宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2016年9月に読んだ本と近況

なんだかずいぶん日が短くなった気がします。

先月のはこちら。

2016年8月に読んだ本と近況 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

 9月は阿部和重と出会ったり伊坂幸太郎と再会したり村上春樹と和解したりといろいろなことがありました。

 

 


読んだ本のまとめ

2016年9月の読書メーター
読んだ本の数:32冊
読んだページ数:10096ページ
ナイス数:242ナイス
http://bookmeter.com/u/418251/matome?invite_id=418251

 

現代世界の十大小説 (NHK出版新書 450)

現代世界の十大小説 (NHK出版新書 450)

 

 ■現代世界の十大小説 (NHK出版新書 450)

 池澤のチョイスは、あとがきでも述べられているように大変「若い」作品が多い。全体の印象としては、ポストコロニアルの思潮を感じる作品群が多く選ばれているような感じで、それまで自明とされてきた正気/狂気や文明/野蛮といったものの境界をずらす目論見として読むことが可能であることが、作品が「現代的」であるひとつの基準としてあるのかなーという印象を受けた。
読了日:9月1日 著者:池澤夏樹
http://bookmeter.com/cmt/58720833

 

誰も戦争を教えられない (講談社+α文庫)
 

 ■誰も戦争を教えられない (講談社+α文庫)

 世界各国、日本各地の「戦争の記憶」を扱う博物館群をめぐり、そこから何か戦争をめぐる語りについての教訓めいたものを引き出そうとする。本書の随所に感じられるのは、自身の無知に居直って、そこから何かを言うことに意味があるはず、という姿勢である。著者は「知らない」ことを恥ずべきことだとはまったく感じていないように思われるどころか、その無知への居直りこそが戦争の記憶について私たちが取るべき姿勢なのではないか、とまで結論づける。

 かつて宮台真司がそうであったように、挑発的な物言いで読者を刺激していこうとするような語り口が選択されているのだが、その挑発は全編にわたって空回りしているような感を受け、また脚注で特におもしろくもない冗談をかましてみせるような態度が薄ら寒い。宮台の戦略があたかも「何でも知ってる」如く振る舞うことだったとしたら、古市のそれは「何も知らない」かのように振る舞うことだと思うのだけれど、それは狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なりって感じでマジでただの馬鹿なんだと思うんだけど。
読了日:9月2日 著者:古市憲寿
http://bookmeter.com/cmt/58740901

 

族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史

族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史

 

 ■族の系譜学―ユース・サブカルチャーズの戦後史

 1950年代半ばから90年代後半までの日本における若者文化=ユース・サブカルチャーズを、その担い手であった「族」の変遷に着目して論じる。太陽族みゆき族など主流の価値に対するカウンター的な役割を担う対抗文化的な側面が強かった「族」から、アキバ系渋谷系のような社会の部分文化を構成する「系」への遷移、という見取り図の中で、戦後のウェイズ・オブ・ライフとしての若者文化を論じている。これ一冊で戦後の若者文化の変容がなんとなく理解できたような気になった。
読了日:9月3日 著者:難波功士
http://bookmeter.com/cmt/58761802

 

ハーバーマス (〈1冊でわかる〉シリーズ)

ハーバーマス (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 

 ■ハーバーマス (〈1冊でわかる〉シリーズ)

 ハーバーマスの研究を、「語用論的な意味理論」、「コミュニケーション的合理性の理論」、「社会理論」、「討議倫理学」、「政治理論」とに大別し、それらの仕事が一つのグランドセオリーを提示したものであるとして概説してゆく。多作で幅広い分野に言及するハーバーマスについて、大まかな見取り図が得られるうえにそれぞれの研究の問題意識や意義なんかもなんとなく理解した気になれるので、「一冊でわかる」シリーズの面目躍如という感じ。
読了日:9月4日 著者:ジェームズ・ゴードン・フィンリースン
http://bookmeter.com/cmt/58779947

 

テロル (ハヤカワepiブック・プラネット)

テロル (ハヤカワepiブック・プラネット)

 

 ■テロル (ハヤカワepiブック・プラネット)

 名誉ある地位と豊かな暮らし。全ては満ち足りていたはずだった。それなのに、なぜ彼女は自爆テロの実行犯になったのか。イスラエルに暮らすアラブ系の医師が、妻の死の理由を探って彷徨する。ユダヤとアラブのあいだで繰り返される憎しみの応酬の蓄積が全体を覆い、さわやかな雰囲気が漂ったかと思えばそれはすぐに消し飛ばされてしまう。妻を理解しているはず、と信じた男の行き着く先はあまりに残酷で、苦しい読後感が残っている。
読了日:9月5日 著者:ヤスミナ・カドラ
http://bookmeter.com/cmt/58815143

