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もう一つの人類史へ―—『エターナルズ』感想

【映画パンフレット】エターナルズ ETERNALS 豪華版 監督 クロエ・ジャオ 出演 ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、クメイル・ナンジアニ、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー

 『エターナルズ』をみました。以下、感想。

 有史以前から、人類を襲うまがまがしい魔物、ディヴィアンツから人類を守護してきた不老の種族、エターナルズ。神に等しい存在、セレスティアルズからその使命を与えられた彼らは、ディヴィアンツを滅ぼした後、地球の各地に散らばり、帰還命令を待っていた。しかし、滅ぼしたはずのディヴィアンツが再び現れ、そして彼らは自身の真の使命を知る。

 マーベル・シネマティック・ユニバースの第26作目は、『ノマドランド』でアカデミー賞監督賞を獲得したクロエ・ジャオを監督に迎え、もう一つの人類史と、地球を襲う宇宙規模の危機を描く。2時間半超の長尺は、しかしそれでももっと長くてよかったと感じさせるほど出来事が詰め込まれていて、それは巨大なプロジェクトの中でこの映画に課された役割が大きかったゆえのことだろう、と思う。しかしそれでも、曇天のサウスダコタの一軒家をとらえたロングショットや、アマゾン川のほとりでの葬儀の場面など、叙情的で強烈な印象を残す場面はいくつもあり、そこに明確にクロエ・ジャオという作家の署名が刻まれてもいる。それは作家の腕力と、このマーベル・シネマティック・ユニバースの懐の深さとがうまい具合にマッチしたのだろうとおもうが、そうした叙情的なシーンはもっとゆったりとした時間でみせてほしかったという気もする。

 しかしアクションシークエンスは期待以上で、冒頭のメソポタミアから、エターナルズたちのそれぞれの能力を紹介してしまう手際のよさ、またほとんど無敵とも思える超人たちの限界値みたいなものを適当に提示し、適切なプロレスを行わせる差配も巧みだと思う。「スーパーマン」という固有名詞すら軽口で言及してみせるのは、『マン・オブ・スティール』と『X-MEN』をうまい具合にサンプリングしてやったぜ、という自負のあらわれか。

 『エンドゲーム』によって、マーベル・シネマティック・ユニバースは明確に「アメリカの成立と(ある種の)終焉」の寓話的な雰囲気をまとったが、この『エターナルズ』はさらに大風呂敷を広げ、アメリカという土地をはるか越え、時間的にも空間的にもオルタナティブの人類史を語ってみせよう気概を感じた。『ウォッチメン』の架空の冷戦史、『コンクリート・レボルティオ』の架空の戦後史などを想起するが、それらよりもっと土地の文脈を抜きにした大きな偽史が、まさしくグローバルな市場を背景に語られ始めたのだ、ということに大きな期待を持っています。

 知的生命体の繁殖を物語上のキーとする仕掛けはファースト・コンタクトもののSF風味も感じるし、スペキュレイティブな方向性に飛躍もできると思うのだけど、それは娯楽映画にはならなそうやなと思うと、この巨大な作品群が次にいかなる物語を立ち上げうるか、というのはやはりリアルタイムで追っているからこその楽しみですね。

 

エターナルズ

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