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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年12月に読んだ本

 2015年は光陰矢の如しという感じでマジであっという間に過ぎていったきがします。1年を通して比較的元気だったので、来年も(というか今年もですが)元気にやりたいです。

 先月のはこちら。

2015年11月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 1年の振り返り的な。

2015年の回顧(と展望) - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

 

  一冊選ぶならこれ。

「生きてても虚しいわ。どんなに偉いもんになってもどんなにたくさんお金儲けても、人間死んだら煙か土か食い物や。火に焼かれて煙になるか、地に埋められて土んなるか、下手したらケモノに食べられてまうんやで」*1

 だったらどうしたマザファッカー!それがなんだっていうんだよおれは生きるぜって感じの結末が最高にエモかった。

読んだ本のまとめ

2015年12月の読書メーター
読んだ本の数:30冊
読んだページ数:9095ページ

バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 ■バビロンに帰る―ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック〈2〉 (村上春樹翻訳ライブラリー)

 デビュー直後から大恐慌後までという比較的広いスパンの短編を選んで訳出している。村上の評通り表題作がもっとも心に残る。「狂騒の20年代」にどっぷり浸かったことで娘と離れ離れになった男が、正常な状態に復帰して娘との生活を取り戻すかにみえたのだけれども、結局は過去の亡霊がそれを許しはしない。この一篇がもっとも象徴的だと思うが、どれももの哀しい結末を迎える劇中の人物にフィッツジェラルドその人の姿を重ねずにはいられない。
読了日:12月2日 著者:フランシス・スコットフィッツジェラルド
http://bookmeter.com/cmt/52291914

 

ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)

ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)

 

 ■ピカレスク 太宰治伝 (文春文庫)

 井伏鱒二との関係と、自殺未遂を軸に太宰治の生涯をたどる評伝。津軽の文学青年津島修二は弱い自分を半ば演じることによって作家太宰治になっていくわけだが、津島にとっては何度も繰り返した自殺未遂はあくまで生きるための手段であった、と著者は見立てる。他人に寄りかかりなんとか生きようとする津島と、寄りかかられる井伏。そして、他者への共感能力を欠く井伏の「悪漢」ぶりを看過していたからこそ、「井伏さんは悪人です」と書き残すに至ったのだとする。太宰治の人生自体が一個の小説という感じで、面白く読んだ。

 昭和前期の真っ赤っかな東京の学生たちの様子が印象に残っている。
読了日:12月3日 著者:猪瀬直樹
http://bookmeter.com/cmt/52316744

 

戦後史入門 (河出文庫)

戦後史入門 (河出文庫)

 

 ■戦後史入門 (河出文庫)

 歴史学的な戦後史の見方を平易に解説する。中高生を対象にしているように思われて、著者がそういう層に向けて書くとこういう書き方になるのだなーというのが面白かった。『Always 三丁目の夕日』的な高度成長のイメージに対して、オルタナティブを提示して先入観を覆してみせる、みたいな語り口。そのオルタナティブ在日韓国人の姿であり、また永山則夫でもある。沖縄の問題にも大きく紙幅が割かれ、教科書的な語りでは取りこぼされるものこそを歴史学は着目しているのだ的な姿勢を感じた。
読了日:12月4日 著者:成田龍一
http://bookmeter.com/cmt/52340063

 

 

近代都市空間の文化経験

近代都市空間の文化経験

 

 ■近代都市空間の文化経験

 日本における都市化の近代史~カルスタ風味って感じ(適当)

読了日:12月5日 著者:成田龍一
http://bookmeter.com/b/400022526X

 

歴史学のナラティヴ―民衆史研究とその周辺

歴史学のナラティヴ―民衆史研究とその周辺

 

 ■歴史学のナラティヴ―民衆史研究とその周辺

 収められている論文が扱うのは、所謂「戦後歴史学」の総括、民衆史研究・社会史研究、松本清張を主に取り上げて文学の中の歴史認識の検討、東アジアとの関係の中での歴史学の立ち位置。
読了日:12月5日 著者:成田龍一
http://bookmeter.com/cmt/52368062

 

歴史と文学のあいだ (歴史研究の最前線)

歴史と文学のあいだ (歴史研究の最前線)

 

 ■歴史と文学のあいだ (歴史研究の最前線)

