宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年9月に読んだ本

 

  9月は完全に生活習慣が破壊されたりもしたけれど、割合元気でした。ふしぎだ。ともかく元気なのはよいことなのでしょう。

 先月のはこちら。

2015年8月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 

 印象に残った本

 

  とりわけ印象に残っているのは冲方丁マルドゥック・スクランブル』。5年越しくらいの積読をようやく崩したのですが、いやはや面白かったです。

 そういえば9月下旬に僕の心を大いにかき乱した『心が叫びたがってるんだ。』も「卵の殻を破らねば雛は生まれずに死んでいく」系のおはなしで、今月はそういう作品に縁があったなと。

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読んだ本のまとめ

2015年9月の読書メーター
読んだ本の数:33冊
読んだページ数:12119ページ

 

 ■ヒトラーの呪縛(上) - 日本ナチ・カルチャー研究序説 (中公文庫)

 日本におけるナチス・ドイツに関わる文化の状況を、さまざまなジャンルごとに整理しその変遷をたどる。上巻で扱われるのはジャーナリズム、海外小説、映画、ロック音楽、プラモデルであるが、そのいずれもが圧倒的な情報量を含み(資料編では網羅的に整理されている)、そのデータ収集にかかったであろう労力に脱帽。「カッコよく」みえ、かつ「絶対悪」として容易に他者化してしまえるナチスという存在との向き合い方を考える必要がある、というのが全体のトーンか。後半になっていくにつれ自分にとってはわからない世界が開けていて楽しく読んだ。
読了日:9月1日 著者:佐藤卓己
http://bookmeter.com/cmt/50010179

 

社会学を学ぶ (ちくま新書)

社会学を学ぶ (ちくま新書)

 

 ■社会学を学ぶ (ちくま新書)

 なぜ社会学を学ぶのか、という一見ソフトな入り口から入ったかと、デュルケム以来の社会学史を辿りやがて現代社会学の陥っている隘路とそれを突破するための方策の提示にまで至る。パーソンズ構造主義フーコールーマン、そしてベンヤミン。いずれの記述も重厚で一読しただけでは掴みきれなかったと感じる。現在流行する二つの流れ、フーコーらの影響下にある歴史社会学的な研究・マルクス主義的な流れの中にある批判的な文化研究の両者において、現在性への問いが漠然と回避されているのでは?という指摘はなるほどなーという感じであった。
読了日:9月1日 著者:内田隆三
http://bookmeter.com/cmt/50017427

 

千のプラトー 上 ---資本主義と分裂症 (河出文庫)

千のプラトー 上 ---資本主義と分裂症 (河出文庫)

 

 ■千のプラトー 上 ---資本主義と分裂症 (河出文庫)

 「樹木型からリゾーム型へ」というモチーフが通底しているらしいことはなんとなくわかるのだが、リゾーム万歳的な単純な話でもないらしく、結局のところなんだかよくわからないままに頁を繰っていた。とりわけ「道徳の地質学」が漠としたイメージすら掴むことができず読み進むのに難儀したが、「言語学の公準」の後半あたりからわからないなりにノリがつかめてきたような感覚があった。翻訳という営為をめぐる議論とか、個別の議論はなるほどなーって感じだが全体像は未だ見えないし、そんなものをつかもうとするのは不毛なのかも、とも。
読了日:9月2日 著者:ジル・ドゥルーズ,フェリックス・ガタリ
http://bookmeter.com/cmt/50038265

 

文学理論講義: 新しいスタンダード

文学理論講義: 新しいスタンダード

 

 ■文学理論講義: 新しいスタンダード

 文学理論の概説書。各章の構成がよい意味でかっちり教科書的で読みやすい。その理論の成り立ちから入ってどのような特色があるのかを整理し、そしてそれを使って読解を行うとどのようなものがみえてくるのか、というのを具体的なテクストに即して簡潔に述べる。とりわけ理論の特色の整理は、箇条書きで平明になされていて、こんなわかりやすくてよいのか?と思ったほど。一通り通読したが、通読するよりは手元に置いといて興味があるところを適宜精読するみたいな使い方をするのに便利かも。参考文献も豊富で入口として好適。

