宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年11月に読んだ本

 11月もわりに元気にすごしました。がんばりましょう。

 先月のやつ。

 2015年10月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

  特に印象に残ったのはミヒャエル・エンデ『モモ』。名作を読んでいないということは恥ずべきことであるという以上に、これからその名作との出会いを果たし人生を豊かにできるのだということをかみしめて生きていきたいですね。教養主義的暴力に抗ってゆきたい。

  それと、Twitterでおすすめしていただいて漫画喫茶で読んだ中島三千恒軍靴のバルツァー』も面白かった。いままでは敬して遠ざけてきた軍事史方面にもちょびっと興味がでてきた。ガルパン効果でわなぃ(震え声)

読んだ本のまとめ

2015年11月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:7953ページ

 

日本全国近代歴史遺産を歩く 講談社+α新書

日本全国近代歴史遺産を歩く 講談社+α新書

 

 ■日本全国近代歴史遺産を歩く 

 明治、大正期前後に建てられた建築物のガイド本。アクセスなど最低限の情報は掲載してあるけれども、ガイドよりは観光の楽しみ方の指針をぼんやり示すエッセイ集のような趣が強いなと感じた。遠くにお出かけする機会がしばらくなさそうなのでお出かけ気分を味わいたくて手に取ったのですが、全てを捨てて遠くに行きたくなってしまったのでよくなかったなと思いました(完)。

 斎藤美奈子『本の本』から。読書メーターも同様の人ばっかりで斎藤美奈子のパワーに驚く。
読了日:11月2日 著者:阿曽村孝雄
http://bookmeter.com/cmt/51546341

 

教養論ノート (リーダーズノート新書 S 302)

教養論ノート (リーダーズノート新書 S 302)

 

 ■教養論ノート (リーダーズノート新書 S 302)

 哲学、思想などの所謂教養は、実生活と関係をとり結ぶことなく、所詮「おたく」が「もう一つの世界」に引きこもって全能感を味わうための趣味に過ぎないのではないか?そうした疑問から出発し、現代にあるべき教養の姿を探る。現実と「もう一つの世界」を架橋する「臨床思想士」という理想の是非はともかくとして、丸山真男を大きな参照軸として教養をめぐる議論の布置を明快に整理する手際は見事。あらゆる「教養」は遊び・趣味的な要素を含まざるを得ない、という点は強く心に刻んでおくべきと感じた。
読了日:11月3日 著者:浅羽通明
http://bookmeter.com/cmt/51587355

 

信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク (角川文庫)

信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク (角川文庫)

 

 ■信仰の現場―すっとこどっこいにヨロシク (角川文庫)

 あまりメジャーではない趣味や活動の、コアなファンたちが一堂に会する(のではないかと予想される)「信仰の現場」に取材する。矢沢永吉のライブに始まり、寅さん公開初日の浅草松竹劇場、いいとも公開生放送、平成4年4月4日4時44分の四谷駅などなど多種多様な「信仰の現場」に集まる人々の様子が異世界感があって単純に面白い。だいたい20年前に書かれたものが収められているのだけれど、もう「いいとも」は終わってしまったし、それぞれの信仰の現場が現在どうなってるんだろうなーと思いを馳せたり馳せなかったり。

 これも斎藤美奈子『本の本』から。ナンシー関さんの文章にきちんとは触れたことがなかったのですが、やはり多くの人が評価するだけあって面白い。最近寝る前は専ら氏のどうでもいいエッセイを読みながらうとうとしています。
読了日:11月4日 著者:ナンシー関
http://bookmeter.com/cmt/51589172

 

サイバーパンク・アメリカ (KEISO BOOKS)

サイバーパンク・アメリカ (KEISO BOOKS)

 

 ■サイバーパンク・アメリカ (KEISO BOOKS)

サイバーパンク」と名指される作品群に関わり、その運動を担った作家たちを論ずる。詳細な作品論というよりは、サイバーパンクという運動ないし現象、そしてそれを形作った人物に大きな力点が置かれているという印象。著者による作家論も面白く読んだのだけれど、各章の中に挿入されているウィリアム・ギブスンら作家たちのインタビューがやはり印象的だった。現在からは遠い昔のことのように感じられるサイバーパンク華やかりし頃の空気をなんとなく感じることができて、それが新鮮な感じが。

 ギブスンの機械音痴エピソード、チバ行ったことないし地図も確認せず『ニューロマンサー』は「チバシティ・ブルース」を書いてた、なんて話が特に印象的。
読了日:11月4日 著者:巽孝之
http://bookmeter.com/cmt/51596601