 ここでいう「文学」とは『古事記』であり『日本書紀』であり『風土記』。いわゆる近代文学を扱うものと勝手に先入観を抱いていたので面喰らう。古代において、歴史は文学として語られたのだ的なことが主張されていて、現代における客観性を基底とする歴史叙述という営みが普遍的な発想ではないのだということを再確認した。
読了日:12月6日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/52384706

 

革新幻想の戦後史 上 (中公文庫)

革新幻想の戦後史 上 (中公文庫)

 

 ■革新幻想の戦後史 上 (中公文庫)

 戦後において強い影響力を行使した革新勢力に着目しその実相を捉えようと試みる。著者の実体験と記述の筋道とが絡み合う叙述のスタイルが独特な印象。佐渡島における選挙から、悔恨共同体(©丸山眞男)が覆い隠した無念共同体を摘出する1章、雑誌『世界』とその周辺を論じた2章、東大教育学部から京都旭丘中学まで、左翼が権勢を振るった教育界を論じる3・4章、という感じ。戦後民主主義を担った革新勢力の内実は、戦前に体制に迎合した人々の似姿となってはいないか、というの批判が全体的な背景としてあるように感じた。
読了日:12月8日 著者:竹内洋
http://bookmeter.com/cmt/52441607

 

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

 

 ■知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ (講談社+α文庫)

 物事を「複眼的」にみるための技術を伝える。物事を問うにあたって、それを要素に分解に様々な角度から問うてみること、実体論的にではなく関係論的にとらえることがその骨子ではないかと感じた。偏差値という一つの指標に過ぎないものががあたかも実体をもっているかのように論じられる現状や、「いじめ」によるラベリングなど、著者の専門領域とも重なるような実例が適宜示され、それを基に技術を説明するので理解の助けになった。自分の専門が強固にあるってのはやっぱり途轍もないアドバンテージだよなー。

 理解はともかく、複眼的な思考を意識的に実践するのは容易くはないんだろうけども。この手の本は読んで「なるほどね」となって満足して往々にして実践できない感あるんだけど、それはおれの意識の低さが何よりの原因でしょう。
読了日:12月9日 著者:苅谷剛彦
http://bookmeter.com/cmt/52456110

 

ハリウッド100年史講義―夢の工場から夢の王国へ (平凡社新書)

ハリウッド100年史講義―夢の工場から夢の王国へ (平凡社新書)

 

 ■ハリウッド100年史講義―夢の工場から夢の王国へ (平凡社新書)

 制作、上映、観客という三者を視野に収め、ハリウッドの辿ってきた歴史を叙述する。映画の誕生から説きおこしてくれていたり、作品だけでなく産業構造の変化を重要なファクターとして論じおり、情報量が多く尚且つ平易。ハリウッド創世期から1960年代くらいまでの記述は厚いのだが、一方でそれ以降の記述は散漫にも感じられ、「工場」から「王国」へ、という本書全体の大きな図式もさほどクリアな見方を提供してはいない、という印象。とはいえハリウッドのたどった道筋をなんとなくおさえることができた気がし、勉強になった。
読了日:12月9日 著者:北野圭介
http://bookmeter.com/cmt/52459627

 

革新幻想の戦後史 下 (中公文庫)

革新幻想の戦後史 下 (中公文庫)

 

 ■革新幻想の戦後史 下 (中公文庫)

 下巻では福田恆存の平和論に対するリベラル派の過剰ともえいる反応から、ベ平連小田実、そして全共闘への道筋をつけた知識人界の変容を示唆し、革新幻想が日本の社会にもたらしたものを論じる。革新幻想の一翼を担う近代的人間類型(©️大塚久雄)的なものを大衆に訴えかけたのが『青い山脈』で知られる石坂洋次郎でないかと位置づける。石坂が読まれなくなっていった1964年ごろをひとつのターニングポイントと捉え、革新幻想が大衆のあいだにすっかり定着し結果的にはクレーマーに象徴される大衆エゴイズムを招いたのだとする。

 対抗的な性質をもっていた思想が結局のところ護教思想へと転化するという皮肉を戦後思想史にみとり、革新幻想がもたらした「大衆の幻像」によって監視されているかのごとく人々が振舞っているのが現代日本である、とする著者の結論はあまりに悲観的、というよりも大衆社会批判として紋切り型なのでは?とか思ったりしたのだけれども、語り口は巧みだよなーと。
読了日:12月13日 著者:竹内洋
http://bookmeter.com/cmt/52541702