 それにしても、イーグルトン『文学とは何か』の出版は大事件であったのだなあと。
読了日:9月3日 著者:ピーターバリー
http://bookmeter.com/cmt/50058699

 

ナウシカ解読―ユートピアの臨界

ナウシカ解読―ユートピアの臨界

 

 ■ナウシカ解読―ユートピアの臨界

 マンガ版『風の谷のナウシカ』を、ユートピアという視角から読み解く。読んでいる最中には勢いで流してしまう、しかしよく考えてみると不可解なナウシカの行動原理を、精緻な読解を通じて埋めていき、そこから自身の論を展開する構成が巧み。「蒼き清浄の地」という到達することのかなわないユートピアに直面したナウシカが選びとった「倫理」の意義を、冷戦体制が崩壊した現代においてのわれわれの在りように照らしてみせる読みは、作品の可能性に目を開かせてくれる。マンガ版を再読したくなった。

 本文はもちろん、付された宮崎のインタビューが半端じゃなく面白かった。
読了日:9月3日 著者:稲葉振一郎
http://bookmeter.com/cmt/50063053

 

ニーチェ (ちくま学芸文庫)

ニーチェ (ちくま学芸文庫)

 

 ■ニーチェ (ちくま学芸文庫)

 ニーチェの生涯・哲学について論じた小論と、ニーチェのテクストをテーマ別に配列した選集から成る。ニーチェ論は意外なほど簡明で、ドゥルーズ=ガタリしか触れたことのない自分にとっては軽い衝撃だった。どこらへんがドゥルーズの読みのオリジナリティなのかはいまいち掴めていないが、永遠回帰の中に変化、差異化のモーメントを見とっているあたりなのだろうか。選集はニーチェのベスト盤という感じで、なんとなくその思想を掴んだ気になれてよかった。
読了日:9月4日 著者:ジルドゥルーズ
http://bookmeter.com/cmt/50068399

 

ことばと思考 (岩波新書)

ことばと思考 (岩波新書)

 

 ■ことばと思考 (岩波新書)

 言語と思考・認識はどのように関わっているのか。「母語における言語のカテゴリーが思考のカテゴリーと一致し、異なる言語の間の隔たりは翻訳不可能なほど深い溝がある」とするサピア=ウォーフ仮説を実験によって検証する。それに加えて赤ちゃんが言語を習得していく過程に着目し実験を行っていることに著者独自の視角があるように思われる。言語は世界の切り分け方に相当の影響を及ぼすが、言語をこえてある種の普遍性をもつ認識の有り様もある、という折衷的な説明が本書の結論だろうか。

 現実の物事は白か黒かにはっきり分けられるものではない、という著者の姿勢は、様々な実験の結果に裏打ちされて相当の説得力があった。無数の言語が実験のために議論の俎上にあがっており、世界には左右の概念すらない言語すらあるのだなあというのは驚きだった。それと無意識にのうちに行っている「見る」という行為にさえ言語の影響がある、などなど実験から得られた個別の知見はなるほどなーという感じで面白く読んだ。
読了日:9月5日 著者:今井むつみ
http://bookmeter.com/cmt/50113457

 

増補 オオカミ少女はいなかった: スキャンダラスな心理学 (ちくま文庫)

増補 オオカミ少女はいなかった: スキャンダラスな心理学 (ちくま文庫)

 

 ■増補 オオカミ少女はいなかった: スキャンダラスな心理学 (ちくま文庫)

 「オオカミに育てられた少女」として知られるアマラとカマラの神話など、実証性に疑問符がつくにもかかわらず広く流通してしまっている「神話」の真偽を丹念に検証していく。サブリミナル効果やサピア=ウォーフ仮説、問題を解くことのできる馬など、「スキャンダラスな心理学」の副題通り興味を惹かれる話題が多く面白く読んだ。全体として、広く流通してしまっている風説を批判することによって、似非科学のような扱いを時たま受ける心理学という学問を鍛えなければならない、というような姿勢を強く感じた。
読了日:9月6日 著者:鈴木光太郎
http://bookmeter.com/cmt/50116774