 

モモ (岩波少年文庫(127))

モモ (岩波少年文庫(127))

 

 ■モモ (岩波少年文庫(127))

 大都市に忍び寄る時間泥棒の影。それに抗う少女モモ。時間貯蓄銀行の名を騙り人々から時間を奪い去っていく灰色の男たちと、それによって生活を律され心のあり方までも変わっていく人々の姿は、どうしても近代化の暗喩に思える。近代人のせかせかと生きる姿をソフトにグロテクスクに描きあまりにも速すぎる世の中の速度に疑問を投げかけ、そして自分の時間を取り戻すラストはあまりに明るすぎるという気もするのだけど、それにけちをつけるのは野暮って感じもする。

 時間=貨幣の暗喩と見立てる読解があるみたいだけれど、まさしく「時は金なり」©ベンジャミン・フランクリンって感じ。
読了日:11月7日 著者:ミヒャエル・エンデ
http://bookmeter.com/cmt/51679118

 

 

ららら科學の子 (文春文庫)

ららら科學の子 (文春文庫)

 

 ■ららら科學の子 (文春文庫)

 学生運動華やかりしころ、殺人未遂の容疑にかけられた男。文化大革命に揺れる中国へと逃れ、下放された農村で30年を過ごし、そして現代日本へと帰還する。浦島太郎さながらの状況に置かれた男の意識は往時と現代とを行きつ戻りつし、そうした変わってしまった東京のディテールの描写が執拗に繰り返される。それに加えて中国の回想がシームレスに挿入され、物語の筋自体は淡々としているけれども、男の混沌とした思考を文章でたどるのは面白かった。鉄腕アトムの姿に理想をみる浦島太郎が選び取った選択が胸に残る。
読了日:11月11日 著者:矢作俊彦
http://bookmeter.com/cmt/51778751

 

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 ■グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 中西部からニューヨーク郊外へと出てきた語り手は、連日連夜放埓極まるパーティーを繰り返す隣人、ギャッツビーと出会う。ギャッツビーとの出会いと別れを通して描かれるのは、語り手の青春の終わり。それは中西部的な生き方の挫折でもある。そうして語り手は故郷へと帰るが、馴染むことを拒否したところの東部的な生き方が次第にアメリカ全土に、やがては世界に広まっていくことはなんとなく予感されもする。その意味で、語り手とギャッツビーの挫折は現代社会そのものの中にいる僕たちのものでもあるのだと思う。

 のりでバズ・ラーマン監督の映画もみた。豪華絢爛だけど中盤からみていて疲れてしまった。いや面白かったんですが。
読了日:11月12日 著者:スコットフィッツジェラルド
http://bookmeter.com/cmt/51803411

 

日本仏教の思想 (講談社現代新書)

日本仏教の思想 (講談社現代新書)

 

 ■日本仏教の思想 (講談社現代新書)

 日本における仏教思想史の概説。インドや中国の仏教と比較した時の日本仏教の特色は、森羅万象がそのまま真実の姿(実相)であるとする「諸法実相」にあるとし、それを軸に仏教伝来から近代に至るまでの思想の変遷を辿っている。平安期には上流階級ないしエリートのものであった仏教は、鎌倉期に民衆に接近して世俗化し、それとパラレルに「世界構造」についての精緻な体系を放棄してしまったことが、ひとつのターニングポイントであるように感じた。世俗化とともに知的な意味でのダイナミズムみたいなものが減退する方向に舵が切られたというか。
読了日:11月15日 著者:立川武蔵
http://bookmeter.com/cmt/51869288

 

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 

 ■マイ・ロスト・シティー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 フィッツジェラルドの短編5編、エッセイ一編を所収。取って付けたようなハッピーエンドが付されている「哀しみの孔雀」以外はどれもうら寂しいというか、寂寥感に溢れた結末を迎えるのが印象に残っている。「氷の宮殿」は、(ギャッツビーで示される「東部/西部」ではなく)「北部/南部」という対立軸が鮮明で、この時代における精神的な布置みたいなものが垣間見えるような。また、いずれもフィッツジェラルド自身の経験を切り売りするような形で取り込んでいるように思えて、そういう形で作品を残していたのだなと強く感じる。
読了日:11月16日 著者:フランシス・スコットフィッツジェラルド
http://bookmeter.com/cmt/51909366

 

ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出 (平凡社ライブラリー (266))

ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出 (平凡社ライブラリー (266))

 

 ■ウィトゲンシュタイン―天才哲学者の思い出 (平凡社ライブラリー (266))

