さらば2016年。
先月のはこちら。
印象に残った本
特に印象に残っているのは佐々木敦『未知との遭遇』。なんというか、個人的に非常に思い入れのある舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』と、アニメ版『四畳半神話大系』とがこの本によってひかれた補助線によって明確に接続されてしまったので、納得すると同時に悔しい思いを抱きました。
読んだ本のまとめ
2016年12月の読書メーター
読んだ本の数:27冊
読んだページ数:8107ページ
ナイス数:171ナイス
http://bookmeter.com/u/418251/matome?invite_id=418251
■教科書名短篇 - 人間の情景 (中公文庫)
中学国語に採録されていた歴史小説・時代小説を所収。収録されていた時期をみると60〜80年代くらいのものが大半なので、教科書で読んだ短編と再会できるのは40代から60代くらいの方になるんじゃなかろうかという感じ。前野良沢と杉田玄白を扱った一篇がとりわけ印象に残った。それと森鴎外「高瀬舟」が存外あっという間に読み終えてしまって、こんなに短かったっけってなった。
読了日:12月1日
http://bookmeter.com/cmt/60685914
インターネットの出現による社会状況の変化を俯瞰し、思想・哲学やフィクションを参照軸に「起こったことはすべてよいことである」とする最強の運命論を提唱する。如何とも分類し難いノンジャンルなテクストという印象で、「自己啓発」的と著者は述べるが確かにそういう読み方が可能だろうとは思う。しかしそれ以上に、フィクションがどのようにして我々の魂を突き動かすのか、ということを語った一種のフィクション論としても読めるという気がして、その意味で自分の頭が整理されたような気分があり読んでよかったなと思う。
読了日:12月1日 著者:佐々木敦
http://bookmeter.com/cmt/60690113
1958年に単身ブータンへと渡り、探検・調査した記録。半世紀以上前はまだまだ世界に「秘境」と呼べるような、「近代」とは隔絶した国が残っていたのだなということに気付かされ驚く。しかし著者が苦労して山道を歩いて到達した「秘境」も、20年後には自動車用の道路が整備されどんどん近代的なるものが侵入していっている、というのは無常を感じざるを得ない。著者の専門は植物学だが、社会の様子などにも目が行き届いていてそういう部分も面白く読めた。
読了日:12月3日 著者:中尾佐助
http://bookmeter.com/cmt/60733894
■頼子のために (講談社文庫)
娘を奪われた父親の復讐劇を記した手記。そこに書かれていることは果たして真実なのか?手記というテクストの虚構が次第に明らかになっていく展開部、殺人の全容を探偵が暴露するクライマックスとそれぞれ引き込まれておもしろく読んだのだが、最後の最後、この事件を仕組んだ真の人物が立ち現れるラストに絶句の衝撃。なんというかゲームのルールが突然書き換わってしまった感じというか、完全にやられたという感じ。
職場の人に激推しされて読んだんですが、期待以上におもしろかった。
読了日:12月4日 著者:法月綸太郎
http://bookmeter.com/cmt/60741304
変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)
- 作者: カフカ,丘沢静也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 36回
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■変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)
「判決」、「変身」、「アカデミーで報告する」、「掟の前で」の四編を所収。どんな状態に変化したとしても考えることはまず第一に仕事のことを考えてしまう「変身」のグレーゴルの心理って、今になってようやく得心したという感じがする。訳文は読みやすくすらすら流れていくような調子。
並行して読んでいる『失われた時を求めて』とどうしても引き比べてしまうのですが、「変身」が圧倒的に労働者の生活感を感じさせるのに対して、『失われた時を求めて』は登場人物から全然労働という営みを感じさせない小説だよなあと。
読了日:12月5日 著者:カフカ
http://bookmeter.com/cmt/60776688
