宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2016年1月に読んだ本

 えー、生きています。生きてることに感謝って感じです。はい。

 先月のはこちら。

2015年12月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

人類資金(上)

人類資金(上)

 

  1月の読書時間の大半は福井晴敏『人類資金』に費やされたという感じが。福井さんの作品には中学生ぐらいのころめちゃくちゃ嵌っていたのですがしばらく遠ざかっており、久々の再会だったのですが福井さんのほうは以前とおかわりない感触でおられて、なんというか安心しました。これはちゃんと感想書こうかなと思いますね、はい。

 

読んだ本のまとめ

2016年1月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:5080ページ

 

ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)

 

 ■ガラスの街 (新潮文庫)

 ニューヨークを探偵役の男が徘徊する。ダニエル・クインでありウィリアム・ウィルソンでありポール・オースターであるその男は、依頼を受けることによって探偵という役割を背負わされるわけだけれども、その行き着く先は何処でもない場所であり、其処に逢着した時、男は何者でもなくなる。探偵という役割を請け負うがゆえに、バベルの塔の神話、卵の比喩など思わせぶりなガジェットや物事に過剰に意味を読み込んでいく様は、メタ探偵小説っぽい。探偵役の辿る道筋をなぞっていくのが楽しかった。
読了日:1月1日 著者:ポールオースター
http://bookmeter.com/cmt/52992139

 

ベンジャミン・バトン  数奇な人生 (角川文庫)

ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (角川文庫)

 

 ■ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (角川文庫)

 デビット・フィンチャーにより映画化された表題作をはじめ、未邦訳だった作品を所収。ミステリ仕立ての作品がいくつかあって新鮮だったのだけれども、なんというか僕がフィッツジェラルドのよさだと感じている挫折やら敗北のイメージをまとった人の姿をみたいなものと、ミステリというジャンルはあまり噛み合っていなくてそれほど…という感じ。その点、表題作はファンタジー的な要素が核となっているけれども結局は人生における孤独を描き出しているという気がして、よかった。
読了日:1月1日 著者:フィツジェラルド
http://bookmeter.com/cmt/53008357

 

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

 

 ■幽霊たち (新潮文庫)

 ある男の監視を依頼された私立探偵ブルーは、その退屈さと無意味さと向き合わされ、やがてその役割から逸脱していく。訳者解説の言葉を借りるなら、登場人物が「どこでもない場所」で「誰でもない人間」になっていく物語。部屋の中に消えた『ガラスの街』の男と対象的に、ブルーは部屋の外へと出ていく。だからこの小説は、与えられた部屋の息苦しさとその中での苦悶とか煩悶とかを描いていたのかなーとか思ったりした。
読了日:1月2日 著者:ポール・オースター
http://bookmeter.com/cmt/53024914

 

テロルと映画 - スペクタクルとしての暴力 (中公新書)

テロルと映画 - スペクタクルとしての暴力 (中公新書)

 

 ■テロルと映画 - スペクタクルとしての暴力 (中公新書)

 テロリスムが映画のなかでどう扱われてきたのか、個別の作品の検討を通して映画がテロの時代において成しうることを探る。『ダイ・ハード』的な、テロをスペクタルとして提示する善悪二元論的なエンタメが連綿と制作され続ける一方で、「テロリスムの不可能性と不可避性」に真摯に向き合った作品もあるとし、専ら後者の分析にページが割かれる。具体的にはブニュエル若松孝二ファスビンダー、ベロッキオの四人のフィルムが検討に付される。それらのフィルムを未見でも文章を読ませるのは流石という感じ。

 本文中でも触れられていたけれど、ISの映像戦略によってテロルと映画の関係は本書で論じられているような次元とは異なる段階へと進んだといえるのかも。本書が分析の際にそれほど力点を置かなかった(ように思われる)スペクタル性にこそ、より注意が払われるべきなのでは、と思ったりもした。それと序章でネタバレをうんぬんするのは~みたいなしょーもない文字列があり、おれやっぱりこのひとのこと好きじゃねーわ、と再確認。
読了日:1月4日 著者:四方田犬彦
http://bookmeter.com/cmt/53089289

 

人類資金1 (講談社文庫)

人類資金1 (講談社文庫)

 

 ■人類資金1 (講談社文庫)

