新年度もぼちぼちやっていきましょう。
先月のはこちら。
印象に残った本
マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁,寺田克也
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/23
- メディア: 文庫
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今月の後半は『天地明察』からの『マルドゥック・ヴェロシティ』という冲方丁祭りでした。人が刀を帯びてはいても、それがもはや本来の役目を果たすことがなくなった天下泰平の時代を舞台にした『天地明察』と、戦争が終わってなお、戦争の影を引きずらざるを得なくなった男たちが都市で血みどろの戦いを繰り広げる『マルドゥック・ヴェロシティ』とで落差が半端なかったですが、いやーどちらも、とりわけ後者は大変面白かったです。虚無へと落ちる男の運命を乾いた文体で冷徹に、しかし熱量を迸らせて描き切っているという感じ。『スクランブル』の前日譚でありながら、『アノニマス』のプロローグでもあり、という構成の妙も唸る。ウフコックはかつてのパートナーの娘とすら敵対しなければならないんだろうか。『アノニマス』非常に楽しみ。
読んだ本のまとめ
2016年3月の読書メーター
読んだ本の数:28冊
読んだページ数:8288ページ
■ごん狐はなぜ撃ち殺されたのか――新美南吉の小さな世界
新美南吉を民俗学的な観点から読み解く。章ごとに独立性が強い印象を受け、狐のフォークロア、農村に浸透し始める近代の灯、弱いものに宿る力などなど、それぞれの章で扱われるテーマに民俗学的なテクストの読みとはこういうもんなのかーと。度々参照軸として宮沢賢治が召喚されるが、冒頭でも述べられているように新美と宮沢は同じく地方を舞台にしても描き出すものは対照的、というのが印象に残る。
読了日:3月1日 著者:畑中章宏
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■本の運命 (文春文庫)
本との関わりから自身の半生を語ったり本との付き合い方を語ったりするエッセイ。戦中から戦後直後にかけてのエピソードが印象的で、闇米を捌くついでに野球の雑誌を神保町まで買いに行ったなんたのを聞くと、本っていうのは今のようには流通していなかったんだなーという当たり前のことに気付かされる。それと父親が作家を目指してたので蔵書が抱負だったみたいなエピソードを読むと、やっぱり作家になる人は文化資本が違うのだなーと。「ゆっくり読むと速く読める」みたいな井上の読書法はなるほどなーという感じだった。
読了日:3月2日 著者:井上ひさし
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- 作者: ウィリアム・H.マクニール,増田義郎,佐々木昭夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/01/25
- メディア: 文庫
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■世界史 上 (中公文庫 マ 10-3)
上巻では先史時代から紀元後1500年までが叙述されている。メソポタミアやインド、中国で発生した文明がその裾野を広げ、中心を移したり分散を繰り返し相互作用しながら「文明社会」が広まっていく過程として世界史を提示している、と感じる。相互作用しあう「文明社会」に着目するからか、上巻は全体的に「ユーラシア史」というような印象を受け、アフリカや南北アメリカはその語りの埒外に置かれている(最後で触れられるにせよ)と感じるが、そうはいっても一人の著者がここまで広い範囲の通史を提示していることはやはりすげえ力技だなとも。
読了日:3月2日 著者:ウィリアム・H.マクニール
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- 作者: ウィリアム・H.マクニール,増田義郎,佐々木昭夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/01/25
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■世界史 下 (中公文庫 マ 10-4)
下巻は1500年から20世紀末までの歴史を語り終えて筆がおかれる。この500年間はまさしく「西欧の優勢」が歴史を決定的に動かしていたのだ、ということを語る手つきはダイナミックで、地域間の関係が緊密になるにつれまさしく「世界史」なるものが立ち現れてくるが故に明確なストーリーを読み取れる、という気がする。提示される「世界史」は西洋中心主義的な発想が全体を貫いていてそれを批判するのは容易いとも思うが、我々がそのような歴史像を受け入れることが容易い、ということこそが西洋中心主義を考える縁になるのでは、と思ったり。
読了日:3月6日 著者:ウィリアム・H.マクニール