 

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

 

 ■ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

 在特会についての詳細なルポ。会長の桜井誠をはじめ会の活動に関わった様々な人間への取材からその実像を伝える。いかにもフツーの人々が、デモで信じがたい罵声を浴びせるという奇妙な構図。彼らを動かすのは「被害者」としての自己認識であり、なにより在特会という場で承認を得られるという感覚なのだという。著者も述べるように、彼らのような極端な集団の根っこには、それほど極端ではなくても嫌悪感を共有するより広い範囲の人々がおそらくはいるのだろう、ということこそより重要な、正視しなければならない問題なんだろうなと。

 本書が出版されたころにはまだヘイトスピーチという言葉は流通していなかったのね、なんてことが印象に残っている。
読了日:9月7日 著者:安田浩一
http://bookmeter.com/cmt/50149978

 

 ■中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 (文春文庫)

 今から約千年前の宋朝の時代に、中華文明は現代まで続くその形を整えたのだとし、日本史をその宋朝的なものの受容(中国化)と反発のせめぎ合いとして書き直す。中国化と全く反対の趨勢が主流を占めたのが日本における近世=江戸時代であり、故に近代史は中国化と再江戸時代化という異なる二つの路線の対立として描き出される。(単純な意味での)ウヨクもサヨクもあげつらい、刺激的なキータームを用いて議論を展開する本書は、しかし無数の先行する研究成果に依拠しており、過激な書きぶりと対照的に堅実な議論が展開されているという印象。
読了日:9月8日 著者:與那覇潤
http://bookmeter.com/cmt/50172322

 

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

 

 ■謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

 『カラマーゾフの兄弟』について、固有名詞の由来や当時のロシアの状況、キリスト教の符丁などにあたって様々なディテールの意味するところを解き明かす。カラマーゾフが「黒く塗る」ことを意味している、アレクセイは聖人の名から取られている等々、人名や地名にドストエフスキーが込めたであろう含意を検討していくのはトリヴィアルだけれども読んでいて面白かった。そんなトリヴィアルな読解に終始するのかと思いきや、カラマーゾフとは「生への渇望」とみつけたり、と喝破してみせる結部には思わず胸が滾った。

 「黒いキリスト」アレクセイが皇帝暗殺を試みるのではないかと推測される、ドストエフスキーの手によっては書かれなかった第二部の存在は、妄想をかきたてられずにいられない。
読了日:9月8日 著者:江川卓
http://bookmeter.com/cmt/50174455

 

 ■マルドゥック・スクランブル―The First Compression 圧縮 (ハヤカワ文庫JA)

 悲惨な境遇の極地にいた少女は、偶然にも戦う力と、人の道からは外れた相棒を得る。強力すぎる力に溺れた少女が選び取るのは、自分を苦しめてきたのと同じ暴力に塗れた道なのかと思いきや、それを相棒がぎりぎり押し留め、しかし絶体絶命のピンチは続く、というところで次巻へ続く引きがえげつなくて大変よかった。身体を改造した/されたものたちのえげつないビジュアルや、敵の認識を混乱させ自在に武器を変化させ戦うバロットの描写が印象的。厨二心をくすぐられまくった。

 リンクがうまく貼れなかったのですが、この巻だけ完全版じゃないやつで読みました。完全版で読んだ2巻3巻のほうがはるかにリーダビリティが高かったような印象。気のせいかもですが。
読了日:9月8日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/50184443

 

 ■マルドゥック・スクランブル The 2nd Combustion 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 危機からなんとか脱出して、閉ざされた楽園へと逃げ延びたバロットたち。そして戦いの舞台はカジノへ。実質イカサマしてるような状態で、しかし手に汗握る駆け引きが展開されて大変楽しかった。過去が明らかにされ、次第にその輪郭がはっきりしてくる宿敵、ボイルド。また全てを失って身体の改造を受け入れた彼は、ウフコックという相棒を介してやはりバロットと対照をなす存在なのだなあと。ともかく決着が楽しみです。

