宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

人類の黄昏どきのまえに────アニメ『北極百貨店のコンシェルジュさん』感想

映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」Original Soundtrack(初回仕様限定盤)

 『北極百貨店のコンシェルジュさん』をみました。なんと幸福な時間だったことか!以下感想。

 さまざまな動物たちが訪れる不思議なデパートメントストア、北極百貨店。そこにコンシェルジュとして勤務することになった秋乃は、いまや絶滅してしまった動物たちも含むお客様のよろこびのため、そそっかしいながらも日々お仕事に邁進する。

 西村ツチカによる漫画作品を、アニメーターとしてその名も高い板津匡覧監督により映画化。アニメーション制作はProduction I.Gで、原画には『君たちはどう生きるか』の本田雄や井上鋭などスーパーアニメーターがクレジットされ、70分の上映時間を華々しく彩る。どこか素朴で絵本のような手触りの原作漫画と比べて、アニメのほうはよりキュートで、ウェルメイドに洗練されたデザインにリファインされているような印象を受ける。そのウェルメイド感は百貨店という空間のもつある種の近代性ともマッチしていて、映画として見事にひとつの作品世界を構築しえている。

 また、主人公の秋乃の一挙手一投足はコミカルに、軽快に描かれ、あせってふらふらする様も、お客様のために百貨店をかけまわる姿もとってもキュート。こうした所作のリッチさは劇場にかかるにふさわしいと感じる。総じてアニメーターの地力を強く感じさせ、しかし同時に力んだところも感じさせないソフトな感触もまた、百貨店という洗練された場にふさわしい佇まいである。

 さてお話のバックボーンには、人間の手により絶滅させられてきた動物のかなしみ、しかしその人間たちがつくりあげてきた大衆消費社会の象徴としての百貨店、その場のまとう愉しみのふたつがあって、いわば近代性の闇と光とがライトモチーフになっていると感じる。いまやまさに百貨店斜陽の時代、そして19世紀以来の大衆消費社会もいよいよ曲がり角か、という時代にあって、いわば黄昏どきに陽の暖かさを懐かしむようなこの映画のトーンはわれわれのいま・こことほのかに共振するような気もする。

 たとえばそれはいまテレビアニメが放映されている『葬送のフリーレン』なんかとも近しい精神性のような気がして、とはいえ華々しい英雄譚が「終わった」あとの『葬送のフリーレン』に対して、この「北極百貨店」は営業の真っ最中ではある。斜陽とはいえいまだわれわれがそのうちに生きる近代性のもつ楽しさのようなものを、倫理的に引き受けたうえでなんとか肯定するようなこの映画の調子に、すこし慰められたような気がした。

 

関連

amberfeb.hatenablog.com