宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年10月に読んだ本

 いよいよ冬の足音が近づいてきた感がありますが、今年は季節の変わり目に体調を大きく崩すこともなく、今のところはなんとなく元気です。これからも元気に過ごしていきたいもんですね。

 先月のはこちら。

2015年9月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 特に印象に残った本

王とサーカス

王とサーカス

 

  特に印象に残ったのは、米澤穂信『王とサーカス』。

 この小説は「他者について語ること」をめぐる物語だと思って、それは『さよなら妖精』で提出された問題系の輪郭がよりクリアに明確になり、深化されたものだという気がする。「他者について語ること」が帯びる暴力性。しかしそれでも伝えることの意味を信じ、それが少しでもましな世界を導く可能性に賭ける。それがジャーナリストとしての大刀洗万智の結論だと僕は思ったのですが、それはジャーナリストではない多くの人が選び取るべき結論かというと、やはり留保が必要である、とも思う。それは作品との向き合い方として拙い、とも。

 ジャーナリスト出ない人も、なにかしらの機会に何かを語り伝えることはある。種々のインフラは、誰でも何事かを語り伝えられる方向に整備され続けているように思われる。だからこそ、語ることの意味、そしてそのことと世界との関係、それを認識したうえで自らの在り方を支える倫理みたいなもの常に省みて、それを鍛えてゆく必要性は誰にとってもある、と思った。だから『王とサーカス』のことは、これからも何かにつけて考えたりするのかも、と思うわけです。

読んだ本のまとめ

読んだ本の数:17冊
読んだページ数:5296ページ

弱いつながり 検索ワードを探す旅

弱いつながり 検索ワードを探す旅

 

 ■弱いつながり 検索ワードを探す旅

 ネットの可能性を拡げるためには、物理的な場所を変えることが必要だと説き、「観光客」という構えの効用を論じる。単純に旅をしろ、ということではなく、結婚して子供をもった(加えて金銭的にも時間的にも余裕があるであろう)筆者に無理なく出切るのが物理的な旅行であって、偶然性こそが重要ならば書店とか図書館に行ってだらだら本棚を眺めてみたりすることでも代替できるのではないか、なんて思ったり。本文で取り上げられる例はなるほどなという感じで、ネットを上手く使って情報を得るのは存外難しいという当たり前のことを改めて感じた。
読了日:10月1日 著者:東浩紀
http://bookmeter.com/cmt/50759367

 

アキハバラ発―〈00年代〉への問い

アキハバラ発―〈00年代〉への問い

 

 ■アキハバラ発〈00年代〉への問い

 2008年に秋葉原で起きた無差別殺傷事件に関する文章を集めたもの。寄稿者は幅広く論考の内容も玉石混交だが、こうした大きな事件を「脳内リアリティ」に基づいた「物語」として解釈してするゲームに苛立ち、事件をめぐる言説を分析するアプローチをとる佐藤俊樹社会学者と、そうしたメタ言説分析ではなく、それでも「私的に公的な」かたちで事件を語ることに意義を見出す東浩紀の周辺との対立軸があるのでは、という印象。社会学的な立場にシンパシーを感じ、佐藤の論考は事件をめぐる「解釈ゲーム」が沸騰するたび立ち戻るべきと思う。

 社会で起きた出来事を解釈する人間にとって、衝撃的な犯罪事件は格好の題材になる。第一に、とりあげるだけで読み手の注目を集めてられる。第二に、読み手が説明をほしがっているので、少々強引な解釈でも受け入れてもらえる。第三に、少数の情報源だけを参照すればよい。大きな事件の特に初期段階では、主な情報は警察から新聞やTVなどのマスメディアへというルートで流れる。現在では2ちゃんねるなどの経路もあるが、信憑性に差がある。正確にいえば、差があるというかたちであつかえる。その分、説明すべき材料が少なく、自由に物語が作れる。
 だからこそ、衝撃的な事件をめぐる語りは気持ち悪い。先入観にもとづく印象論があたかも事実であるかのように流通し、受け入れられていく。語り手の「脳内リアリティ」がたれ流されているように感じられる。*1

読了日:10月5日 
http://bookmeter.com/cmt/50855730

 

空気と戦争 (文春新書)

空気と戦争 (文春新書)

 

 ■空気と戦争 (文春新書)

