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嘘と銃弾——『リコリス・リコイル』感想

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 『リコリス・リコイル』をみました。おもしろかった!以下感想。

 日本列島、現代。世界一の治安を誇る国。その治安は、DAという組織が秘密裏に危険人物たちを抹殺し、犯罪を未然に防ぐことにより維持されていた。DAのエージェント=リコリスの少女、井ノ上たきなは、任務中に仲間を救うため上官の命令に背き、本部を追われ左遷されてしまう。左遷先の支部で、彼女は運命の出会いを果たす。

 『ソードアート・オンライン』でキャラクターデザインを務めた足立慎吾による初監督作品は、喫茶店での日常と戦闘少女としての非日常を往復しながら交流を深めていく少女二人を主役にしたオリジナル作品。キャラクターデザインには『この美術部には問題がある!』のいみぎむる、シリーズ構成に『ベン・トー』のアサウラ。金髪で底抜けに明るい錦木千束と、黒髪で融通が利かない堅物の井ノ上たきなのコンビは、デザインの上でも対比が見事に決まっていて、このキャラクターのビジュアルが作品の方向性というかあり方をバシッと示している。

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 上記インタビューで、暗い方向性では『GUNSLINGER GIRL』に勝てないという認識が語られているが、この作品は二人の少女に寄り添うことで世界の「暗さ」をカメラの外に置く方策をとっている。孤児を戦闘マシーンとして訓練し、危険な任務に送り込むDA、そしてそれによって支えられる日本列島の治安…という作品世界の構造はグロテスクで、露悪的なドラマをいくらでも想起しうる。

 名無しのリコリスたちが無残に殺されていくさまが映し出されると作品世界のグロテスクさが露出してしまうのだが、そうした世界そのものと対峙するのではなく、あくまでかけがえのないパートナーの運命をめぐるドラマに徹したことで、ひとまず作品世界そのもの自体は問うことなしに物語は終わる。敵である真島もそうした作品世界の秩序の転覆をもくろむ革命家ではなく、刹那的な欲求を充足させるために戦う動物的な存在にすぎない。

 しかしそれがこの作品を「物足りない」ものにしていないところに、この『リコリス・リコイル』のえらさはある。錦木千束の心臓をめぐるドラマで十二分にサスペンスは成立していたし、アクションシークエンスの外連味もお見事。銃を使うが、不殺のための特殊な弾丸を使っているため近接戦闘になる…という発想は膝を打つし、それによって『ジョン・ウィック』風のアクション設計になっていると思うんだが、驚異的な動体視力と洞察力で銃弾をすいすい躱してしまうというアニメ的な「嘘」は、まさしくアニメであるがゆえに許された飛躍だろうと思う。

 たとえばインドネシア軍隊格闘術シラットを取り入れた『PSYCHO-PASS』は、そこに工夫の跡を認めることはやぶさかでないが、どう考えてもマジの使い手がマジのシラットを繰り出す『ザ・レイド』とは比べるべくもない(『ザ・レイド』と比肩するアクション映画がどれほどあるかと考えればこれは厳しすぎる対比であるとは思うんだけど)。翻って、『ジョン・ウィック』風のリアリズムの上にアニメ的な嘘を重ね合わせてみせたこの作品の試みは見事に成功していると思う。

 それがとにかくえらいし、まあもし2クールの積み重ねがあればもっと予定調和を打ち破って「なにか」が出てくるポテンシャルがあるような気はしたんですけど、でも楽しい時間を過ごさせていただきました。