 ウィトゲンシュタインと著者の関わりを回想した評伝。ウィトゲンシュタインとの議論が挿入されているけれども、やはり伝記的なエピソードが面白い。ウィトゲンシュタインから著者に送られた手紙が多く引用されているのがとりわけ印象的で、その筆致からウィトゲンシュタインという人の佇まいみたいなものが垣間見えた気になった。こういう風に時間をかけて何度もやり取りされる手紙から醸し出されるえも言われぬ風情って、ぼくは感じたこともないしこれからも感じることはないのだろうなーなんて思うと淋しい気もする。
読了日:11月17日 著者:ノーマン・マルコム
http://bookmeter.com/cmt/51931963

 

考えあう技術 (ちくま新書)

考えあう技術 (ちくま新書)

 

 ■考えあう技術 (ちくま新書)

 道徳的な方向に偏重した徳目主義に陥ることなく、リベラリズムの立場から「学ぶことの意味」を再構築することを目指した対談。学ぶことの意味は往々にして「自分のため」のものとして考えられがちだが、その出発点を変えて「誰かのため」ないし「私たちのため」に、市民社会のなかの個人としての力能を鍛えるために学ぶ意味がある、というのが二人の共通する見解だろうか。「わかる」と「できる」の意味、学校というインフラの役目などなど、個別のトピックについて特に面白く読んだ。
読了日:11月18日 著者:苅谷剛彦,西研
http://bookmeter.com/cmt/51944623

 

 

小耳にはさもう (朝日文庫)

小耳にはさもう (朝日文庫)

 

 ■小耳にはさもう (朝日文庫)

 著者が「小耳にはさんだ」芸能人の発言をネタにしたエッセイ集。約20年前に書かれたもので、皇太子ご成婚などなど、時代の雰囲気みたいなものが濃厚に感じられる。一茂が父の指揮する巨人に移籍が決まった時珍しく不機嫌さを隠そうともしなかったとか、新興宗教に嵌まった芸能人をめぐる状況にとか、落合夫人の存在感とか、そういう個別のエピソードが印象に残った。それにしても、20年前から「テレビはつまらなくなった」っていう雰囲気があったのだなあと。
読了日:11月19日 著者:ナンシー関
http://bookmeter.com/cmt/51958218

 

吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

 

 ■吉本隆明1968 (平凡社新書 459)

 なぜ団塊世代にとって吉本隆明がヒーローたりえたのかを論じる。社会階層の移動が大きなキーワードとなっていて、乱暴に要約するなら下層中産階級から離脱していくルートを辿っていた当時の多くの大学生が、同様の出自を持ちそれを意識的に論じて「大衆の原像」を浮き彫りにした吉本の言葉に説得性を感じた、というふうな感じだろうか。普遍的なものと特殊日本的なものの葛藤に身を置き意識化していたからこそ、それをめぐる共産党やら転向知識人の欺瞞に鋭い批判を向けることができた、というようなことが吉本が影響力を持った要因、的な。
読了日:11月20日 著者:鹿島茂
http://bookmeter.com/cmt/51996327

 

白旗伝説 (講談社学術文庫 (1328))

白旗伝説 (講談社学術文庫 (1328))

 

 ■白旗伝説 (講談社学術文庫 (1328))

 白旗は降伏の意を示すものである、という万国公法に基づく認識が日本にもたらされたのは、黒船で来航したペリーが幕府に送った書簡と白旗によってである、という説を論じる。多くの書簡を論拠にしているが、それらが偽書ではないかとの批判が歴史学者からなされていて、それに対する反批判も所収。語り口が散漫な印象を受けるというか、議論が右往左往するような感覚があって読み難かったが面白く読んだ。とはいえ著者の説が妥当かどうかは判断できず、批判も含めた「白旗論争」みたいな感じで書籍化してくれたらよかったのになーと。
読了日:11月21日 著者:松本健一
http://bookmeter.com/cmt/52008645

 

橋爪大三郎の社会学講義 (ちくま学芸文庫)

橋爪大三郎の社会学講義 (ちくま学芸文庫)

 

 ■橋爪大三郎社会学講義 (ちくま学芸文庫)

 アカデミックな社会学について触れられるのは序盤のみで、その他は社会学的な思考をバックにした社会批評を所収。序盤の論考はコンパクトな社会学史という感じで、お手軽な見取り図を得られたような気がする。大学教育から家族、オウム真理教などが主に議論の俎上にのせられる。大学改革の議論など首肯しかねるものも少なくないが、宗教についての分析は90年代半ばに書かれたものにもかかわらず、後のアルカイダ、ISの台頭を予見しているようにも読めるので驚いた。
読了日:11月22日 著者:橋爪大三郎
http://bookmeter.com/cmt/52034420