 

近代日本の批評1 昭和篇(上) (講談社文芸文庫)

近代日本の批評1 昭和篇(上) (講談社文芸文庫)

 

 ■近代日本の批評1 昭和篇(上) (講談社文芸文庫)

 柄谷の報告をもとに昭和期の批評、文壇をめぐる座談会。大正的なものからの切断と、昭和10年前後になってのその復興、というのが大きな見取り図としてはあるのだろうな、というのはなんとなく理解した気になったのだけれども、前提知識がなさすぎて話題が個々の批評家、文学者に及ぶとわかったような顔して頷くのが精一杯みたいな感じ。言及の対象にアプローチしてみて、またこの座談会に戻ってくる、みたいな迂回路を経たら面白く読めるんじゃないかという気はするんだけれども。

 「小林秀雄マルクス主義の話しかしてねえ」と『ゲンロン』誌上の座談会で総括されてたけど、たしかにそんな感じ。

ゲンロン1 現代日本の批評

読了日:12月15日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/52596247

 

 ■近代日本の批評2 昭和篇(下) (講談社文芸文庫)

 1巻に引き続き、前提を全然共有できてないので十分には理解できていないのだけれども、流石に語りの流れみたいなものはなんとなくつかめてきて、わからないなりに読めた。戦後期が俎上に上る今回の対談は、戦前と比べても文学者、批評家への目線が非常に厳しい。戦後直後は戦中に牢の中にいた連中がヘゲモニーを握ったが故に知性に欠ける、文学や批評が自明のものとして存在するという臆見と、緊張感のなさ。そうしたことを指弾する舌鋒の鋭さばかり印象に残った。
読了日:12月16日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/52623536

 

雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)

雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)

 

 ■雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)

 康熙帝乾隆帝と長い在位期間を誇る清朝皇帝の間にあって、やや印象薄い感のある雍正帝。短い在位期間の中で、中国における君主独裁は一つの頂点を極めた、というようにおそらく著者は評価しており、書簡を通して地方の官吏を直接統制しようとする奏摺政治のありさまを中心に据え、その生涯をたどる。多数の兄弟の中から選ばれた男を待ち受けるのは、皇帝には並び立つものなく、家族もすらもなく、ただ臣下のみが存在するという孤独。そのなかでただただ政治に心血を注いだ人物として描き出された雍正帝は魅力的であるなあと。

 書き出しがめっちゃかっこいいとおれの中で話題に。
読了日:12月17日 著者:宮崎市定
http://bookmeter.com/cmt/52645228

 

 ■釜ケ崎と福音――神は貧しく小さくされた者と共に (岩波現代文庫)

 釜ヶ崎で野宿者の支援に携わってきた神父が、その体験を基礎にしてキリストの理解を語る。キリストは、社会の底辺を這いずり続けた人なのであり、現代においてもそのような人たちこそ神に選ばれた人たちなのだ、という。そのような人を「愛する」のでも「あわれむ」のでもなく「大切にする」こと、共感することの重要性を説く。「相手の立場に立って考える」は土台無理だけれども、痛みに共感し、その感性に寄り添って社会に関わること、それが大切なことなんだと。キリストのイメージがなんとなく変わったような気がする。
読了日:12月17日 著者:本田哲郎
http://bookmeter.com/cmt/52653233

 

村上春樹翻訳ライブラリー - 冬の夢

村上春樹翻訳ライブラリー - 冬の夢

 

 ■村上春樹翻訳ライブラリー - 冬の夢

 フィッジェラルドの若き日、狂騒の20年代真っ盛りに書かれた短編を集めたもの。若き青年の希望と挫折が『グレート・ギャッツビー』と重なる表題作が抜群によくて、こういう挫折の中にほのかにかおる希望みたいなものを書かせたらフィッジェラルドはすげえ名手だなあと。ぼくがギャッツビー的なものを期待しているっていうのも大きいかもしれませんが。社会の底辺に置かれた兵士の哀愁漂う「メイデー」、絢爛豪華な王国が夢のごとく消え去る「リッツくらい大きなダイアモンド」とか他の短編も面白くよんだ。
読了日:12月18日 著者:フィッツジェラルド
http://bookmeter.com/cmt/52663110

