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存在しないものの奇跡——『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』感想

【映画パンフレット】EUREKA 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 3 監督 京田知己 出演 声の出演:名塚佳織、遠藤璃菜、小清水亜美、

 『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』をみました。2017年からスタートしたこのリブート企画もこれで一区切りですわね。以下、感想。

 別世界から訪れ破壊の限りを尽くした脅威をどうにか宇宙に放逐した地球=ブルーアースの人類は、もう一方の来訪者、別世界=グリーンアースの人類との共生を余儀なくされていた。かつて、並行世界を無数に生じさせることで思い人を救おうとし、しかし果たせなかった少女エウレカは、その特異な力を失い、工作員として特殊任務に従事していた。そんななか、宇宙に放逐した脅威を再び地球に招かんとする陰謀がうごめき、そしてエウレカは、かつての自分と同じ力をもった少女と邂逅する。

 『ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』の続編にして、『ハイエボリューション』三部作の完結編。『ANEMONE』を経て、我々の現実世界と『エウレカセブン』の世界とが融合した新世界を舞台に、新たな物語が語られる。テレビシリーズでキャラクターデザイン・メインアニメーターをつとめて以来『エウレカセブン』の作品世界の構築に大きく貢献してきた吉田健一は、今回はキャラクター原案としてクレジットされるにとどまり、それがこの作品の一つの新しさになっている。ただ、作画の印象はファジーな感じを与え、これがテレビシリーズであればある種の「味」として許容されたであろうところが、映画というメディアにおいてはコントロールが効いていない印象をもたらしてしまう。

 一方、テレビシリーズ以来『エウレカセブン』のメカアクションをつとめてきた村木靖は今作でも特技監督をつとめ、今作のメカアクションも冴えに冴えている。それだけで劇場に足を運ぶ価値があろうというものです。とりわけ冒頭はアクションに次ぐアクションのつるべ打ち。『新世紀エヴァンゲリオン』を想起させる、巨大生物によるカタストロフから始まり、航跡で夜空を裂いてビル群へと飛ぶさまが『スタードライバー THE MOVIE』冒頭を想起させるニューヨーク上空での空中戦、そして単騎で大気圏に突入してミサイルの乱舞を交わしつつ、ドローンで敵機を撹乱しながら人質の救出に向かうこの切れ間なしのアクションシークエンスはお見事というほかない。機内の人質救出をめぐる格闘戦は『閃光のハサウェイ』の記憶も喚起し、この奇妙なシンクロニシティにおもしろみを感じもする。

 テレビシリーズ以来、『エウレカセブン』は先行する作品群やサブカルチャーをサンプリングし、ある種の二次創作的であることに極めて自覚的であったという気がするのだが、この『EUREKA』でも先行する作品の引用と思しきシチュエーションがしばしば登場し、また我々をとりまくメディア環境そのものを想起させる背景美術がしばしば現れる。クライマックスのあからさまな『逆襲のシャア』の引用はやや唐突で、事態をロジカルに説明する努力は尽くしているが、その対応のディテールまで(とりわけエウレカの行動はもっと尺を割いて映してほしかった)は埋められていないと感じられるが、それでもなお、このつくられたフィクションたる「わたし」は、「わたし」の感情は本物でありうるのか、と苦悶するキャラクターたちの姿に、この『エウレカセブン』の作品世界が積み上げてきたものの重みが乗っているという気がして、だからこそ「存在しないはずのもの」が存在するという奇跡によって世界とヒロインとが救済されるラストに心を打たれるのだろう。

 『交響詩篇エウレカセブン』以来、エッジのきいた尖ったアニメであり続けた『エウレカセブン』が、このひとまずの結末においても尖っていたことに、あまりよい視聴者ではないわたくしも嬉しく思います。

 

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