 

権力の館を考える (放送大学教材)

権力の館を考える (放送大学教材)

 

 ■権力の館を考える (放送大学教材)

 『権力の館を歩く』に井上章一五十嵐太郎らの論考を増補して再構成したもの。全体の記述もアップ・トゥ・デートされているとのことだが、増補部分のみ読む。井上の大阪城平安神宮をめぐる論考、五十嵐のソウル、台湾の植民地時代の建築を扱った論考、高橋和夫ペルセポリス、イスファハーンを取り上げた論考はそれぞれ面白く読んだ。特に、大阪城をめぐる市と軍との関係は、なんというか民都大阪を象徴するような挿話だなーと。
読了日:9月6日 著者:御厨貴
http://bookmeter.com/cmt/58827369

 

私とハルマゲドン (ちくま文庫)

私とハルマゲドン (ちくま文庫)

 

 ■私とハルマゲドン (ちくま文庫)

 オウム真理教の起こした事件をまさに自分のこととして捉えなければならない、そういう世代であると自己規定する著者によるオウム論と自分史的な語り。「オタク」的にならざるを得ない状況のなかで、それでもハルマゲドンに短絡するのではなく、価値の強要から軽やかに逃避する「旅人の論理」を目指すことを提唱する。なんというか、オウム的なハルマゲドンへの欲望は未だ世に沈滞しているのではという気がして、だからこの本の価値も減じてはいない、と思う。
読了日:9月6日 著者:竹熊健太郎
http://bookmeter.com/cmt/58836236

 

世紀末の一年―1900年ジャパン (朝日選書)

世紀末の一年―1900年ジャパン (朝日選書)

 

 ■世紀末の一年―1900年ジャパン (朝日選書)

 19世紀最後の一年、すなわち1900年の出来事を、正岡子規とその周辺の人物に軸足を置きつつ、一月毎にテーマを変えて記述する。外国人、女、鉄道などなどをめぐる様々な事件をみてみると、そのなかに明確に近代的なるものと前近代的なものとのあいだの軋みのようなものが感じられ、それがある種の本書のトーンとなっているように思われた。
読了日:9月7日 著者:松山巌
http://bookmeter.com/cmt/58855963

 

 ■ニルヤの島 (ハヤカワSFシリーズJコレクション)

 生体ないし記憶を制御する技術の発展により、死後の世界が否定された世界。そのような世界のなかでも、ミクロネシアでは死後の世界を信ずる新宗教が再び現れていた。モデカイトと呼ばれる彼らの信ずる「ニルヤの島」とは何なのか。語り口の異なる4つのセクションが入りみだれる構成に面食らったのだが、それでも引き込まれた。我々はなぜ死後の世界を必要とするのか、我々にとって死後の世界とはなんなのか、という問いに貫かれていて、なんというか非常にストイックな本を読んだなーという感覚が残っている。
読了日:9月8日 著者:柴田勝家
http://bookmeter.com/cmt/58876539

 

生きるための自由論 (河出ブックス)

生きるための自由論 (河出ブックス)

 

 ■生きるための自由論 (河出ブックス)

 心脳問題を取り上げて自由の所在はどこにあるのか論じた文章と、リベラリズムの可能性を示唆した論文の二本を所収。前者では脳科学の成果がいかに人間の自由意志の存在を掘り崩してきたのか、またそれに対して自由意思はどのような仕方で擁護されてきたのか、という見取り図を得られて勉強した気になった。乱暴に要約するならば、自由、リベラリズムともに大澤がその根拠とするのは他者という第三者の審級で、それを梃子に議論を跳躍させてる印象を受けた。
読了日:9月9日 著者:大澤真幸
http://bookmeter.com/cmt/58888458

 

文化と現実界―新たな文化理論のために

文化と現実界―新たな文化理論のために

 

 ■文化と現実界―新たな文化理論のために

 ラカンの「現実界」概念をキーワードにとった論文集。ラカンが出てくるだけで思考停止に追い込まれてしまうぼくには全体としては全然わからん感じだったので流し読みしてしまった。なんで読んだのかって感じだが。私たちの認識の外にあるものを「現実界」と名指すわけだが、どうやらそれが文化にめっちゃ影響したりしているらしい。バトラーの社会構築主義を批判してるあたりはなるほどなーという感じで勉強になった。
読了日:9月11日 著者:キャサリンベルシー
http://bookmeter.com/cmt/58931828

