『アントマン』を2D吹き替え版でみました。3Dが映えそうなシークエンスが散見されてちょっとやきもきしたのですが、それはともかく大変楽しかったです。以下で適当に感想を。
スコット・ラング。かつて正義の心から盗みを行ったことで、刑務所にぶち込まれ妻子と離れ離れになった男。現代は鼠小僧にはつらい時代だ。刑務所から出ても社会に彼の居場所はないし、声をかけてくれるのは同じ臭い飯を食ったムショ仲間ばかり。別れた妻には邪険にされ娘と自由に会うことすら叶わない。
それでも生きていかなきゃならねえスコット君が就職先に選んだのは、31アイスクリーム。その姿は似合ってない制服ともの悲しい営業スマイルによって絶妙に好感がもてそうな感じであるのだが、31アイスクリームさんは身辺調査をきっちりやることで知られるらしく(ほんとか?)、あっさり首。娘の養育費を払えないことに焦ったスコットは、身についてしまったこそどろの技で金持ちの爺さんの家に忍び込み、一発逆転を試みる。そしてそれは思わぬかたちで彼に変化のチャンスを与えることになる。
おなじみアイアンマン父ことスターク博士をはじめとする科学者同士の因縁を強調したアバンから一転、さながら『オーシャンズ11』的な軽妙な犯罪映画のごとき趣向で幕をあける『アントマン』の物語は、マーベルシネマティックユニバース系列の映画のなかでは変化球じみた軽さがあって、だから断トツといってもいいほど楽しい。いついかなる時も決して感動的な/シリアスな雰囲気は画面全体を覆い尽くすことなく脱臼させられ、むしろその脱臼が生み出す滑稽さのためにこそ、露骨に感動的っぽいシークエンスを配置しているのではなかろうかと思わせるほど。
それは凶悪な敵と決死で戦うシーンでも徹底されていて、子供部屋で戦わせたのはドラマ上のそれ以上に、シリアスに振り切らせないための手段なんじゃなかろうか。その意図はおそらく十二分に成功していて、アリがでっかくなっちゃったり機関車トーマスが壁をぶち抜いたり、モノの大小が自在にある世界の戦いはそれだけで面白い。どうでもいいですがトーマスはSkyrimのドラゴンが機関車トーマスになってしまうMODを想起して一人で爆笑しました。
アリを操っていろいろアクションするもの楽しく、『ドラえもん』的なガジェットを使って本気で実写アクションをやるとこういう風になるのかと。大きくなったり小さくなったりはビッグライト/スモールライトっぽいし、小さくした爆弾とか戦車を持ち運んで使うアイデアは四次元ポケットじゃないですか。ドラえもん=ピム博士が大人のびたくん=スコットを鍛えて、ジャイアンとかスネ夫とかを呼び集めて世界を救う、みたいな。アメリカのジャイアンは無法に強いうえに無法の馬鹿だし、だから過剰にシリアスになるわけない。そういう雰囲気は脱臼させられ続ける。
そしてシリアスが脱臼させられ続けるからこそ、この映画で例外的にシリアスが貫徹する、スコットが彼岸へと限りなく近づくクライマックスが活きる。『オーシャンズ11』だと思ってたら『ドラえもん』になって最後『インターステラー』になるわけで、それがシームレスにつながって違和感ないのがすごいよねえと。今度公開のマッド・デイモン主演『オデッセイ』といい、『インターステラー』の波、どうもきてる感じしますね(適当)。
こんな軽妙洒脱なアントマンが、どうにもシリアス方面にふり切れそうな次回の『キャプテン・アメリカ』にどう位置取りしていくのか大変気になるし、さらに公開が待ち遠しくなりました。すっかりマーベルに餌付けされてしまった。
銃身の上を駆け上がる一瞬のシーンにフリクリマインドを感じざるを得なかった。
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【作品情報】
‣2015年/アメリカ
‣監督:ペイトン・リード
‣脚本:エドガー・ライト、ジョー・コーニッシュ、アダム・マッケイ、ポール・ラッド
‣出演