 

軍事遺産を歩く (ちくま文庫)

軍事遺産を歩く (ちくま文庫)

 

 ■軍事遺産を歩く (ちくま文庫)

 北は根室から南は長崎まで、旧日本軍に関わる遺構についての旅行エッセイ。航空機を収容していた掩体壕が戦後は普通に生活に根ざして使われていて今でも残っていたりするとは知らなかったし、そのような形で現代まで残る軍事遺構って意外にあるんだなあと。しかし文章はしゃちほこばっていて偉そうな感じを受け、ユーモアにも欠けるので読んでいて楽しい文章ではないなーと。旅行記なのに全然楽しくない。偉そうなおっさんの顔が透けてみてる感じっていうか。
読了日:12月19日 著者:竹内正浩
http://bookmeter.com/cmt/52685866

 

悪人正機 (新潮文庫)

悪人正機 (新潮文庫)

 

 ■悪人正機 (新潮文庫)

 糸井重里吉本隆明に行ったインタビューをまとめたもの。インタビューという形式だけれども、編集の段階で糸井の存在感は希薄になっていて、各章の冒頭にイントロめいたテクストが配されているにとどまる。話題は多方面にわたっていて、それぞれ短いのだけれども、時折極めて印象的なフレーズが出てくるあたり吉本隆明は詩人だなと感じた。大学時代、就職に難儀してした時に先生からかけられたという言葉がとりわけ強く心に残っている。
読了日:12月20日 著者:吉本隆明,糸井重里
http://bookmeter.com/cmt/52704967

 

煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

 

 ■煙か土か食い物 (講談社文庫)

 狂気に満ちた家族と四兄弟の血と因縁と愛。有無を言わさぬ強引さとスピード感にぶっちぎられて一気に読んでしまった。ラブ&ピース!
読了日:12月20日 著者:舞城王太郎
http://bookmeter.com/cmt/52715573

 

要するに (河出文庫)

要するに (河出文庫)

 

 ■要するに (河出文庫)

 山形が雑誌に寄稿したテクストをまとめたもの。1995年から2000年くらいに書かれたものが収められていて、解説で稲葉振一郎も述べるように「時代の証言」的なライブ感がある。話題は経済とインターネットとに大体は分類されるんじゃないかと思うのだけれども、当時からすると山形ほどの人でも現在のような馬鹿みたいに情報のゴミの山が集積され続けるウェブの悲惨な状況ってのは予測できなかったのだなーと。「インターネットの中年化」は約20年の時を経て今からまさにその端緒にあるのではって気もするけど、どうなんですかね。
読了日:12月21日 著者:山形浩生
http://bookmeter.com/cmt/52746320

 

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

 

 ■深夜特急〈1〉香港・マカオ (新潮文庫)

 香港編とマカオ編は、やはりというか博打にのめり込む語り手の姿が強烈に印象に残っている。奇妙に博打に心惹かれてしまう瞬間の緊張感と切迫感と狂熱が文章ごしに伝わってきて読んでいて手に汗握った。賭博黙示録サワキ。博打打ちとそれ以外とをわける一線はどこにあるのか、ということについての一考は心に残る。巻末の対談はあんまり面白くはなかったのだけれども、こういう文章を書こうと思ったら小田実を強く意識せざるを得ない世代に沢木は属しているのだなー、というのを知れたのはよかった。
読了日:12月22日 著者:沢木耕太郎
http://bookmeter.com/cmt/52755241

 

「日本国憲法」を読み直す (講談社文庫)

「日本国憲法」を読み直す (講談社文庫)

 

 ■「日本国憲法」を読み直す (講談社文庫)

 92ー3年という時代が大きく対談の内容・問題意識を規定してるという印象。カンボジアへのPKOの派遣、自民党金丸の汚職、そして55年体制がついに崩壊する前夜、などなど。PKOをめぐる議論の中で、空疎な「国際貢献」がマジックワードのように飛び交う議論がなされる一方、その「国際貢献」とはなにか、それをささえる理念とはなんなのかという根本が忘却されてきたことを指摘。理想、理念、原理、原則から目をそらし、忘却してきたことこそを問題とする点で樋口、井上の議論は一貫しているように感じられた。井上相手に「その認識は間違っています」と樋口先生がちゃんと指摘していてすごいなと思いました。

