『ザ・ウォーク』がえらく心に響いたので『マン・オン・ワイヤー』をレンタルしてきて視聴しました。こちらも大変面白かったので適当に感想を書いときます。
1974年、ワールドトレードセンターのあいだにワイヤーを架け、その上を渡ろうとした男と、それを支えた仲間たちがいた。『マン・オン・ワイヤー』の大部分を占めるのは彼らへのインタビューで、彼らの語りを通して、その偉業の細部が浮かび上がっていくという構成。
『ザ・ウォーク』では綱渡りの男、フィリップ・プティが唯一の語り手として映画を制御していたけれども、『マン・オン・ワイヤー』においては、もちろんフィリップの存在感は大きいのだけれども、彼を支えた仲間、とりわけ幼なじみでありワールドトレードセンターの綱渡りではフィリップを対岸から手伝ったジャン・ルイに大きくフォーカスが当てられているという印象。それによって『マン・オン・ワイヤー』は『ザ・ウォーク』と比べるとより多面的に偉業の全容がわかる、という気がする。『ザ・ウォーク』のフィリップ視点からはそれほどみえてこなかった共犯者たちそれぞれの葛藤とか、いらだちみたいなものが感じられるというか。そして『ザ・ウォーク』のプティがいかに自分の都合の悪いこと(女癖の悪さ)を隠蔽していたのか、みたいなこともわかっちゃったりするのが下世話に面白かったです。
ドキュメンタリーと劇映画という形式の違いはあれども、語ろうとしていることは両者ともに非常に近しいものがあるな、と感じたりもしました。それは僕がフィリップ・プティと仲間たちの物語をそういうふうにしか読めていない、ということの証左でもあるのかなとか思ったりはするのですが。
上のリンク先が『ザ・ウォーク』の感想なんですが、僕は『ザ・ウォーク』は一瞬と永遠とが、かぼそいワイヤーによってつながれる物語だと思ったわけです。一瞬と永遠とのあいだに立つのはフィリップ・プティその人であり、また芸術という営為であり、またニューヨークという街でもあった。『マン・オン・ワイヤー』においてその位置を占めるのは、なによりも友情である、と僕は感じました。ジャン・ルイは、プティとの友情はあの時を頂点にして終わってしまった、と回想する。でもそれは不滅のものでもあるのだ、と。そのようにしてあの偉業を懐かしむ人々の姿をもって閉じられるこのフィルムの感触は、『ザ・ウォーク』のそれととても似ているなと。
意外だったのは、ワールドトレードセンターそのものへの関心がフィルムから感じられなかったこと。これは『ザ・ウォーク』と極めて対照的だと思ったのですが、フィリップ・プティたちにとっては偉業こそが重要であり、建物という物質はさほど意味を与えてはいない、という感じなんですかね。彼らはフランス人で、監督のジェームズ・マーシュもイギリス人という、アメリカ人でない人々によって語られるからこそ、そういう味わいになっているのかも、とも。
『ザ・ウォーク』のジョゼフ・ゴードン=レヴィットのしゃべりのテンションの高さは本人をいい感じにトレースしてたのだなとか、なんか『ザ・ウォーク』で描かれたよりもフィリップ・プティさんやばいんじゃないかとか、そういう意味でも大変楽しかったです、はい。
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【作品情報】
‣2008年/イギリス
‣監督: ジェームズ・マーシュ