読了日:9月8日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/50197711

 

 ■マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 この物語を一文で要約するならば、バロットが卵の殻を打ち破って外の世界に出る物語だ、といえると思う。繰り返される卵にまつわるモチーフはそれを強く強調している。非力で不運な人間が殻を打ち破るためには、ふた通りの道があった。徹底して他者を道具とみなして自身に従属させることでそれを果たしたボイルドと対照的に、バロットは他者に自分自身を開いてゆくことでそれを成し遂げる。しかしボイルドにも違う仕方があったはずではないか。そんなかつての相棒の寂寥感が胸を打つ切なさと、解放感に満ちたラスト。よかった。

読了日:9月9日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/50201244

 

コズミック (講談社ノベルス)

コズミック (講談社ノベルス)

 

 ■コズミック (講談社ノベルス)

 密室卿なる人物によって引き起こされた連続密室殺人事件に、個性豊かな探偵軍団が挑む。長かった。ただ長かった。これでもかと手を替え品を替え行われる密室殺人パートも、登場人物は真相を把握しているらしいのにそれをなかなか語ってくれない推理パートも。複雑怪奇なアナグラムを解きほぐしてみせたり、よくわからない特殊能力で真相にたどり着いてみせたりする探偵の活躍や、壮大すぎる歴史の陰謀の一端が明らかにされるクライマックスは面白く読んだ。

 多分最後までページを繰るのに半年以上の時間がかかった。清涼院さんの本はしばらくいいかな...という感じ。
読了日:9月10日 著者:清涼院流水
http://bookmeter.com/cmt/50227146

 

犬はどこだ (創元推理文庫)

犬はどこだ (創元推理文庫)

 

 ■犬はどこだ (創元推理文庫)

 犬探し専門の調査事務所を立ち上げた青年は、意図せず女性の失踪事件の調査を依頼される。彼女は何故姿を消さなければならなかったのか。地元に根ざした歴史と現代の問題が錯綜し、やがて真実が明らかになるが、それは青年の新たな戦いの始まりの予感を感じさせる。命を救う為に走り出し、その最中に彼女の相貌が一変し始めるクライマックスが白眉。調査はあくまで自身の生活の糧を得る仕事である、という対象に対するドライさは主要人物たちの年齢設定故だと思うが、それが乾いた恐怖を呼び起こす、奇妙な読後感。
読了日:9月10日 著者:米澤穂信
http://bookmeter.com/cmt/50229476

 

ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

 

 ■ハイデガー拾い読み (新潮文庫)

 ハイデガーの講義録を拾い読みすることで、その面白さを伝える。ハイデガーはまずなによりも西洋哲学の歴史に通暁した哲学史家なのだということが、講義録とそれを読みとく著者の姿勢から伝わってくる。テクストの細部まで検討し、時に自身の関心に大きく引き寄せてアリストテレスなどを読み、西洋形而上学の歴史を総括し乗り越えるために『存在と時間』を構想していったのだという見立てが全体を貫いている印象。個別のトピックでは「世界内存在」の由来にまつわるものが特に印象的。もしかしたら荘子岡倉天心の影響もあるとかないとか。
読了日:9月11日 著者:木田元
http://bookmeter.com/cmt/50271472

 

九十九十九 (講談社文庫)

九十九十九 (講談社文庫)

 

 ■九十九十九 (講談社文庫)

 清涼院流水のパロディ的な要素は思ったほどではなく、聖書の見立てに則った殺人、出来事が次々内包される形で構造化され物語が進んでいく、舞城的に奇妙な小説だった。投げやりとすら思えるほどの適当さで駄洒落とアナグラムで犯人を名指したり、強迫的に見立てに沿って行動したりなんかは推理小説自体というフォーマットを前提として登場人物たちが行動しているようで、なんというか読んでいて居心地の悪い感じがした。無数に読み変えられ続け留まることをしらない世界の意味、みたいなものが世界そのものを駆動させている、そんな話だと感じた。
読了日:9月12日 著者:舞城王太郎
http://bookmeter.com/cmt/50275050