 対米戦争開戦は、なぜ止められなかったのか。石油戦略に関わった官僚を軸に、開戦までの道を跡付け、そして現代にまで残り続ける意思決定プロセスの杜撰さを指弾する。何より軍隊は官僚的な組織なのだ、という点を強調し、総力戦研究所に焦点を当てて戦前の様子が描き出されていてそこは読ませる。しかし、戦前においても統計と試算を用いて開戦したなら必敗とわかっていたのにも関わらず、開戦へと踏み切ってしまった理由を「空気」というマジックワードで説明しているように感じられるのはどうにも単純すぎるのではという印象が。
読了日:10月5日 著者:猪瀬直樹
http://bookmeter.com/cmt/50863847

 

 ■アメリカ文学史講義〈2〉自然と文明の争い―金めっき時代から1920年代まで

 南北戦争後、金ぴか時代におけるリアリズムの勃興と展開、そして第一次世界大戦を経て失われた世代が登場するまでを概観。理想が次第にぼんやりとしていき、精神的な空白にいよいよ向き合わざるを得なかった現代人の姿が、この時代には現れてくる。それは同時に現代にまではっきりと連続性をもってつながるアメリカ的なるものが次第に形成され始めた時期、といっていいと思うが、そのような時代状況を踏まえつつ文学史を語っていく手つきのバランス感覚に唸る。文学史であると同時に平明なアメリカ現代史の叙述たりえていると感じる。
読了日:10月6日 著者:亀井俊介
http://bookmeter.com/cmt/50892721

 

ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

 

 ■ねじとねじ回し この千年で最高の発明をめぐる物語 (ハヤカワ文庫NF)

 この千年で最高の発明は何か?それはねじとねじ回しである、と筆者は答え、それを中心に様々な道具の発明と発展の歴史を辿る。服のボタンは単純な仕掛けにも関わらず意外にも13世紀まで発明されることはなかった、というエピソードに象徴されるように、発明は必要によってではなく技術者の創意によって創造されるのだ、という事実に単純に驚く。ねじもまた例外ではないのだが、そうしたものが発明されたタイミングというのは往々にして解明しづらく、いつの間にか「あって当たり前」のものになっているのだなあと。

 それをアルキメデスまで遡って辿った著者の調査の丹念さに感嘆する。それはそうと、実際に旋盤工としてそうした工業技術に関わった小関智弘の解説は面白かった。戦中の軍需工場への動員のせいで、ある世代にとっては旋盤って身近なものだったのだなあと。
読了日:10月7日 著者:ヴィトルトリプチンスキ,WitoldRybczynski
http://bookmeter.com/cmt/50900134

 

アメリカ文学史のキーワード (講談社現代新書)

アメリカ文学史のキーワード (講談社現代新書)

 

 ■アメリカ文学史のキーワード (講談社現代新書)

 北アメリカにおける文学史を、各時代を特徴付けるキーワードを一つの導きの糸として跡付ける。コロンブス以前のヴァイキングなども触れられておりそれが本書の特色でもあるのだが、やはり植民地時代以降の記述に多くの頁が割かれている。一読して感じたのは、ぼくが「アメリカ文学」に抱くイメージは極めて強く20世紀の文学作品に結びついているのだということ。それ以前にも、そして1920年代において「聖典」の意味を付与されたメルヴィル以前にも、ピューリタニズムなど時代の思潮にそったテクストが紡がれ続けていたのだなと。
読了日:10月8日 著者:巽孝之
http://bookmeter.com/cmt/50935867

 

王とサーカス

王とサーカス

 

 ■王とサーカス

 ネパール、カトマンズ。旅行記事の取材のために彼の地を訪れたフリーライター、大刀洗万智は、偶然国王一家殺害という大事件に遭遇する。異常事態に陥った街のなかで彼女が遭遇する殺人事件は、彼女の職業にまつわる問いを投げかける。見て、書いて、それを伝えることが「悲劇が楽しまれる」という宿命に不可避的に加担してしまう。事件以上に、そのこととの対決こそがこの物語の核であり、「尊さは脆く、地獄は近い」のだけれども、それでも真実を求める意思が、勝利とはもはや呼べないほどのささやかな勝利を収める、その結末に強く撃たれた。
読了日:10月10日 著者:米澤穂信
http://bookmeter.com/cmt/50970914

 関連

 

新書百冊 (新潮新書)

新書百冊 (新潮新書)

 

 ■新書百冊(新潮新書)

 若りし頃からの読書遍歴を、新書を中心に語る。読んできた本を振り返りつつ人生の歩みを回顧するという感じで書かれていて、取り上げられる新書は現在では品切れ絶版になってるものやら稀覯本のレベルにまで達しているものまであって、読書ガイドにはとてもならないけれど、それはともかく面白く読んだ。岩波やら中公新書講談社現代新書みたいな未だに一線を張るレーベル以外にも割にいろんなやつがあったのだなあ、と素朴に驚く。
読了日:10月16日 著者:坪内祐三
http://bookmeter.com/cmt/51127896