寝る前にちまちま読んでいたのだけど、旅行に行きたいなーという気持ちが高まって眠りにつけるのでなかなかよかったのではないかと思いました。
読了日:12月6日 著者:原武史
http://bookmeter.com/cmt/60801631
スタン・ゲッツからブライアン・ウィルソン、スガシカオまで様々な対象を取り上げた音楽語り。自身の音楽経験を大きな柱として音楽を語ろうとする姿勢があるように感じられ、それはなんとなく小林秀雄的な雰囲気を感じたりもする。しかしまあ小林よりははるかに明晰な文体で書かれているのでリーダビリティが高くてすらすら読めてしまう。全体としては面白く読んだのだけどマルサリス評だけは納得いかない気持ちが強く残っている。
なんとなく感じたのは、好きでない、というか思い入れがさほどない対象を語るということがいかに困難なのか、ということ。村上春樹という語り手の筆ですら、マルサリスなり日本国内のミュージシャンを語る手つきは、うまくねえなあという感を抱いてしまったので。
読了日:12月9日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/60855027
■現代文学論争 (筑摩選書)
ここ半世紀に起こった文学をめぐる論争を辿る。江藤淳など大物とされる批評家・文学者を遠慮なしに罵って、文学論争を歴史の裁判官的に裁いていくその語り口が本書の魅力なのだろうなと思う。時代が離れた論争については、情報の取捨選択と醒めた目線でおもしろく読ませるのだけど、著者自身が当事者的に関わった論争なんかは記述が冗長に感じられもした。
読了日:12月10日 著者:小谷野敦
http://bookmeter.com/cmt/60869231
■幼少の帝国―成熟を拒否する日本人
日本文化を規定するのは「未成熟性」であるとの紋切り型にのっかり、その紋切り型をアップデートするために様々な対象を取り上げて論じ、時にその未成熟性と関わる文化の担い手にインタビューを行う。あとがきにもあるように、連載途中に東日本大震災が起こったことでギアが切り替わっているという印象を受けて、それ以降は未成熟なままでどのような未来を構想してゆくのか、という問いが前景化しているような印象。結論もまた日本文化論の紋切り型にとどまっているような気はするけど。
読了日:12月10日 著者:阿部和重
http://bookmeter.com/cmt/60876758
■イスラームの論理 (筑摩選書)
われわれのイスラームへのまなざしを規定するオリエンタリズムを浮き彫りにするところから始まり、イスラームの教義、歴史について概説する。われわれのイスラーム理解についての議論は様々な研究を引用しつつ淀みなく流れていておもしろく読んだのだけど、イスラームそのものについての概説になるとどことなく散漫な印象を受けてしまって、あまり頭に入ってこなかった。
読了日:12月10日 著者:中田考
http://bookmeter.com/cmt/60878974
■消費者の戦後史―闇市から主婦の時代へ
戦後日本における消費者のイメージがどのように形成され、変化していったのかを、闇市や生協運動、消費者教育など様々な事例を取り上げて論じる。とりわけ興味深かったのが、カラーテレビの価格をめぐる運動のなかで、消費者団体が消費者全体を代表するかのような「仮想の集団性」に依拠していた、という見立て。この運動を機に、消費者団体は消費者一般の後ろ盾をもつ、というよりは消費者の代弁者として自身の位置を規定していくようになった、というのも。
読了日:12月11日 著者:原山浩介
http://bookmeter.com/cmt/60889775
■職業としてのAV女優 (幻冬舎新書)
AV女優が実際にどのように業界に入り、仕事をし、そして引退するのかを、当事者のインタビューを交えつつ説明する。ここ10年くらいのあいだに、「安心で安全」、クリーンな業界へと変化しつつある、という見立てで、それとパラレルに自ら業界に入りたいと志願する女性も増えていて、AV女優は売り手市場から買い手市場へと変化しているとする。引退後の人生にしても、想像していたよりはるかに「表社会」に軟着陸している様子が指摘されていて、(著者の主張とは異なるかもしれないが)AV女優もふつうの労働者化しているのかなという印象。
読了日:12月11日 著者:中村淳彦
http://bookmeter.com/cmt/60900264