 

研究不正 - 科学者の捏造、改竄、盗用 (中公新書)

研究不正 - 科学者の捏造、改竄、盗用 (中公新書)

 

 ■研究不正 - 科学者の捏造、改竄、盗用 (中公新書)

 盗作、捏造など様々な研究不正の事例が取り上げられており、そうした事例の検討を通して不正をなくすためにできることを考えてゆく。研究不正の発覚=論文の撤回数はアジアや中東の国々で割合が高く、そして日本においても21世紀に入ってから多くの不正が発覚している、という事実はショッキング。STAP細胞のように世を騒がせる事件にはならずとも、少なくない事例が挙げられているが、そのなかに著者と面識がある人物なんかもいたりして、そういう事例への言及はなんというか周囲の人間の驚きみたいなものが写し取られていて印象的。
読了日:9月11日 著者:黒木登志夫
http://bookmeter.com/cmt/58932673

 

オリンピック (角川文庫)

オリンピック (角川文庫)

 

 ■オリンピック (角川文庫)

 オリンピックを扱うエッセイ、小説を集めたアンソロジー。肩に力の入ってるのをバリバリに感じられる三島由紀夫東京オリンピック観戦記に始まり、古代オリンピックから未来のオリンピックまで、オリンピックに関わる幅広いテクストと出会えて楽しかった。数十年にわたるランナーの走りとその中断を描いた筒井康隆の短編、知った名前がたくさん出てくる沢木耕太郎アトランタ五輪観戦記なんかが特に印象に残った。
読了日:9月12日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/58964390

 

集合住宅: 二〇世紀のユートピア (ちくま新書)

集合住宅: 二〇世紀のユートピア (ちくま新書)

 

 ■集合住宅: 二〇世紀のユートピア (ちくま新書)

 20世紀前半に労働者のために作られた「集合住宅団地」を「ユートピア」と位置づけ、軍艦島からフランクフルト、ウィーンなどの集合住宅をその計画から現在の状況まで幅広く取り上げつつエッセイ的に論じる。写真や図版が非常に多く挿入されていて、集合住宅という建築物に対するフェティッシュな感情が刺激されるのだけれど、それ以上に著者が集合住宅という建築様式にかける期待と希望が強く印象に残る本だった。

 著者は日本の集合住宅の貧しさ、意識の低さを嘆くが、それは確かに同潤会アパートが保存されなかったことなんかに表れているけれど、戦後建てられた団地は今なお人の住む場所として確かにあるわけで、そこらへんの位置づけをどう考えてるんだろうなっていうのは気になる。
読了日:9月12日 著者:松葉一清
http://bookmeter.com/cmt/58968795

 

 ■地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会 (朝日新書)

 岡山の若者にインタビュー調査を行った「現在篇」、J-POPの歌詞分析から若者の「自分らしさ」をささえる価値の変遷を分析する「過去篇」、そして若者たちが「開かれている」ことをJ-POPの潮流とギャル的な存在の分析から主張する「未来篇」からなる。著者のいう「地方」とは「地方都市」のことであり、農村部とは意味合いが異なる。モータリゼーションの進んだ地方だからこそ、「ほどほど」に楽しむ場所としてイオンの存在感が増している、というのはなるほどなという感じで、インタビューは地方の若者たちの実感を写していると感じる。一方J-popのパートは…
読了日:9月13日 著者:阿部真大
http://bookmeter.com/cmt/58978801

 

 ■人間にとって都市とは何か (1968年) (NHKブックス)

 約半世紀前に書かれた都市論。何よりも人間の集積する場として都市を捉えている著者は、都市に生きる人間に着目してその記述を進めている、という気がする。なかでも、ドヤ街に生きる労働者の話題なんかが印象に残るのだけれど、当時は現在と比べてそうした日雇い労働者が東京のなかで存在感を持っていたんだろうなーと想像する。実際どうなんかはわからんけど。
読了日:9月13日 著者:磯村英一
http://bookmeter.com/cmt/58986301

 

シンセミア(上) (講談社文庫)

シンセミア(上) (講談社文庫)

 

 ■シンセミア(上) (講談社文庫)

