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映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

古くて新たなスパイの系譜―—『グレイマン』感想

暗殺者グレイマン〔新版〕 (ハヤカワ文庫NV NVク 21-19)

 Netflixで『グレイマン』をみました。以下、感想。

 父親殺しの罪で服役中のコート・ジェントリーは、CIAの男からある取引を持ち掛けれらる。CIAの特殊部隊、シエラで働くことを条件に、自由の身にしてやるというのだ。以来、男はコードネーム、シエラ・シックスとして、汚れ仕事を請け負ってきた。あるとき、バンコクでターゲットの息の根をまさに止めようとしていたシックスは、そのターゲットから衝撃の事実を聞かされる。ターゲットの男はシックスと同じくシエラの特殊工作員であり、CIA上層部の暗部をかぎつけたため消されようとしている、というのだ。彼からその暗部を記録したデータを託されたシックスは、自身も追われる身となり、世界中を駆け巡ることになる。

 『キャプテン・アメリカ / ウィンター・ソルジャー』で監督を務めて以降、マーベル・シネマティック・ユニバースの屋台骨を見事に支え切ったアンソニー・ルッソジョー・ルッソの兄弟による、スパイアクション映画。主演は『ドライヴ』、『ブレードランナー2049』などのライアン・ゴズリング、敵役のサイコパスは、クリス・”キャプテン・アメリカ”・エヴァンズ。主人公を助ける女エージェントは『007 / ノー・タイム・トゥ・ダイ』での鮮烈な活躍も記憶に新しいアナ・デ・アルマス。この豪華なキャスティングがまず嬉しい。

 バンコクに始まり、ウィーン、プラハなどなど世界各国をめぐるストーリーは『007』的なお祭り感があり、とりわけプラハでの市電をガジェットとして使った大掛かりなアクションシーンはそれだけで元をとったような気になる。『ウィンター・ソルジャー』でキャプテン・アメリカという古めかしいヒーローを一気に現代化させたルッソ兄弟のアクション演出はこの映画でも十分に発揮されていて、とりわけナイフを用いた近接戦闘の緊張感は素晴らしい。明らかに『ウィンターソルジャー』の延長としての格闘アクションだから、『ボーン・アイデンティティー』のように「まったく新しい発明」というわけではないと思うんだが、監督としての手腕を適切に発揮して、数々のスパイ映画のコラージュによる出来合いの映画ではなく、ルッソ兄弟のフィルムになっているのはえらい。

 その意味で、MCUで正義なるものの体現者として確固とした存在感を放ったクリス・エヴァンズを、異様にガタイのいいサイコな拷問魔として登場させたことは素朴な驚きがある。アナ・デ・アルマスと共演した『ナイブズ・アウト』でもそうだったんですが、まあ強烈なイメージを脱臭しなければ...というのが作り手にあるのかもしれませんわね。一方で、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』でもっともっとみたかったアナ・デ・アルマスの活躍をみることができるのは大変うれしい。

 真の黒幕みたいなものが仄めかされるが明らかにはされない結末をみると、続編への色気をちょっと感じるんだけど、つくられたら素朴にうれしいっすね。

 

 しかし『ボーン・アイデンティティー』の原作もそうですが、英語圏にはこういうスパイスリラーというジャンルが明確に根付いているんすねえ。