『ゴジラ』シリーズと『エヴァンゲリオン』シリーズについてそれぞれ論じたテクストが収められている。一応繋がりはあるがそれぞれ独立して読めるのではという印象もあって、『シン・ゴジラ』公開に合わせて、という商売っ気を感じなくもない。公開前に出版されているので『シン・ゴジラ』については触り程度しか触れられていなくて、今読むと非常に尻切れとんぼ感を受けてしまう。しかし両シリーズの概説って意味ではそれほど悪くないのかもとも思うのだけれど。
読了日:12月12日 著者:長山靖生
http://bookmeter.com/cmt/60922801
帰ってきたマルタン・ゲール―16世紀フランスのにせ亭主騒動 (平凡社ライブラリー)
- 作者: ナタリー・ゼーモンデーヴィス,Natalie Zemon Davis,成瀬駒男
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 1993/12
- メディア: 新書
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■帰ってきたマルタン・ゲール―16世紀フランスのにせ亭主騒動 (平凡社ライブラリー)
ある日突然行方をくらました夫が、8年の時を経て妻の元に帰ってきた。しかし男は本物ではなく、夫になりすました詐欺師だったのである。16世紀フランスで起き、やがて裁判に至るこのエピソードを丹念に拾い上げ、その特殊な事件からその時代人々の生活・心性を浮き彫りにしたこの著作は、所謂社会史研究の成果のなかでも極めてスリリングではなかろうか。事実は小説より奇なりを地でいく裁判の展開を終えて、それを書き残した裁判官の思考へと沈降していく最終盤が、事件の記述と同じくらい、いやそれ以上に読ませる。大変おもしろく読んだ。
新品は品切れ状態で、中古もいいお値段するので買う踏ん切りがつかず、いよいよ図書館で借りて読んでしまった。平凡社さん復刊してくれ。
読了日:12月13日 著者:ナタリー・ゼーモンデーヴィス
http://bookmeter.com/cmt/60945963
失われた時を求めて〈3 第2篇〉花咲く乙女たちのかげに 2 (ちくま文庫)
- 作者: マルセルプルースト,Marcel Proust,井上究一郎
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1992/12
- メディア: 文庫
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■失われた時を求めて〈3 第2篇〉花咲く乙女たちのかげに 2 (ちくま文庫)
バルベックでの療養の日々。友人サン=ルーとの交歓、偉大な芸術家との出会い、そしてアルベルチーヌとの恋。丹念に執拗にその断片が描写されていく、海辺のリゾートの像が非常に眩しくてそれが花咲く乙女たちとのエピソードをより鮮烈な印象にしているのではないかなという感じ。ひとまず海辺の日々が終わってしまったけど、語り手の回想は今度はおれを何処に連れていくつもりなのだろうか。何処であれ、ひとまず語りの流れに身を委ねてゆっくりとついていきたい。
結局年内に最後までページを繰れたのはこの巻が最後でした。2017年中には時を見出していきたいんですけどね。
読了日:12月14日 著者:マルセルプルースト
http://bookmeter.com/cmt/60961433
■言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)
「言葉は、どれほど鋭くても、またどれほど多くの人々の声となっても、一台の戦車さえ破壊することができない。戦車は、すべての声を沈黙させることができるし、プラハの全体を破壊することさえもできる。しかし、プラハ街頭における戦車の存在そのものをみずから正当化することだけはできないだろう。…1968年の夏、小雨に濡れたプラハの街頭に相対していたのは、圧倒的で無力な戦車と、無力で圧倒的な言葉であった。」全体としては加藤周一の時評的な文章のベスト盤という感じ。
読了日:12月14日 著者:加藤周一
http://bookmeter.com/cmt/60961691
- 作者: 岡崎武志,山本善行,カバーイラスト=石丸澄子
- 出版社/メーカー: 工作舎
- 発売日: 2008/06/24
- メディア: 単行本
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■古本屋めぐりが楽しくなる―新・文學入門