 山形県の農村部、神町で起きた3件の死亡事件。それをきっかけに、夏の町で火花が飛び始めようとしていた。戦後以来利権を握り続けた一族、サークルを組んで盗撮を行う若者たちやロリコン巡査などなど、様々な人間に視点をあてて語られる町の物語は、人間関係が複雑に絡み合い交錯する。それによって、町が一種独特の小宇宙とでもいうべき構築物として現前しているという感じ。上巻ではどこに着地するのかわからないが、見ること/記録することが全体を規定するアクションなのかなーという気がする。
読了日:9月15日 著者:阿部和重
http://bookmeter.com/cmt/59027453

 

シンセミア(下) (講談社文庫)

シンセミア(下) (講談社文庫)

 

 ■シンセミア(下) (講談社文庫)

 大洪水が街を飲み込み、真夏の暑さにあてられたかのように人々のあいだに狂気が蔓延り始める。そしてその狂気のなかで街の古い秩序は新たに作り変えられようとしていた。米軍占領期の陰惨な悲劇が欲望渦巻く現代の抗争に絡みつき、ボルテージが狂ったように高まりながらも事件自体は収束していくクライマックスがとてつもなくて夢中で読んだ。神の町には新たな日常がやってきたけれど、それがまた攪拌されてゆくのだろうという予感に満ちたラストも心憎くて、なんというかすげえ本を読んだという感じ。

読了日:9月16日 著者:阿部和重

http://bookmeter.com/cmt/59048343

 

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)

 

 ■インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)

 渋谷で働く男の生活に差し込んでくる、共に鍛錬を積んだ者たちの影。次第に明かされていく過去と、次第にはっきりとした輪郭を失っていく現実とが日記形式で語られていく。最後の仕掛けで大層驚かされて、小説に仕込まれた仕掛けにばっかり意識がいっちゃうのだが、それよりなによりいかにもありそうな雰囲気で語られる突拍子も無い若者集団の形成と暴走、そして破滅の物語にめちゃくちゃ引き込まれた。

 めちゃくちゃ『ファイト・クラブ』っぽいんだけどそれより前なんですよね。シンクロニシティをかんじる。
読了日:9月17日 著者:阿部和重
http://bookmeter.com/cmt/59066679

 

日本のアニメーションを築いた人々

日本のアニメーションを築いた人々

 

 ■日本のアニメーションを築いた人々

 アニメーション黎明期(と言っていいと思うのだけれど)から活躍する、主に東映動画と関わりが深いアニメーター6人にスポットを当てて、その半生や人生を通してアニメーションを論じる。あとがきで吐露されているように、書かれた当時、アニメーションについての語りに不毛なものが溢れていることへの苛立ちから、客観的な作品語りを志向してクリエイター個人へと着目する、という意図から書かれた本であるという印象。インタビューなどが頻繁に引用されていてそれは面白く読んだのだけれど、著者の戦略には全然乗れないなーと感じながら読んだ。
読了日:9月19日 著者:叶精二
http://bookmeter.com/cmt/59119651

 

〈盗作〉の文学史

〈盗作〉の文学史

 

 ■〈盗作〉の文学史

 日本における盗作の問題を網羅的に叙述する。とにかく情報量がすさまじく、一つ一つの事件をめぐる議論の応酬が丹念に収集されており、大変な労力が費やされたのだろうなということを本の物理的な厚みが雄弁に語る。盗作問題をマッチポンプ的に報道する新聞や、騒動のなかで議論がすれ違い何も生み出さない様が延々と記述されているので読んでいて気持ちよい本じゃないのだけど、下世話な根性が刺激されて面白く読んでしまった。
読了日:9月19日 著者:栗原裕一郎
http://bookmeter.com/cmt/59133362

 

キャプテンサンダーボルト

キャプテンサンダーボルト

 

 ■キャプテンサンダーボルト

 それぞれの人生の中で負債を背負いこんでしまった男同士が再会を果たし、陰謀渦巻く世界に立ち向かう。蔵王に墜落したB29、そして死病の発生源として封鎖された沼、お蔵入りになった戦隊ヒーロー、そうした偽史的、陰謀論的な仕掛けが絡み合って語られる物語にぐいぐい引き込まれ夢中で読んだ。細かいディテールの描写がことごとく伏線として機能し始める後半がとにかく気持ちよくて、これはなんというか職人芸的な緻密な構成だよなと。