 

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 

 ■春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)

 「小市民」を目指す高校生の男女二人組は、それでも事件に首を突っ込んだり巻き込まれたりせずにはいられない。自分の「特別さ」というか、ちょっと周りと違うところを捨て去るために慎ましく努力をしてみても、それが知らず知らずのうちに顔を覗かせてしまう。それでも二人は小市民を目指すのだろうか。どうにもそうはならなそうな予感が漂っていて、そのどっちつかずのあやふやな感じがこのコンビの、ひいては作品の魅力なのかなー、なんて思ったりしました。

 小山内くんの横に福部里志がいたら、きっといい気持ちはしなかっただろうなーとか。
読了日:11月22日 著者:米澤穂信
http://bookmeter.com/cmt/52040009

 

スコット・フィッツジェラルド―人と作品

スコット・フィッツジェラルド―人と作品

 

 ■スコット・フィッツジェラルド―人と作品

 フィッツジェラルドの伝記。その生い立ちから死まで編年的に記述されているが、文章がこなれていない翻訳の如き雰囲気を醸し出していて、どうにも読み難かった。フィッツジェラルドその人の人生がフィクショナルな魅力に満ち満ちているのでなんとかページを繰ることはできるという感じで、てにおはがおかしいところが目に付いたり、相当厳しい感じ。参考文献も著しく偏っていて、もはやその参考文献を翻訳したほうがよかったのではないかと思ったりした。
読了日:11月22日 著者:小堀用一朗
http://bookmeter.com/cmt/52046018

 

アメリカの影―戦後再見 (講談社学術文庫)

アメリカの影―戦後再見 (講談社学術文庫)

 

 ■アメリカの影―戦後再見 (講談社学術文庫)

 江藤淳の論考を下敷きに、それを乗り越えるため敗戦/終戦の問題を論じる。アメリカ–国家–個人という入れ子構造によって、日本の戦後を規定したアメリカ。敗戦を経てなおそこに確固として存在していた国土は、アメリカの影をまとって成し遂げられた高度成長によって荒廃する。そこに江藤と著者は「母」の崩壊をみる。というのが表題論文の論旨であったように思われるのだが、全体としてはあんま咀嚼しきれていない感じがする。無条件降伏、原爆、天皇などの論点に対する加藤の立ち位置がいまいち掴めていないので要再読。
読了日:11月22日 著者:加藤典洋
http://bookmeter.com/cmt/52050266

 

欲ばり過ぎるニッポンの教育 (講談社現代新書)

欲ばり過ぎるニッポンの教育 (講談社現代新書)

 

 ■欲ばり過ぎるニッポンの教育 (講談社現代新書)

 約10年前に行われた教育をめぐる対談。PISAで優秀な成績を収めたことで話題になったフィンランドの教育のあり方が度々言及され、それをひとつの補助線として日本の教育を眺める、という雰囲気。苅谷の主張は本書のタイトルに端的に表れていて、英語教育などを「よい」ように思われるものを導入し続けるのは現場に無理を生じさせる、という立場。そのように日本において学校が過剰な期待を受けるのは、高校進学率の上昇に伴い青年問題がすなわち学校の問題として処理されるようになったから、という見立ては大変納得した。
読了日:11月23日 著者:苅谷剛彦,増田ユリヤ
http://bookmeter.com/cmt/52085455

 

文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

 

 ■文学賞メッタ斬り! (ちくま文庫)

 様々な文学賞を俎上にあげての対談。世にはこんなにもたくさん文学賞があったのだなあと素朴に驚く。それぞれの文学賞の受賞作から傾向を論じたり、作家のライフコースを仮想してみたり、様々な方向に話が及ぶおしゃべり的な楽しさに溢れていて面白く読んだ。とりわけ選考委員を務める大御所を次々斬り捨てていくのが痛快で、石原慎太郎だの宮本輝だの渡辺淳一だのを現代文学を読めないとか長い小説を読めないとかさんざんにdisっていてそこばっかり印象的に残っている。
読了日:11月24日 著者:大森望,豊崎由美
http://bookmeter.com/cmt/52108259

 

増補 司馬遼太郎の「場所」 (ちくま文庫)

増補 司馬遼太郎の「場所」 (ちくま文庫)

 

 ■増補 司馬遼太郎の「場所」 (ちくま文庫)

