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豪奢とジャンクの魅力────アニメ『チェンソーマン』感想

チェンソーマン

 劇場版に備えて『チェンソーマン』をみたので感想。

 悪魔とよばれる超常の存在が人間を脅かす世界。亡き父の借金のためヤクザにいいようにつかわれる少年デンジは、小さな犬のような「チェンソーの悪魔」、ポチタとともに悪魔を狩り、生活の糧を得ていた。あるとき「ゾンビの悪魔」と契約を交わしたヤクザに殺され、ポチタと契約を交わして悪魔の力を宿したチェンソーマンとなる。その力に目を付けた、公安警察の謎めいた女、マキマ。デンジはマキマに一目惚れし、その歓心を買うため、あるいは日々のささやかな生活のため、公安特異4課のデビルハンターとして悪魔と戦う。

 『ファイアパンチ』、『ルックバック』の藤本タツキによる同名漫画のアニメ化。アニメ放映は2022年で、原作は2018年連載開始、2020年第1部完結。アニメ放映時は第2部の連載がはじまってすこし経った頃だった。原作は第1部の後半で大いに「化けた」漫画だと思うのだが、そのポテンシャルを見越してか、このアニメ版も相当力の入った作品になっている。オープニングテーマは米津玄師、エンディングテーマはずっと真夜中でいいのにやマキシマムザホルモン等各話ごとに変化し、しかも第1話以外はそれぞれ洒落たエンディング映像も付されている異様な豪華さ。

 アニメーション制作はMAPPA、監督にアニメーターとしてキャリアを積んできた中山竜。杉山和隆によるキャラクターデザインは端正で写実的。影をかなりリアルにつけたり、ガラスの映り込みなども拾って描写するなど、全体的に画に厚みを感じさせる描写が特徴的で、そのこともあってルックは非常に実写映画を彷彿とさせる、写実的なものとなっており、かなりリッチな印象を与える。3DCGを活かしたアクションシークエンスも外連味があり、押山清高デザインの悪魔は見事に躍動している。

 一方で、そうした豪奢さ、リッチさが作品のおもしろさにダイレクトにつながっているかというとかなり微妙なところで、なんというかアニメをつくることの難しさみたいなものを強く感じた。端的にいって、この『チェンソーマン』よりリッチな画面のアニメはそうそうないが、『チェンソーマン』よりおもしろいアニメは無数にあるのだ。

 おなじMAPPA制作の原作つきアニメでいえば、『呪術廻戦』は原作とアニメが相乗効果で互いにポジティブにフィードバックしあうような関係だったと思うし、『進撃の巨人 The Final Season』は原作者の意図もよく汲んだうえで、決定版ともいえる出来だった。一方この『チェンソーマン』は、原作に比して不釣り合いなほどリッチになってしまっているような気がする。原作の魅力であるジャンク感というか、B級感がかなり薄れ、原作よりはるかに高級な手触りを感じさせるアニメになっているという気がする。

 無論、原作のニュアンスを忠実に再現することだけがアニメ制作の仕事とは思わないが、原作の序盤をアニメ化した現時点では、必ずしも原作とは違った魅力を引き出せているという感じもしないのだよな。

 

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