対談という形式で内輪の褒め合いと自慢話に終始しておりよくもまあ「新文学入門」なんて書名をつけられたもんだよなと思う。自分たちの話が面白いと信じて疑わない高校生が大人になってしまった感じがして非常にうすら寒いものを感じた。珍しい本を安値で手に入れた的マニアの自慢話に付き合える奇特な読者が日本の何処かにいるのだろうとは思うのだけど、なんというかぴりぴりした気分の時に読む本ではなかったなという感じ。
読了日:12月14日 著者:岡崎武志,山本善行
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■あの作家の隠れた名作 (PHP新書)
12人の作家の短編を取り上げて論じる。著者が依拠する「テクスト論」にべったりという感じではなく、作家その人についても言及しているあたり若干力の抜いた語り口になっているのかなという感じ。芥川龍之介「蜜柑」の列車がボックスシートかロングシートか、の話は別のところでも読んだ気がするのだけど我々読者の読みのバイアス(語り手の少女に対する悪意にあてられて、描写されていない車内をボックスシートだと錯誤してしまう)を露わにしているという意味で大変面白い話だよなと。
読了日:12月15日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/60985264
守銭奴スクルージがクリスマスの精霊に導かれ記憶のなかを巡礼する。以前読んだ訳はなんというか肩肘張った感じで時代を感じさせたのだけど、この古典新訳文庫版はすらすら流れるような印象で非常に読みやすかった。Amazonなんかだとあまり使われない漢語の使用を批判している声を見かけるけど、このくらいの言葉を選んだほうが時代の空気感がでていいんじゃないの、と思う。金に執着し節制を旨とするスクルージに共感する度合いって年を重ねるごとに高まっていくような気がする。
読了日:12月18日 著者:ディケンズ
http://bookmeter.com/cmt/61042795
人間なき復興: 原発避難と国民の「不理解」をめぐって (ちくま文庫)
- 作者: 山下祐介,市村高志,佐藤彰彦
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/11/09
- メディア: 文庫
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■人間なき復興: 原発避難と国民の「不理解」をめぐって (ちくま文庫)
福島第一原発事故後の政府の対応、復興のあり方について都市社会学者二人と被災者とが論じる。専門家も本当には被災者のことをわかっていないという「不理解」の問題、「帰れない」ほど汚染が進行しているのに、避難者帰還を推し進める政策の矛盾、支援者と被災者との関係を再考する必要がある、などなど。こうしてみると、震災の影響が未だ生活を左右している人々がいるのだという当たり前のことに気付かされる。
読了日:12月22日 著者:山下祐介,市村高志,佐藤彰彦
http://bookmeter.com/cmt/61116646
■裏側からみた美術史 (日経プレミアシリーズ)
美術史にまつわるエッセイ20篇を所収。芸術家と人格の問題、画家の晩年についての考察などなど、著者の美術論というか芸術論がストレートに開陳されているという感じがしてなるほどなーと読んだ。藤田嗣治の戦争絵画を非常に高く評価しているのが印象に残っていて、機会があったら実物を見てみたいなーと。図版は豊富に引用されているのだけど、いかんせん多くがモノクロなのでそれはちょっと残念だった。
読了日:12月24日 著者:宮下規久朗
http://bookmeter.com/cmt/61158430
■批評メディア論――戦前期日本の論壇と文壇
1920〜30年代における文壇あるいは論壇というメディアの「環境」、あるいは「生態」を摘出しようと試みる。「メディアはメッセージである」というマクルーハンのテーゼに貫かれているという印象で、編集から始まり時評や座談会など、論壇を形成する「形式」ごとに章立てされ、それぞれの環境が論じられている。そこで浮かび上がってくるのは、固有名の持つ強烈な磁場であった、というような結論だったような感じ。小刻みにジャブを打ち込んでいくような文体がリズミカルで心地よかった。
読了日:12月25日 著者:大澤聡
http://bookmeter.com/cmt/61199725
■生きられたニュータウン -未来空間の哲学-
