごく武闘派でえらい新鮮でした。かといって格闘アクション一辺倒かといえばそんなことはまったくなく、巨人とアリ(巨人が蟻男っていう転倒がイカしてる)の戦いやら空飛ぶ奴らの戦いとか、そういう豪華絢爛のアクションが『アベンジャーズ』2作のようにヒーロー対大量の敵というちょっとマンネリ気味な感じでなく、ヒーロー対ヒーローというどっちが勝ってもおかしくない展開でなされるのでそれもよかった。

 

 ヒーロー同士の未曽有の戦いをプロデュースしたのが、ダニエル・ブリュール演じるヘルムート・ジーモなわけだけれど、この男の特異な立ち位置が、この『シビル・ウォー』の感触をこれまでの作品とは際立って異質なものにしている。ジーモが悪の側、つまりヒーローたちと決定的に敵対する側に身を投じたのは、ヒーローたちがなしてきた正義によって生じたひずみ故。ヒーローが救おうとして、しかし救いきれなかった命こそジーモをその側に立たせる。なんの特殊な能力も持たない男は、ただ冷静極まる頭脳に宿った深い怨念を武器に、ヒーローたちを引き裂こうとする。今までMCUの作品群では、おおむね強大な力をもったヴィランが敵としてヒーローの前に立ちはだかってきたわけだけれど、彼はそうではない。しかし作中で、彼は最強の切り札を着々と準備するのである。

 彼が切り札にしたのは、ヒーローたちの友情を引き裂く、取り返しようもない決定的な事件。その切り札によって、なんの能力もない、肉体的には最弱といっていい男が、むしろ今までヒーローたちの相対してきた敵を遥かにしのぐ最強の敵だったことが明らかとなり、もう勝敗はどうあれ、この切り札を示した時点である意味彼は勝利する。ヒーローたちは彼らがなしてきた正義によって最強の敵を生み出し、そして彼らの信じる友情こそ、結束を打ち砕く銀の弾丸となる。

 これほど苦しいのに、しかし同時に傷ついたヒーローがそれでも死力を尽くして戦う姿に、テンションが否応なしにぶちあがるという矛盾。この切なさと高揚感が矛盾しながら同居するこのクライマックスはやっぱりとんでもない、と思う。どっちに転んでも分のない勝負は、結束は破られても友情を守る、という決着に落ち着くわけだけれども、彼らがヒーローである限り、また再び結束する日がくるだろうという予感も漂っている気がして、彼らの物語がまた紡がれるだろうということがやっぱり楽しみでならないです。ほんとによかった。

 

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シビル・ウォー【限定生産・普及版】 (MARVEL)

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アート・オブ・シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(MARVEL)

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【作品情報】

‣2016年/アメリカ

‣監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ

‣脚本: クリストファー・マルクス、スティーヴン・マクフィーリー

‣出演