ヒトラーのウィーン (ちくま文庫)

ヒトラーのウィーン (ちくま文庫)

 

 ■ヒトラーのウィーン (ちくま文庫)

 ヒトラーがまだ平凡な青年であった頃に過ごしたハプスブルク帝国の首都、ウィーン。彼の青春を、時折著者の思い出話や現代の街の様子を差し挟みつつ辿る。ヒトラーの人間像を探るのに主に依拠するのは、ウィーンで暫しルームメイトであったクビツェクの回想録。受験に失敗したことをルームメイトにひた隠しにしていたことに象徴される見栄っ張りなところや、自己評価と実情の乖離、それゆえの鬱屈など、まさに(怪物的な独裁者ではなく)「人間」ヒトラーという感じ。人生どうなるかわからんもんですなーという小学生並みの感想を抱いた。
読了日:9月12日 著者:中島義道
http://bookmeter.com/cmt/50277019

 

ソフィストとは誰か?

ソフィストとは誰か?

 

 ■ソフィストとは誰か?

 レトリックを弄して活躍した人たち、みたいな感じで世界史の教科書で取り扱われている古代ギリシャソフィストについての論考。そうしたソフィストのイメージは、「哲学者」と対比する形でプラトン(ソクラテス)によってつくられたものであり、そもそもソフィストとは「誰にとっても自明な職業として存在していたわけではなかった」(p.91)という。哲学者とソフィストとの対立は、単なる知識人の中の覇権争いに留まらず、生き方そのものの対立として、プラトンによって提起されたのだ、というような感じだろうか。
読了日:9月14日 著者:納富信留
http://bookmeter.com/cmt/50335225

 

 ■メタルギア ソリッドサブスタンス (1) シャドー・モセス (角川文庫)

 ゲームをやる私たちと重なる人物が、「メタルギアソリッド」という物語を読む、という構図になっており、ゲームのノベライズという立ち位置を上手く小説内に取り込んでいるように思えて感心した。それによって続編には繋がらないけれども、深い印象を残すエンディングが小説内に取り入れられていて、それがよかった。スネークが彼女を救えないあの結末が、彼の手から大事なものが零れ落ちていくその瞬間の哀切が、僕はやはり好きです。

 911という、ゲーム発売後の出来事を組み込みつつ、ゲーム版の語った21世紀の偽史を今日の視点から語り直していてそれもお見事という感じ。
読了日:9月15日 著者:野島一人
http://bookmeter.com/cmt/50359112

 

伊藤計劃記録 ? (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃記録 ? (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■伊藤計劃記録 II (ハヤカワ文庫JA)

 ブログの文章と各所に寄稿したテクスト群、インタビューを所収。ブログにはやはりというべきか、病の影が色濃くちらつき、映画評と同じくらいに正直闘病の記録の印象が色濃く、読んでいてしんどい気分になった。それはともかく、映画評やSF論は更に切れ味を増し抜群に面白いので驚嘆する。決然とした語調は年を経るごとに強まっているようにも感じられ、そこになにか決意めいたものを感じとってしまうのは「伊藤計劃」という物語をそこに読み込んでしまっているから、というだけではない気がする。
読了日:9月15日 著者:伊藤計劃
http://bookmeter.com/cmt/50360939

 

 

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫JA)

 「テクノロジーが人間をどう変えていくか」という問いを内包したSFであること、がただ一つの共通のテーマである、と前書きにある通り、様々な舞台や主題をもった作品が収められている。それぞれが百頁前後というボリュームなので、一篇が結構読み応えと存在感があって単なる伊藤氏のトリビュートという以上の満足感があった。とりわけ最初と最後、ドローンが跋扈する中華人民共和国の戦場を舞台にする藤井太洋「公正的戦闘規範」、キューバの麻薬王の青春の終わりを描く長谷敏司「怠惰の大罪」が印象的だった。

読了日:9月18日 著者:王城夕紀,柴田勝家,仁木稔,長谷敏司,伴名練,藤井太洋,伏見完,吉上亮
http://bookmeter.com/cmt/50420416

 

グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)

グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■グッドラック―戦闘妖精・雪風 (ハヤカワ文庫JA)

 人間と機械とがはっきりと分かたれた前作の結末から一転、人間(深井)と機械(雪風)との境界は曖昧となり、そうした曖昧さの只中に敵であるジャムもまた立ち現れる。20世紀の終わりに書かれたものではあるけれど、敵は最早どこにいるのか判然とせず、我々のうちに潜んでいるのかもしれない、というのは911以後、テロリズムの時代の予言としても読めるのではないか、なんて思ったり。そんな中でそれぞれが個別の意思で生存のために決然と戦うことを選び取る特殊戦の人間たちの姿がひたすらに熱い。

 深井の姿にグッドラックと言葉を投げかけたくなるラストは至高。
読了日:9月18日 著者:神林長平
http://bookmeter.com/cmt/50424646

 

 ■〈ネ申〉の民主主義―ネット世界の「集合痴」について

 東浩紀『一般意志2.0』をフックとして、現在の言論状況やその背後にある心性に対して批判する。インターネットに関わるものとしてサブカルチャーの話題も頻出するのだけれど、仲正先生の口から『新世紀エヴァンゲリオン』や『スタートレック』はともかくとして、『マクロスF』や伊藤計劃の名前まで出てくるのが意外な感じがした。終盤は所謂アイドル論壇で議論する人たちの、AKBと民主主義の在り方を接続する与太話をマジレスでぶった切っていて、気の毒だけれど痛快だった。
読了日:9月20日 著者:仲正昌樹
http://bookmeter.com/cmt/50472005

 

フランス7つの謎 (文春新書)

フランス7つの謎 (文春新書)

 

 ■フランス7つの謎 (文春新書)

 フランスに関する比較文化論チックなエッセイ。政教分離のあり方、ストライキへの目線、学歴社会の様相などなど、日本に住む人目線からすると「謎」に思える事柄を取り上げ、それを歴史的に読み解く。歴史的に、というところにやはり著者の専門が大きく顔を覗かせていて、歴史ってのはこういう風に使ってものを語ることができるのだなあと。内容は平易に叙述されているが、読書案内のガチっぷりはありがたい。他の新書でもそうだけれども、小田中さんはこういう風に本を紹介するのが上手い。神業的。
読了日:9月21日 著者:小田中直樹
http://bookmeter.com/cmt/50498477

 

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

 

 ■一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル

 情報技術が進展した現代から、ルソー『社会契約論』を読み直し、来るべき社会のあり方を提起する。無数の情報の集積によって可視化された無意識(=一般意志2.0)により、専門家の熟議を枠付けすることによって政治を行う民主主義2.0。その議論のダイナミズムは読んでいて胸が踊ったし、複雑になりすぎた社会を、人々の参加を通してどうにかよい方向にもっていくための方策として魅力的であるとも思った。しかしインフラを整備できるのか、熟議を限界づけるためにそれを外からみて感想を書く、ということすら無理筋なのではとも。

 本書でいう「無意識」をビッグデータと名指すようになったのは意外なほど最近のことなのだなあと改めて気付くなど。しかしそうした情報の集積って、サジェスト汚染然り個人の悪意で容易に攪拌されうる気がするんですよね。それはアーキテクチャが整備されたらクリアされるのかもですが。それと国会中継のニコ生の様子をみるにつけ、「無意識」による枠付けがそれほど効果的に機能するとはちょっと想像し難い。とはいえそれで東の構想の魅力がさほど減じないとは思う。

 読了日:9月21日 著者:東浩紀

http://bookmeter.com/cmt/50500079

 

教育 (思考のフロンティア)

教育 (思考のフロンティア)

 

 ■教育 (思考のフロンティア)