 戦後のどさくさに紛れて隠匿された「M資金」。その名を騙った詐欺によって生きてきた男が、謎の男から依頼を受ける。「M資金」を盗んでもらいたい、と。くたびれた中年男性と、怜悧な青年とのコンビが組まれるんだろうなという予感があって、なんというかいつもの福井晴敏感があって安心する。これまで日本という国の問題に焦点を当ててきた福井が今回照準を合わせるのは、資本主義というシステム。それと男たちをどう対峙させ、そしてどんな答えを提示してくれるのか、というのが楽しみだと思えるイントロだった。
読了日:1月9日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53205368

 

人類資金2 (講談社文庫)

人類資金2 (講談社文庫)

 

 ■人類資金2 (講談社文庫)

 謎の男からの依頼の前に立ちすくむ詐欺師。脳裏に浮かぶは、「M資金」に絡んだ事件で落命した師の背中。そんな詐欺師に政府の追っ手が迫る。2巻では過去の因縁と追跡劇が展開されるんだけれども、逃走経路が打ち捨てられた地下鉄、地下道っていうのが印象的というか、作品のテーマ的なものを暗示しているような気がする。忘却された過去の遺産は、忘却されたとはいえ消え去ったわけではなく未だ奥深くに確固としてあって、それとどのように相対するのかというのが主人公たちに突きつけられた問いの一つなんじゃないか。
読了日:1月9日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53210644

 

フィッツジェラルド―愛と彷徨の青春 (丸善ブックス)

フィッツジェラルド―愛と彷徨の青春 (丸善ブックス)

 

 ■フィッツジェラルド―愛と彷徨の青春 (丸善ブックス)

 フィッツジェラルドの評伝。学生時代からデビューまでの記述が厚く、体格ゆえにフットボールでの成功を断念したりとか恋愛での挫折とか、創作活動に熱を入れすぎたがゆえに学業がおろそかになっていったりだとか、小市民的なエピソードが豊富でおもしろかった。それとヘミングウェイとの交流なんかもとってつけたように記述されている。死の場面から始まるのにもかかわらず、なんというか本筋の記述が尻切れトンボでそこまで達していない、という印象を受けてしまった。
読了日:1月11日 著者:森川展男
http://bookmeter.com/cmt/53252045

 

ニッポンの音楽 (講談社現代新書)
 

 ■ニッポンの音楽 (講談社現代新書)

 70年代から現在までの、ニッポンの音楽の物語=歴史を提示する。はっぴいえんどYMO渋谷系/小室系、そして中田ヤスタカと、それぞれのディケイドを代表するアクターを選び取り、J-POPが胚胎し実を結び、そしてその役割を終えるまでをクリアーに語っている。全体を導く一つの糸として海外音楽との関わりが重要視されており、J-POP的なものの終わりは、すなわち音楽文化における「外」と「内」の無意味化と重ね合わせていると感じた。

 筆者も認めるように物語=歴史の語りから零れ落ちたものが少なくないとはいえども、何かを取り零すのは歴史の語りの常であるとも思うし、半世紀にわたるクリアカットな見取り図を提示してそれを流れるように読ませてしまう力量にうなった。
読了日:1月15日 著者:佐々木敦
http://bookmeter.com/cmt/53349264

 

日本人のためのアフリカ入門 (ちくま新書)

日本人のためのアフリカ入門 (ちくま新書)

 

 ■日本人のためのアフリカ入門 (ちくま新書)

 私たちがアフリカに向ける「まなざし」とはいかなるものなのか。記者としてアフリカを見てきた著者が様々な事例をもとに日本人のアフリカ観の偏りを指摘する。アフリカについての知識を提供するというより認識の枠組みを検討するという戦略は、サイードオリエンタリズム』を想起させ、「あいのり」やらせ疑惑などキャッチーな話題から問題が展開されるので引き込まれる。アフリカは「貧しい地域」という先入観が、対等の関係というよりは一方的な援助を行うという政府の方針にも影響している、というのはなるほどなーと。

