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誠実な心、書割の城——映画『かがみの孤城』感想

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 『かがみの孤城』をみました。以下、感想。

 少女が自室の姿見を抜けると、そこは絶海の孤島にそびえる城だった。そこに集められたのは7人の少年少女。これからおよそ一年かけて、願いをかなえることのできるという鍵を探せ、と狼のかぶりものをした幼い少女は告げる。こうして、学校空間になじめない少年少女たちの不思議な冒険がはじまる。

 辻村深月による原作を、『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一を監督に迎えて劇場映画化。脚本は近年の原監督作品と同様、丸尾ミホ。キャラクターデザインは『僕だけがいない街』などの佐々木啓悟で、短い時間のなかでそれぞれのキャラクターが記号的に伝わってくる、類型的ながらも手堅い仕事ぶり。

 とはいえ、キャラクターの芝居はそれほど丁寧につけられているわけではなく、同じく学校空間との緊張関係が主題化された『カラフル』のリアリズムと比べると、作品としての風格は明確に劣っていると感じる。孤城内の美術や城を遠景からとらえるショットも書割的で——これは設定的にはまさに書割であることに意味はあるにしても——吸引力に欠け、しかもカメラはおおむね城のなかと少女の自室とを映すから、なんというか映画としてそうとうミニマルな印象を受ける。全体として画面の広がりに乏しく、かつそれをカバーするだけのキャラクターの芝居もないので、映画的に豊かな画面を期待すると相当肩透かしを食らうのでは、というのが正直な印象です。原恵一という作家の仕事として期待される水準には全然達していないとすら感じる。

 一方で、動きに乏しく時に冗長に感じられる原作を、エピソードやディテールを整理しつつコンパクトにまとめた手際は職人芸的なうまさを感じる。物語上の仕掛けのわざとらしさは(小説で読んだ印象よりは)ずいぶん軽減されていた気がするんだけど、それはわたくしが「そういう話」だと最初から知っていたか否かの問題にすぎないという感じもする。

amberfeb.hatenablog.com

 上の記事で書いた、原作のもつ真摯な誠実さは映画でもきちんと引き受けられていて、その意味でこういう映画があってもいいのだ、とは思う。思うんだが…。しかし原恵一の仕事に期待するのは、まちがいなくそれ以上の「何か」なんよな。

 

『バースデー・ワンダーランド』よりはぜんぜんいい映画だと思う。無思慮でぬるい天皇制の擁護みたいなことをやっとる『バースデー・ワンダーランド』はとてもみていられませんわ。こういう水準の比較をしとる時点であれですよ。よくない。