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刺青と刃物は懐にしまって——『ホリミヤ』感想

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 Netflixが強烈におすすめしてきた『ホリミヤ』をこのところみていました。以下、感想。

 外で鼻血を流していた幼い弟を家まで送ってくれた少年。ピアスにタトゥーという外観に似つかわしくない柔らかな物腰に、少女は意外の感を受けているようだった。さらに、少年の正体が近寄りがたいクラスメイトと同一人物であることを知る。少年と少女が思わぬ形で出会い、そうしてお話ははじまる。

 HEROによってウェブサイトで公開された四コマ漫画『堀さんと宮村くん』を、萩原ダイスケの作画でリファインした『ホリミヤ』のアニメ化。『堀さんと宮村くん』自体は2007年~2008年ごろに更新されていたようだから、なんとなく懐かしい感じを持っていたんだが、それが2021年にアニメ化するんだから不思議な感じがした。アニメ版と並行して実写ドラマも放映されているようで、ちょうど先日みた『思い、思われ、ふり、ふられ』と重なっていておもしろかった。

 アニメ化も実写化もされている少女マンガなんて珍しくもないと思うが、アニメと実写同時期というのはそんなになかったような気がする(気がするだけかもしれない)のでそういうトレンドがあるのかしら。そういえば、まさにいま放映されている『おとなりに銀河』もアニメとドラマが同時期に放映されている。もっともこちらはそれぞれ独立しているっぽい雰囲気ではあるけれど。

 さて、アニメ版の監督は『新世界より』の石浜真史。オープニングの演出がとにかくスタイリッシュで、石浜の手腕が存分に発揮されている感じがする。アニメーション制作は『明日ちゃんのセーラー服』や『ぼっち・ざ・ろっく!』など、2022年に鮮烈な作品を送り出し存在感を一気に高めた感のあるCloverWorks。今夏には2期目の放映も予定されているようだが、この1期で二人の出会いから卒業までを描いていて、コンパクトにまとまっている。

 冒頭、クラスメイトの全然しらない側面を偶然知ってしまい...という展開や、勝気なヒロインの造形はどことなく『彼氏彼女の事情』を想起して、ある種の現代的アップデートという感じもした。堀さんと宮村くんの距離が縮んでいく序盤を経由して、中盤からはカメラは二人を離れてクラスメイトたちにフォーカスするようになり、キャラクターが自己運動していく群像劇になっていく。恋愛感情がときおり刃物のような鋭さをまとう『とらドラ!』のような緊張感があるわけではないけれど、この温度感がちょうどいいのかもしれない。

 堀さんにふられてしまった石川くんの周辺をめぐる感情の線なんか、彼を主役にしたらいよいよ『とらドラ!』になってしまう!!!んだがそうはならないんだよな。あのあたりの機微が徐々に浮上していくあたりの細やかな視線や所作を拾うカメラがたいへんよかったです。

 明白な悪役は存在しなくて主要キャラがみんないいやつなのもあって、たいへん楽しい時間を過ごしました。