 もはや教育が依拠するべき「基礎付け」を失ってしまった現代において、あるべき教育の姿とはどのようなものか。現在大き存在感をもつ、「経済成長」と「個人の自己決定」という価値に重きを置く所謂新自由主義的な教育を批判することを通じて、その構想を提出する。あるべき未来社会を構想し、そこから演繹する形で教育の制度や目標を定めていく、というのが著者の戦略なのだが、やはりというか、少ない紙幅で説得的な未来像まで創造できてはいない、という印象。経済成長のゲームから降りるべき、という筋の提案にはやっぱり魅力を感じない。とはいえ個人化/グローバル化の中の教育のあり方についての議論は勉強になった。
読了日:9月24日 著者:広田照幸
http://bookmeter.com/cmt/50580165

 

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

 

 ■14歳からの社会学―これからの社会を生きる君に (ちくま文庫)

 共通する前提みたいなものがなくなってしまった現代で、「かけがえのない」関係にこそ個人の拠り所を求めるスタンス、「すごい人間」に感染せよなどなど、最近の宮台先生の主張がストレートかつ平易に述べられていて、14歳からの社会学というより14歳からの宮台真司、みたいな感じ。他の著作以上に自分語りが多かったのは読者層の違いからだろうか。体験の生々しさからか、死(と生)について書かれたセクションはとりわけ印象に残った。
読了日:9月24日 著者:宮台真司
http://bookmeter.com/cmt/50582959

 

 ■メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット (角川文庫)

 「あの」伊藤計劃によって書かれたということを意識して読まざるを得ず、そうすると語り手である「ぼく」=オタコンや、伊藤とは全く違う要因でだけれども自らに近づく死をはっきり意識するスネークに、伊藤がはっきりと強いシンパシーを感じていたことを感じる。ゲームで語られる以上にサーガ全体を意識して物語を語っていて、だからシリーズ全体の語り直し、全体へのある種の批評としても読める。黒幕である「愛国者たち」のあり方を環境管理型権力のひとつの臨界点として見立てていたりとか、そういうところに伊藤の読みがあらわれているような。

読了日:9月26日 著者:伊藤計劃
http://bookmeter.com/cmt/50628865

 

伊藤計劃記録 I (ハヤカワ文庫JA)

伊藤計劃記録 I (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■伊藤計劃記録 I (ハヤカワ文庫JA)

 小島秀夫監督作品についての文章と、ブログのテクストを所収。小島作品をSFとして読む、という見立てに納得させられ、そして何より語りの深度と熱量に打ちのめされる。この人はどれだけ小島監督に入れあげれいたのかと。後のMGS4ノベライズに繋がるような目線に溢れていると感じる。ブログの文章はいつものようにすげーのだけど、よくこれだけの文章をコンスタントに書けたよなあということにやっぱり驚く。
読了日:9月27日 著者:伊藤計劃
http://bookmeter.com/cmt/50671308

 

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 

 ■空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

 噺家を探偵役に、女子大生が日常に潜む謎を探る連作短編。日本文学を専攻するという語り手の女子大生がイマイチ好きになれなくて、全体の印象もあんまりという感じ。ブンガク的な教養のひけらかしが鼻についてどうにも。人のあからさまな悪意が底に流れている謎が割と多くてそれもしんどかったけれど、夢枕に立った古田織部の謎を解釈可能な物語へと置き換える最初の一編はよいなあと。他の短編が解決が真実かどうかは藪の中だけれども、織部の話は夢というあやふやな題材を扱うが故にその人にとっての「真実」が摘出されたような感触があって好き。
読了日:9月27日 著者:北村薫
http://bookmeter.com/cmt/50676994

 

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 

 ■一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)

 「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」のフレーズに象徴されるような、所謂監視社会の文脈で取り上げて論じられることが多い印象だが、そうした監視以上に、「真実」を改竄する力のおぞましさを描いた物語だと感じた。現在がすべてを統御し、過去は現在に沿って書き換えられ、反逆者は存在そのものが記録から消去され、そして極めつけは語彙を消去し物事を記す言語体系そのものを体制の都合のよいものへと作り変えていく。結末に暗澹たる気分になるが、しかし付録が社会の未来を暗示しているのではないか、とのピンチョンの解説にはなるほどなと。
読了日:9月29日 著者:ジョージ・オーウェル
http://bookmeter.com/cmt/50715299

 

  来月のはこちら。

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