読了日:9月20日 著者:阿部和重,伊坂幸太郎

http://bookmeter.com/cmt/59156096

 

ビッチマグネット (新潮文庫)

ビッチマグネット (新潮文庫)

 

 ■ビッチマグネット (新潮文庫)

 ある壊れかけた家族がきちんと壊れるまでの物語。語り手の弟がビッチを引き寄せてしまう「ビッチマグネット」とまで言われるような人間で恋愛関係の様々なもつれがそこかしこに顔を出すのだけど、最終的には愛の物語というより人生を生きることの物語って感じだなーってなった。ミステリ的な道具立てやSF的なガジェットを排し、つねに現実世界という足場を確保しつつどことなくふわふわした感触があるのは語り口故なんだろうか。
読了日:9月21日 著者:舞城王太郎
http://bookmeter.com/cmt/59170817

 

革新自治体 - 熱狂と挫折に何を学ぶか (中公新書)

革新自治体 - 熱狂と挫折に何を学ぶか (中公新書)

 

 ■革新自治体 - 熱狂と挫折に何を学ぶか (中公新書)

 高度成長期から70年代終わりまで、大都市部に出現した革新政党を支持母体とする首長をいただく自治体。それら革新自治体の出現から衰亡までを概説する。公害問題など、高度成長によって生じたひずみの改善を掲げることによって大衆の支持を得た首長たちは社会資本の整備や社会福祉の充実など一定の成果をあげた。しかし社会党のバックアップの稚拙さ、共産党との関係の悪化などによって足を引っ張られる局面もあり、それが改革に悪影響をもたらす。選挙によって全てが変わることを願ってしまう大衆の欲望は当時も今も変わらんのだなーという結び。
読了日:9月21日 著者:岡田一郎
http://bookmeter.com/cmt/59172767

 

ニッポニアニッポン

ニッポニアニッポン

 

 ■ニッポニアニッポン (新潮文庫)

 トキと関わる苗字を持つ少年が、佐渡島トキ保護センターに忍び込み密殺を試みる。その犯行計画のディテールの現実的な豊かさと、内面の狂気が淡々と記述されていくパラノイアックな語りにぐいぐい引き込まれ夢中で読んだ。予期せぬものを殺害してしまったものの、追い求めた目標は取り逃がしてしまうラストの出来事に、なんというか語り手の少年をめぐるアイロニーみたいなものが凝縮されているような感じがした。
読了日:9月23日 著者:阿部和重
http://bookmeter.com/cmt/59216814

 

観念論の教室 (ちくま新書)

観念論の教室 (ちくま新書)

 

 ■観念論の教室 (ちくま新書)

 物質の存在を否定することで、こころに浮かぶ観念としてあらゆる存在を肯定するバークリの観念論の位置付けと魅力を平明に概説する。私以外の存在を否定するような、独我論的なデカルトの「暗い観念論」と対比するかたちで、バークリの観念論を「明るい観念論」とするが、なんというか否定によって逆説的にあらゆるものを肯定するような仕方がある、というロジックが強く印象に残った。デカルトの立場に立つかそれともバークリに共感するかは「私がすべて」か「ともに生きていくか」の問題と関わる、という総括も心に残る。
読了日:9月24日 著者:冨田恭彦
http://bookmeter.com/cmt/59232741

 

前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48 (ちくま新書)

前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48 (ちくま新書)

 

 ■前田敦子はキリストを超えた: 〈宗教〉としてのAKB48 (ちくま新書)

 AKB48を<宗教>として分析する。そのために社会学や哲学の様々なタームを縦横に引用するのだが、その引用によってある種の権威を借り受けることによって、自分の熱烈なファン活動を正当化し、あまつさえそこに何がしかの可能性や希望みたいなものが宿ってさえいるのだと強弁しているだけに思える。そうなるとパッチワークのように引用されるタームは自身の知性のひけらかし以上のものに思えず、他者に自己を投影して悦に入ってるだけという気がして、その意味では宗教にはまった人間の行動をなぞるパフォーマティブなテクストなのかもと思う。

 はてな匿名ダイアリーで垂れ流されてたら面白く読んでたのかも。
読了日:9月26日 著者:濱野智史
http://bookmeter.com/cmt/59294646

 

鉄道ひとつばなし (講談社現代新書)

鉄道ひとつばなし (講談社現代新書)

 

 ■鉄道ひとつばなし (講談社現代新書)