 司馬遼太郎について論じた論考を所収。新聞や雑誌初出の短文が多く、全体として司馬の太鼓持ち的な雰囲気はぬぐいきれないが、「鳥瞰」こそが司馬遼太郎歴史小説を書く際の構えであったとして長編を取り上げて論じる「<鳥瞰>という方法」は面白く読んだ。しかし全体的に、歴史学者=民衆のエートスを見逃してきた的な単純な図式には首肯できかねるし、そもそも「民衆」なるものの捉え方が素朴に過ぎるのではないか、など割と腑に落ちない点も少なからずあった。
読了日:11月26日 著者:松本健一
http://bookmeter.com/cmt/52150413

 

私の世界文学案内―物語の隠れた小径へ (ちくま学芸文庫)

私の世界文学案内―物語の隠れた小径へ (ちくま学芸文庫)

 

 ■私の世界文学案内―物語の隠れた小径へ (ちくま学芸文庫)

 娘に向けた手紙、という語り口で世界の名作文学を紹介する。第二次世界大戦以前の文学を取り上げた第一部、それ以降を扱う第二部から成るが、文庫版あとがきで著者も述べているように戦後文学のチョイスは行き当たりばったり感があり、語りの熱量も明らかに差があるなと感じる。単に「実存の不安」のような紋切り型やフロイト的な図式で作品を解釈することを退け、作者という人間の苦痛や、世界の捉え方を提示したものとして読む、というところに著者の語りの力点が置かれているように感じた。それぞれの作者、作品の紹介が簡潔平明でいい感じ。
読了日:11月27日 著者:渡辺京二
http://bookmeter.com/cmt/52169193

 

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

 

 ■昭和16年夏の敗戦 (中公文庫)

 日米開戦直前、各省や民間の若手エリートが招集された総力戦研究所に着目し、開戦までのプロセスを辿る。研究所のシミュレーションにおいて、様々なデータを用いて導き出された結論は日本に勝ち目はない、ということ。そのシミュレーション結果が実際の政治と接点を持つ瞬間もあったが、大きな流れに逆らえず開戦へと向かってしまう。日米開戦は最早既定路線であり、東條英機もまたそれを押し留めようとして果たせなかった人間なのだ、というふうな評価を下している点が本書の新しさだろうか。
読了日:11月28日 著者:猪瀬直樹
http://bookmeter.com/cmt/52189434

 

ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)

ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)

 

 ■ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)

 中世から第二次世界大戦までのヨーロッパにおける戦争の変容を、社会の変化と重ね合わせて叙述する。単なる軍事史の領域にとどまるのではなく、社会の変化の中で戦争の位置がどのように変わっていったのか、という視点から書かれているように思われ、ミクロなディテールと大きな社会の構造の記述とがバランスよくなされていて、読ませる語り口。戦争の歴史は、一口で要約するならそれが社会全体と密接に結びつくような方向へと進んでいった、という風にいえるだろうか。一方で高度に専門化しつつも、人々の生活と不可分にもなる、という感じで。
読了日:11月28日 著者:マイケルハワード
http://bookmeter.com/cmt/52195132

 

これで古典がよくわかる (ちくま文庫)

これで古典がよくわかる (ちくま文庫)

 

 ■これで古典がよくわかる (ちくま文庫)

 古典の紹介というよりは、鎌倉時代までの文学史をくだけた語り口で語る、という感じ。源実朝兼好法師を現代の文学青年と見立て、とりわけ実朝を「オタク青年」の元祖とまで言ってみせるのが、その語り口を象徴しているという気がする。古典のわからなさがどのようなところから生じているのかを説き、それでもそれを書いた人々が私たちに通じる「現代人」であるからこそ、古典を読む意味がある、というのが著者の立場だろうか。面白く読んだ。
読了日:11月29日 著者:橋本治
http://bookmeter.com/cmt/52230434

 

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 

 ■失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 アジア太平洋戦争における「失敗」を検討することを通して、日本軍という組織の特質を探る。事例研究にあてられた一章はなんというか読むのに難儀したが、それらの事例から日本軍の組織的な特徴の検討に入る2章からは面白く読んだ。目的の曖昧さ、情緒的なつながりの重視、「銃剣突撃」や「艦隊決戦」に拘泥する戦略の硬直性など、結論そのものは今では人口に膾炙しているようにも思われて新味はなかったが、そのような見方が提出される理路を辿れたのは勉強にはなったのかな、という気はする。
読了日:11月30日 著者:戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
http://bookmeter.com/cmt/52233795

 

来月のはこちら。