 熟練労働者の不足や乳幼児死亡率の高さなどアフリカのネガティヴな面も触れられているが、そうしたことを踏まえても一方的に助けてやる、みたいな関係性ではなく学ぶべきところは学んでいくべき、というのが著者の姿勢だろうか。しかし、アフリカのことって相当アンテナを高くしてないとなかなかわからんよなーとも思ったり。それでも報道が無意識的に依拠している「まなざし」を意識化してニュースを眺めるだけでもだいぶ違うのかもですが。
読了日:1月21日 著者:白戸圭一
http://bookmeter.com/cmt/53511623

 

アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)

アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)

 

 ■アメリカ文学のレッスン (講談社現代新書)

 名前、家族、食べる、家を建てる…など様々なトピックからアメリカ文学を語るエッセイ。著者の守備範囲の広さが半端ではなく、アメリカ文学史上の人物や作品が選択されたトピックによってアクロバットに結びつく語りの手つきに唸る。家を建てることが、「セルフメイドマン」にとって持った意味、また翻訳することの意義みたいな話が印象に残っている。
読了日:1月22日 著者:柴田元幸
http://bookmeter.com/cmt/53520754

 

愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書)

愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書)

 

 ■愛国・革命・民主:日本史から世界を考える (筑摩選書)

 愛国・革命・民主という三つの政治課題に着目して日本近代史を比較史的に眺めることで、歴史における「普遍」的なものを掬いだそうと試みる。著者は明治維新研究の第一人者として知られ、本書で具体的に検討されるのも江戸期から明治期にかけての日本なのだけれど、複雑系の理論的モデルの援用を試みたり、比較史的な視座で中国と日本の差異を考察したり、大胆な語り口にぐいぐい引き込まれた。ナショナリズムを規定する「忘れえぬ他者」、明治維新を世界史上でも特異なものとした間接的な経路の選択などの話題がとりわけ印象的だった。
読了日:1月23日 著者:三谷博
http://bookmeter.com/cmt/53545074

 

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

優雅で感傷的な日本野球 〔新装新版〕 (河出文庫)

 

 ■優雅で感傷的な日本野球

 もはやどこにもなくなってしまった野球は、どこにもなくなってしまったことによってむしろ世界に偏在し、すなわち野球選手の目によって捉えられた世界はあらゆるものが野球の記述として読まれることになる。狂気と笑いに満ち満ちたこの小説は、しかし私たちの世界に対する認識のあり方を戯画的に示してもいる、という気もする。作品内の登場人物が野球を語るかのごとく、私たちは世界の何事かを荒唐無稽に語ってはいまいか?そう思うとゾクゾクするなあと思ったりしました。
読了日:1月24日 著者:高橋源一郎
http://bookmeter.com/cmt/53570547

 

 ■キャラ化する/される子どもたち―排除型社会における新たな人間像 (岩波ブックレット)

 生きづらさの性質が、社会の拘束力の強さにもとづくものから、人間関係の拘束力の強さにもとづくものへと時代とともに変化しているなかで、それに対応する形でキャラという役割を演じるコミュニケーションの様態が全面化してきたとする。メディアで広く取り上げられた犯罪なとの検討を通してそれを論じているのだが、なるほど確かにそうだよねという感じ。異質な他者に対して自身を開いていく必要がある、という結論はいささか紋切り型って気もするけれど、具体的な方策みたいなものを論じるには紙幅が足りないとも。

 センター試験で取り上げられたと聞いて手に取りました。

読了日:1月25日 著者:土井隆義
http://bookmeter.com/cmt/53604021

 

 ■科学を語るとはどういうことか ---科学者、哲学者にモノ申す (河出ブックス)

 物理学者と科学哲学者との対談本。物理学者側が疑問や不満を率直に投げかけ、科学哲学者がそれに応答する、という流れで全体は進行していくのだが、両者の間に流れる一触即発的な空気や、議論がすれ違って往々にして前に進まないのがこの手の対談本にしては異様な印象を与える。結局、科学者と科学哲学者とは関心の持ち方、目的設定の仕方に大きな隔絶があり、議論を重ねるにつれそれがはっきりとしていく、というような本だったと感じる。

 対談の雰囲気も異様ですが表紙力も異様。
読了日:1月26日 著者:須藤靖,伊勢田哲治
http://bookmeter.com/cmt/53629578

 

人類資金3 (講談社文庫)

人類資金3 (講談社文庫)

 

 ■人類資金3 (講談社文庫)