読了日:12月23日 著者:井上ひさし,樋口陽一
http://bookmeter.com/cmt/52771956

 

現代日本の思想―その五つの渦 (岩波新書 青版 257)

現代日本の思想―その五つの渦 (岩波新書 青版 257)

 

 ■現代日本の思想―その五つの渦 (岩波新書 青版 257)

 観念論(白樺派)、唯物論(日本共産党)、プラグマティズム(生活綴り方運動)、超国家主義(昭和維新の思想家)、実存主義(戦後文学)という五つの潮流についての概説。戦後10年という状況のなかで、それらの思想がどのように眺められていたのか、というのが濃厚に伝わってくる。それぞれ、豊富な引用をもとに議論を展開し、評価と限界を見定めている。弁証法の理論を洗練させつつもそれと実践が著しく乖離している共産党の姿勢、伊藤博文の手になる「明治国家」を天皇の意味を読み替えることによって乗り越えようとした北一輝
読了日:12月23日 著者:久野収,鶴見俊輔
http://bookmeter.com/cmt/52790974

 

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

 

 ■それでも、日本人は「戦争」を選んだ

 日清戦争からアジア太平洋戦争に至るまで、近代日本がなぜ戦争という手段を選び続けたのか、当時の人々の思考と論理をたどる講義。加藤の文章は、なんというか読み難いイメージがあったのだけれども、中高生への授業をもとにしているだけあって、「わかりやすく伝えよう」という意志を強く感じ、様々な論点が入れ替わり立ち替わりあらわれるにもかかわらず、流れるように文字を追っていける。噛み砕いた説明を繰り返すので文章量も多いが、情報量も同じく膨大。政治過程から軍人の行動原理、民衆の心情までを射程に入れた優れた歴史叙述と感じた。
読了日:12月26日 著者:加藤陽子
http://bookmeter.com/cmt/52839237

 

映画をたずねて―井上ひさし対談集 (ちくま文庫)

映画をたずねて―井上ひさし対談集 (ちくま文庫)

 

 ■映画をたずねて―井上ひさし対談集 (ちくま文庫)

 井上ひさしと映画人たちとの対談集。特に印象に残っているのは晩年の黒澤明との対談と、『男はつらいよ』周辺の座談。『七人の侍』はやっぱりすげえ映画だよな、と思うと同時に、なんとなく敬して遠ざけてきた『男はつらいよ』もまた偉大なシリーズだったのだなーと。渥美清という役者はこんなにも寅さんというアイコンを守るために重ねた努力、キャラクターそのものに本人の経験が色濃く投影されていたこと、人々に希望を与えるような物語をマンネリだろうと作り続けた山田洋次の矜持。
読了日:12月27日 著者:井上ひさし
http://bookmeter.com/cmt/52878041

 

 ■SFに何ができるか (1972年)

 二部構成で、一部は個人史的な色彩の強い20世紀はじめから1960年代までのSF史、二部は書評が収められている。約半世紀前に書かれたテクスト群ゆえかぼくがSFに明るくないために、文脈を掴みきれなかったなと思うのだけれども、SFというジャンルの可能性を力強く信じる著者の熱量みたいなものは伝わってきた。ディック『空間亀裂』などの書評が収められているのだけれども、現代からすると巨人って感じの人がリアルタイムで作品を発表していた時代なんだなーと思うと凄まじい距離を感じる。
読了日:12月27日 著者:ジュディス・メリル
http://bookmeter.com/cmt/52889907

 

私の知的生産の技術 (岩波新書)

私の知的生産の技術 (岩波新書)

 

 ■私の知的生産の技術 (岩波新書)

 梅棹が『知的生産の技術』のその後を簡潔にまとめる序文のほかは、岩波新書創刊50年記念に募集された論文。大学教授から主婦まで、幅広い人たちの知的生産の技術が開陳されているのだけれども、いかにも梅棹のフォロワーっぽいアカデミック関連の人よりも、梅棹の本など読んでなさそうな人の生活誌が表れている文章が面白かった。脱サラして看板の文字書きを開業した人なんかは知的生産云々ではなく一つのライフストーリーを語っていてそれが面白い。その他、点字訳『知的生産の技術』を読み活用しようとする盲学校の先生の文章が印象的。
読了日:12月28日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/52892768