 『本』に連載されていた鉄道エッセイ。この連載始めるまでは鉄道マニアであることを隠していたこととか、連載中に「ポストもないのにこんな連載をするのはどうなんだ」的なことを老教授に言われただとか、鉄道に関することよりは周辺の事情についての記述が印象に残っている。それと父親も鉄道好きだったりしたみたいなエピソードがあると、親の趣味ってやっぱり影響受けるよなってなる。鉄道マニアだったらもっと楽しく読めるのだろうと思うのだけど、僕なんかは全然鉄道への愛が足りないなって思いました。
読了日:9月27日 著者:原武史
http://bookmeter.com/cmt/59314535

 

 ■競馬の世界史 - サラブレッド誕生から21世紀の凱旋門賞まで (中公新書)

 17世紀に英国王の庇護下で始まった近代競馬の歴史を、それを彩ってきた名馬の活躍を軸に語る。賭け事は人類にとって古くからの友人だったとは本書でも言及されているけれど、馬の速さを競う競馬がその賭けの対象になったのは意外にも最近のことなのだなーというのが純粋に驚いた。18世紀に品種改良の末サラブレッドが誕生してから本格的に競馬の歴史は始まったわけだけど、それ以降の展開は固有名詞が頻出しすぎてついていけなかったというのが正直なところ。書いていて楽しくて仕方ないのだろうなっていうのは冒頭から伝わってきた
読了日:9月27日 著者:本村凌二
http://bookmeter.com/cmt/59315852

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

 

 ■世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 上巻 (新潮文庫 む 5-4)

 現実世界とよく似た世界で、「世界が終る」らしい陰謀に巻き込まれた男を語り手とする「ハードボイルド・ワンダーランド」と、壁に囲まれ影と心を失った人々の暮らす幻想的な世界のなかで「古い夢」を読む男が主役になる「世界の終り」とが入れ替わり立ち替わり語られる。「世界の終り」は「ハードボイルド・ワンダーランド」の男の核心的な心象風景なんだろうか。村上春樹にはなんとなく苦手意識があったんだけど、謎めいた世界の仕掛けに引き込まれてすんなり入っていけた感じがする。
読了日:9月27日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59319228

 

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)

 

 ■世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド 下巻 (新潮文庫 む 5-5)

 「ハードボイルド・ワンダーランド」の冒険は語り手の男が淡々と「終り」を受け入れることで幕を閉じ、「世界の終り」の物語はその外に出ることなく、完結した不完全で完全な世界に留まり続けることを選んで結ばれる。そこにカタルシスはなく、ただ当たり前のようにあるがままの行く末を受け入れていく諦観のようなものが滲んでいるという気がして、その虚脱した感覚が今でも抜けきらずに残っている感じがある。
読了日:9月29日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59362916

 

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

 

 ■1Q84 BOOK1〈4月‐6月〉前編 (新潮文庫)

 我々の生きる現実とはほんの少し違う歴史を歩んできたらしい1Q84年を舞台に、ストイックな女殺し屋の物語と、不思議な少女の手になる小説を改作しようとする男の物語とが交互に語られる。どうやらカルト団体が一つの歴史のターニングポイントと思われる事件を起こし、また登場人物の抱える謎に深く関わっているようなのだけれど、その謎の力で物語を引っ張っていくような語り口のおかげですらすら読んでいける感じがする。末尾にある「証人会」の少女にまつわる生々しい思いでのエピソードがやたらと印象に残った。
読了日:9月30日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/59383654

 

近況

映画館でみた映画はこんな感じ。

俺達には木製バットが必要なんだ――『スーサイド・スクワッド』感想 - 宇宙、日本、練馬

恢復させる聲――『映画 聲の形』感想 - 宇宙、日本、練馬

悪夢を祓う英雄――『ハドソン川の奇跡』 - 宇宙、日本、練馬

ここではない何処かへ――『シング・ストリート 未来へのうた』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

自宅でみて感想書いたのはこんな感じ。

きっと彼を憶えてる――『劇場版 STEINS;GATE 負荷領域のデジャヴ』感想 - 宇宙、日本、練馬

戦う理由――『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』感想 - 宇宙、日本、練馬

君の/セカイの価値は――『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』 - 宇宙、日本、練馬

 

視聴したアニメはこんな感じ。

「普通」でないことの呪いと祝福――『境界の彼方』感想 - 宇宙、日本、練馬

軽やかさと青春――『TARI TARI』感想 - 宇宙、日本、練馬

 

来月のはこちら。