 真舟たちはロシアに渡り、M資金を分捕るための詐欺を画策する。騙される側の視点からの語りがいい感じに挿し挟まれていて、真舟が一流の詐欺師なんだなという印象が強烈に残る。その詐欺がうまい具合に運んだらお話が終わっちゃう以上はうまくいかないことはわかってはいたけれども、引きがこれがまたいいところで終わっていてよかったです。
読了日:1月26日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53639747

 

人類資金4 (講談社文庫)

人類資金4 (講談社文庫)

 

 ■人類資金4 (講談社文庫)

 計画の放棄を拒否し、一人暴走して窮地に陥る真舟を救うため、ついに謎の男Mがその正体を現す。その捨て身の行動の末、世界を変える手段を手に入れたMは真舟に世界が変わる瞬間を見せるという。過去に構築され現在を制約し続けるシステムと対峙するという構図は『機動戦士ガンダムUC』を想起せずにいられなかったが、いよいよその色が濃くなってきたような印象。情報端末によってシステムを人間に引き寄せる、という発想は福井なりのニュータイプ論なんじゃないか、なんてことを思ったり。
読了日:1月27日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53659568

 

人類資金5 (講談社文庫)

人類資金5 (講談社文庫)

 

 ■人類資金5 (講談社文庫)

 Mの計画は実を結んだかに思われたが、すぐにローゼンバーグの手が伸びる。そんななかついに語られだす、M資金=人類資金の来歴。5巻は背景となる偽史の展開に紙幅が大きく割かれていたような印象。地球上にネットワークをもつユダヤ資本があの事件の背景にはいたのだよ!みたいな話はおいおい勘弁してくれよと思わなくもないが、それでも読ませてしまうあたり流石といえば流石か。インターネットの普及によって資本主義のシステムを変容させようと目論むMの革命もなんというか安易な気がするのだけれど、どんなところに落とすんだろうか。
読了日:1月29日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53698828

 

人類資金6 (講談社文庫)

人類資金6 (講談社文庫)

 

 ■人類資金6 (講談社文庫)

 語り手を変えつつ、語られるは日本の戦後の影のなかで生きた笹倉一族の運命と暢人の決意。人類資金をその目的のために解き放とうとするたび闇に葬られてきた笹倉一族の信念が、暢人という人間に流れ込んでいく。そしていよいよ違う立場の三人がついに志を共有し、物語にクライマックス感が。人類資金をめぐる歴史と陰謀のドラマにどんな幕引きがなされるのか、それが単純に楽しみ。
読了日:1月30日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53721814

 

生き延びるための作文教室 (14歳の世渡り術)
 

 ■生き延びるための作文教室 (14歳の世渡り術)

 学校空間という「ガラスの壁」に囲まれた場所で生き延びるために、「個性的に見える」作文を書くための姿勢を示す。中学生向けに書かれたもので、受験国語本や国語教科書分析本で述べたことを「作文を書く」ことに特化してパラフレーズしているという印象を受けた。『坊ちゃん』の読解の過程を示すことで「個性的に見えるように書く」とは具体的にはどういうことなのか示してみせるあたり、石原は中学生を決して舐めてはいないことが伝わってきて中学生でなくても十二分に読ませる。受験国語の本もそういう感じだけど。
読了日:1月30日 著者:石原千秋
http://bookmeter.com/cmt/53735018

 

限定版 人類資金7 (講談社文庫)

限定版 人類資金7 (講談社文庫)

 

 ■人類資金7 (講談社文庫)

 本庄の遺した「爆弾」を手に、詐欺師真舟が一世一代の大博打に打って出る。そしてセキが辿り着く決戦の地。福井作品のなかでも一際異様な道具立てによって仕掛けられたクライマックスの熱量は尋常でなく、夢中で読んだ。ああこのために今までの長い長い積み重ねがあったのだなと。世界を救うという途方もない馬鹿みたいな目標を掲げて、曲がりなりにもそれを語りきってみせたことに素直に感嘆する。ルールを変えて世界を救う戦いが確かにそこから始まってゆくのだと感じさせる結末が、僕は嫌いではない。
読了日:1月31日 著者:福井晴敏
http://bookmeter.com/cmt/53756321


来月のはこちら。

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