 

隠喩としての病い

隠喩としての病い

 

 ■隠喩としての病い

 癌と結核という、それぞれ死のイメージと強く結びついている(いた)病が、どのような特別な意味を付与されてきたのかを論じる。結核は肺という器官に結びつくが、癌は体の全体と結びつく、というように結核と癌とが対照的なイメージを持っていることを指摘。20世紀になって最早結核が不治の病でなくなってからは、癌が様々な「悪」のメタファーとして機能しているとし、やがて癌が治癒可能になるにつれそのイメージも廃れるだろうという。

 「エイズとその隠喩」も収められている新版の存在を知らずに古い版で読んでしまった。

隠喩としての病い エイズとその隠喩 (始まりの本)

読了日:12月28日 著者:スーザン・ソンタグ
http://bookmeter.com/cmt/52903304

 

平家物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

平家物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

 

 ■平家物語 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

 このシリーズは題材によって趣きが違う印象だけれど、本書は所謂「マンガで読破」に毛が生えたような感触。要約と、名場面の書き下し文、訳文、いくらかのエッセイが所収。やっぱり要約は味気ないのだけれども、木曽義仲、今井兼平主従の最期や那須与一の活躍などの名場面は楽しめるのでベスト盤的な味わい。平家や源氏の系図や地図などあったら便利なデータが一通り揃っていてよい感じ。
読了日:12月30日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/52946646

 

消費社会の神話と構造 普及版

消費社会の神話と構造 普及版

 

 ■消費社会の神話と構造 普及版

 人はなぜモノを消費するのか? それはその機能や効用に依拠するものではない。かつてヴェブレンが述べたような「見せびらかし」のためでも最早ない。消費とはコミュニケーションと交換のシステム、つまりは言語活動であり、その中で最小限の差異化が繰り返されることによって消費社会は駆動するのだとボードリヤールはいう。そのような記号との戯れは、未開の人々が崇める神話と同型の構造に依拠してもいる。そのようにして文化やサーヴィス、身体までもが「消費」の対象となっており、消費社会の神話が全社会を覆っていることを指摘する。

 再読したのだがやはり半端じゃなく面白い。ボードリヤールの語りによって、社会という巨大で茫漠たる存在が消費という一つの事象に収斂され再編成されていくようなスリリングな読み味。
読了日:12月30日 著者:ジャンボードリヤール
http://bookmeter.com/cmt/52952748

 

消費社会と現代人の生活~分析ツールとしてのボードリヤール (早稲田社会学ブックレット? 現代社会学のトピックス 5)

消費社会と現代人の生活~分析ツールとしてのボードリヤール (早稲田社会学ブックレット? 現代社会学のトピックス 5)

 

 ■消費社会と現代人の生活~分析ツールとしてのボードリヤール (早稲田社会学ブックレット 現代社会学のトピックス 5)

 ボードリヤールは二通りの仕方で受容されてきた、と著者はいう。一つは、思想や批評の領域においてポストモダン思想として、もう一方はマーケティングの方法論として。そのような前提を踏まえ、ボードリヤールをコミュニケーション論的な観点から読み、その「使用価値」を示す、というのが本書の戦略。「使用価値」ではなく「記号価値」を消費するのだ、というところにはじまるボードリヤールの発想の骨子、そこから眺められる消費社会の特質について簡潔に理解することができる。

 簡潔平明でこれ以上分かりやすくはできないだろうなというほど噛み砕いた説明がなされるのだけれども、噛み砕いた結果ボードリヤールの語りというか思想のもつダイナミズムというか、分析の面白さみたいなものが捨象されてしまっているのでは、とも。その面白さっていうのは、言い換えるなら社会の像が一変するような感覚、とでも言えそうな気がするのだけれども、そういうものを求めるならボードリヤールの著作にあたるのが一番近道なのだろうとも思う。だからこの本は結構いい線いってるんじゃないか?(えらそう)
読了日:12月30日 著者:矢部謙太郎
http://bookmeter.com/cmt/52956694

 

 来月のはこちら。

amberfeb.hatenablog.com

*1:p.162

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