ニュータウンを透明で平穏な、「現実感」を喪失した空間であるとして、その空間のもつ意味を考察していく。安部公房が有力な補助線として度々引用され、ニュータウンの空間的な限定を突破する縁も安部のテクストのなかに読み取っている。哲学的な立場からなされる空間論・都市論はこういう手つきで物事を語ってゆくのだなーと。社会学的な手つきとは全然感触が違うなという印象で、例えばニュータウンが形成されるに至る歴史的な経緯とかはすっ飛ばして「ニュータウン=現実感がない」という前提の共有を迫られるので読み始めは結構面食らった。
読了日:12月26日 著者:篠原雅武
http://bookmeter.com/cmt/61210515
■砂漠の思想 (講談社文芸文庫)
エッセイをまとめたものだが、社会批評、映画論から対話篇まで種々様々な内容・形式のテクストが含まれていて、全体として統一的なトーンは感じられない。その散漫さのなかに身を委ねて読んでいくような本なのだろうなと感じた。『砂の女』がまさしく「砂漠」の作品であるように、安部の作品を貫くモチーフとしての「砂漠」に着目した沼野充義の解説はなるほどなーという感じ。それに幼少期の満州の経験が反映されている、というのを安部自身が語っている箇所がとりわけ印象に残る。
読了日:12月27日 著者:安部公房,沼野充義
http://bookmeter.com/cmt/61230719
■日本の大問題 「10年後」を考える ─「本と新聞の大学」講義録 (集英社新書)
反知性主義、医療問題、アメリカの格差、感情の劣化、ナショナリズムとオリンピック、介護の6つのトピックについての講義を収める。大澤、宮台に目を引かれて手に取ったのだけど、それぞれ新書的な内容をさらにかいつまんで説明しているという感じで、特に上昌広の医療問題のセクションは勉強になった。宮台は結局のところ尊敬できる人間に感染しろ!ってところに着地するので、この15年くらいなんというか手口を変えて同じことを言い続けてるよなってなる。
読了日:12月28日 著者:一色清,姜尚中,佐藤優,上昌広,堤未果,宮台真司,大澤真幸,上野千鶴子
http://bookmeter.com/cmt/61256401
ヘーゲルについての概説書。本書の特色は、ポストモダン思想によって散々批判の対象になったヘーゲルを、その批判を経由して読み直そうと試みたことにある、という気がする。ルソー、カント、そしてフランス革命という時代状況を補助線として、『精神現象学』を人間の精神と社会制度との関わりという文脈を意識して読解していく試みが本書の中核をなしている、という感じ。その一方でヘーゲルの限界は限界として、歴史的な位置を考慮しつつも指摘していて、なんというか程よい距離感のようなものを感じた。
読了日:12月29日 著者:西研
http://bookmeter.com/cmt/61267599
■宮沢賢治を創った男たち
宮沢賢治の再読解を試みたテクストを集めた論文集的な体裁なのだが、本書の読みどころはなんといってもタイトルにある「宮沢賢治を創った男たち」を扱った第5章だろう。死後、全集を売らなければならないという商業上の要請と、彼の才能に着目していた「中央」の草野心平らの試みの相互作用によって、岩手県の地方紙で宮沢賢治を大きく宣伝する動きがあり、それが「偉人」としての宮沢賢治を形成する機能を果たした、というのが大筋だろうか。こうして神話が作られる過程を追う作業は読んでいて非常に面白いなと思う。
1章の、「グスコーブドリの伝記」を「地方」において挫折する知識人の物語とする見立てなんかは非常におもしろかった。
読了日:12月29日 著者:米村みゆき
http://bookmeter.com/cmt/6127970
近況
12月に映画館でみたのは以下の2本。
Run for your life ――『ポッピンQ』感想 - 宇宙、日本、練馬
血塗れの希望――『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』感想 - 宇宙、日本、練馬
オアシスのドキュメンタリーもみに行きたかったのですけどねー。
アニメはこんな感じ。
『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』感想、あるいは世界の始まり - 宇宙、日本、練馬
魔女の平熱――『ふらいんぐうぃっち』感想 - 宇宙、日本、練馬
それと、コミケで個人誌を多くの方に手に取っていただいたのは非常にうれしかったです。ありがとうございました。
2017年もやってきましょう。
来月のはこちら。