 

 ■メタルギア ソリッド サブスタンス (2) マンハッタン (角川文庫)

 プラント内をウロウロ行ったり来たりするゲームっぽい展開を小説でどう見せるか、という点が気がかりだったのですが、存外楽しく読めた。一巻から引き続き語り手を務める「ぼく」をめぐるギミックは、「愛国者達」の管理の手が社会にじわじわ浸透していく予感を感じさせ、MGS4へのリンクが強く意識されているような。S3計画も明確にそういうものであるということが強調されてる印象。ラスト付近に多発する饒舌な説明は文字で読んだ方が頭に入ってくるのだが、声の演技の熱さがオミットされて若干カタルシスは薄れてしまっているような感覚があった。

 それはともかく、「歴史のイントロンになりたくない。いつまでも記憶の中のエクソンでありたい」というソリダスの叫びは、シリーズ中でも指折りに印象に残っている。

読了日:10月16日 著者:野島一人
http://bookmeter.com/cmt/51132591

 

 ■ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック (村上春樹翻訳ライブラリー)

 フィッツジェラルドに関するエッセイと、短編2編の翻訳を所収。エッセイはフィッツジェラルドゆかりの地をめぐる旅行記風のものと、妻ゼルダの評伝、映画『グレート・ギャッツビー』についての文章。とりわけゼルダの生涯を簡明に記したエッセイが印象的で、妻の姿からフィッツジェラルドという作家の象がはっきりと浮き彫りになっていて、フィッツジェラルドの裏返しの伝記という感じ。再刊に際して付された翻訳エッセイは、ヘミングウェイと並べてフィッツジェラルドを論じていて面白く読んだのだけど、エピソードの羅列が退屈でもあった。
読了日:10月17日 著者:村上春樹
http://bookmeter.com/cmt/51154724

 

他者の苦痛へのまなざし

他者の苦痛へのまなざし

 

 ■他者の苦痛へのまなざし

 戦争写真をめぐる論考。米澤穂信『王とサーカス』に導かれて読んだ。戦場の悲惨を伝える写真が、「戦争は悪である、止めなければならない」ということと、「こんな悪行を行う奴らは戦って打ち倒さねばならない」という矛盾しているかにおもえる感覚の両者を喚起しうる、という事実から出発し、写真を撮るという行為、遠くにありてそれを見るわれわれなど、多面的な考察がなされる。現実はメディアによって構成されるとするボードリヤールらを批判し、地続きの現実として写真に写された苦しみをとらえ、それを内省の契機とせよ、というような主張がなされているように思われた。

読了日:10月18日 著者:スーザンソンタグ
http://bookmeter.com/cmt/51178452

 

『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)

『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)

 

 ■『七人の侍』と現代――黒澤明 再考 (岩波新書)

 黒澤明の傑作『七人の侍』を、制作された時代状況や日本映画の文脈、そして海外で高い評価を得たことによるある種の神話化の過程までを射程に収めて論じる。黒澤の歴史観は今日の歴史学研究の成果から鑑みるに古びてしまってはいるが、「勝利/敗北」とはなんなのかを痛切に問いかけ、そして死者への哀悼が滲み出ているが故に傑作である、とするのが四方田の立場だろうか。復員兵や共産党の農村工作隊などがリアルに感じられた時代に公開されたと踏まえてみると、侍や百姓に何が仮託されていたのかというのがはっきりしてくるなー、と。

 大局では負け続けてきたがゆえに、局所的には強者たりえている、という逆説を生きるがゆえに、武士たちを率いる勘兵衛は魅力的なんだな、なんて改めて思ったりも。
読了日:10月20日 著者:四方田犬彦
http://bookmeter.com/cmt/51243979

 

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

 

 ■ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

 表題にもなっているカミュ論は面白く読んだのだが、ソンタグ批判やフェミニズム批判など、批判を目的に論を展開しているテクストは、単なる内田個人の実感を「おじさん」というポジショニングで隠蔽したうえで、主流の主張に逆張りしているだけに思われ、読んでいて気持ちのいいものではなかった。「おじさん」の立場から「審問の語法」で殴りつけている感じというか。ただそれを下支えしているのがある意味ではカミュの「ためらいの倫理学」でもあるような気がし、崇高に見えたカミュの倫理も「おじさん」によって行使されると崇高さがなくなってうざったくなる、という感覚があった。

 ソンタグ批判は対象が朝日新聞掲載の文章ということもあり、なんとなくフェアじゃない感がある。『他者の苦痛へのまなざし』なんかをみると、内田の批判は底が浅いというか、あえて単純な立場にソンタグを位置付けて攻撃してるだけって気がするのだけれど。
読了日:10月21日 著者:内田樹
http://bookmeter.com/cmt/51248936

 

アメリカの若者たち―その文学的映像 (1961年) (岩波新書)

アメリカの若者たち―その文学的映像 (1961年) (岩波新書)

 

 ■アメリカの若者たち―その文学的映像 (1961年) (岩波新書)

 アメリカの若者たちの像を、文学作品を頼りに描き出す。南北戦争第一次世界大戦第二次世界大戦を大きな区切りとし、それぞれの戦後を若者たちがどのように生きようとしたのかを論じていて、社会との関係性から提示された文学史という趣きもある。南北戦争後の若者たち、「失われた世代」、「ビート・ジェネレーション」それぞれが、はじめは社会から距離を置いていたがのちに社会批判的な要素を取り入れるようになった、という点においては相似する軌跡を描いている、というのが著者の提示する見取り図だろうか。

 出版されたのは1961年であり、その後ヒッピー・ムーブメントが大きな影響力を持つことなど著者は知る由もなかったのだろうが、ヒッピーもまたベトナム戦争という戦争と不可分なわけで、古びているけれども見立ては面白いよなーと。とはいえ彼らもまたビート・ジェネレーションと同様、同時代的には文学において自らを表象することはなかったような印象があり、文学と若者たちを関連させて論じられる世代は「失われた世代」が最後だったのかも、とも。

 なんておもったけれど、巽孝之さんのSF論を斜め読みした印象だと、サイバーパンクとかのSF小説はヒッピー的なものを継承した文学といえるのかも?ようわからんですが。
読了日:10月21日 著者:谷口陸男
http://bookmeter.com/cmt/51256433

 

 ■ベースボールの夢―アメリカ人は何をはじめたのか (岩波新書)

 ベースボールは、何故これほどアメリカを象徴するゲームとして語られるようになったか。その起源をめぐる神話が作り上げられる過程を跡付け、そしてベースボールに現代的な「夢」が託されるようになるベーブルースの登場までを追う。農村から生まれたという「神話」と裏腹に、ベースボールは極めて都市的なエートスを内在させており、同時代の都市化の趨勢にリンクするかたちで広まっていった、というのが大まかな見取り図だろうか。

 肉体的な「男らしさ」を強調し、タイ・カッブに象徴される禁欲的な身体を理想形とした神話から、ベーブルースという快楽主義的な身体をもつ男がヒーローとなったことで、ベースボールは真に都市的なものとなった、というような結末だと思うのだけれど、タイ・カッブからベーブルースへ、という遷移はまさしく時代の移り変わりをクリアに象徴しているという感じがする。
読了日:10月24日 著者:内田隆三
http://bookmeter.com/cmt/51327694

 

本の本 (ちくま文庫)

本の本 (ちくま文庫)

 

 ■本の本 (ちくま文庫)

 800ページも斎藤美奈子の書評を浴びることができる。これだけ書いて、それぞれの文章に焼き直し感とか使い回してる印象がないのがすごい。とはいえフェミニズム関連の文章には同じような言い回しをしてるとも感じたけど、それはあくまで著者の立場を表明してる場合だし。文体にせよ内容にせよ、引き出しの多さに驚く。特に印象的なのはギャル文体を模倣しようとしてえもいわれぬ滑稽な味わいがにじみ出る『ラヴ&ファイト』評、イラク戦争を猿岩石的に眺めるライターを痛罵した結果ボツにされたと思しき『イラク戦争従軍記』評。
読了日:10月26日 著者:斎藤美奈子
http://bookmeter.com/cmt/51388334

 

 ■ナショナリズム―名著でたどる日本思想入門 (ちくま新書)

 日本におけるナショナリズムの様々な相を映し出すテクストを取り上げて論じる。明治期のナショナリストから小沢一郎小熊英二から本宮ひろ志まで、時代も論者の立ち位置も幅広く、それぞれ面白く読んだ。とりわけ印象的だったのが、少年漫画というジャンルを超えて政治的なるものを描き出し、そして少年ジャンプという媒体ゆえに主人公が時代に敗北するまでを描いてしまったとする本宮ひろ志男一匹ガキ大将』論、戦後日本の理想を立ち上げるべく明治期における合理主義的イノベーターらを描いたのだとする『坂の上の雲』論。
読了日:10月28日 著者:浅羽通明
http://bookmeter.com/cmt/51413610

 

来月のはこちら。

 

*1:佐藤俊樹「事件を語る現代 解釈と解釈ゲームの交錯から」『アキハバラ発』p.82-83

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