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■エドガー・アラン・ポー短篇集 (ちくま文庫)
ミステリよりはホラーにカテゴライズされそうな短編を中心に編まれているという印象。わりと色んな作品の参照元になってるのね、とあらためておもいました(こなみ)
読了日:3月6日 著者:
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車中でぼんやりしながら読んでいた。ぐだぐだして移動してぐだぐだしてお酒を飲んでぐだぐだして移動してみたいな感じなのに何故か読ませるのがすごい。車中で飲み宿泊先で飲みと間断なくアルコールを摂取する様と、食べ物に対する過剰な厳しさ、そうしたものに象徴される語り手のねじ曲がった根性ばかり印象に残るが、それは割と楽しく読めたってことなのかもなーみたいな。
読了日:3月8日 著者:内田百けん
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袁世凱―統合と改革への見果てぬ夢を追い求めて (世界史リブレット人)
- 作者: 田中比呂志
- 出版社/メーカー: 山川出版社
- 発売日: 2015/09
- メディア: 単行本
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■袁世凱―統合と改革への見果てぬ夢を追い求めて (世界史リブレット人)
袁世凱の簡潔な評伝。「国盗り」の機会主義者という人口に膾炙したイメージを覆すことが一つの主眼となっている。清末に一官僚として出世コースを歩んだ袁は、立場としては近代化を志向する洋務派であり、ある意味では辛亥革命を動かした力の一つであるのだが、改革を志向する人々のなかでは保守的な立場の人物でもあった。ゆえに中央集権的な近代国家を立ち上げようとするなかで選び取られたのは帝位につくという方策だったのだが、それがまさに保守路線、つまり袁世凱の限界でもあったのである、的な感じだろうか。
最近出た岩波新書のやつはどんな感じなんですかね。サイブタイトルの印象は近しい感じですが。
読了日:3月9日 著者:田中比呂志
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セックス&バイオレンスに満ち満ちた女子高生。ハルマゲドンのカオスが彼女を地獄めぐりに導いていく。
「愛ってのは迷わないものなのよ。絶対正解で間違いとは無縁のものなのよ。誰々君のことが好きなのかしら?なんてふうには考えないものなのよ。好きな相手が誰だかなんて、答えは唯一無二でこの世で一番明らかなのよ。」。この信念がぼんやりと裏切られるような結末がよいなあと思いました。
読了日:3月9日 著者:舞城王太郎
http://bookmeter.com/cmt/54743891
■妄想かもしれない日本の歴史 (角川選書)
歴史、というよりは歴史についての荒唐無稽な語りに関するエッセイ。それぞれの文章の分量は少ないのだけれども、邪馬台国から義経=ジンギスカン説の登場から伝播など話題の範囲が滅茶苦茶広く、考古学から近代史まで著者の博覧強記ぶりを味わえる。読み始めは文章の読点がやたらと多く感じたのだが、読み進めるうちに気にならなくなってきた。
読了日:3月11日 著者:井上章一
http://bookmeter.com/cmt/54795014
■憲法と民主主義の論じ方
安全保障法制の議論を中心にして、立憲主義、低成長時代における政治、選挙、セキュリティと憲法問題など様々な論点が取り上げられている。杉田が意見を述べつつ、主に長谷部の主張を引き出していく、というような雰囲気。パリ同時多発テロなんかにも触れられていて、(安全保障法制のことが中心になってる時点でそうだけど)リアルタイム感が非常に濃い感じ。
読了日:3月12日 著者:長谷部恭男,杉田敦
http://bookmeter.com/cmt/54804143
- 作者: ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエール,工藤妙子
- 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
- 発売日: 2010/12/17
- メディア: 単行本
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■もうすぐ絶滅するという紙の書物について
書物にまつわる対談。エーコ、カリエール両者の本に対する愛が炸裂しまくりで話は稀覯本から自身の著作、買い集める楽しみから死後の蔵書の行方まで四方山話に花が咲いている。エーコが亡くなってしまった今読むと、生前から死後の蔵書ことに思いを巡らしていたのだなーと。本は車輪と同じように、それとして完成されていてもう変化のしようはないものなので電子書籍があろうが本は本として残るだろう、みたいな見立てをしているんだが訳者はそういう感じでもないっぽい印象なんだけどどうなんだろ。とにかく面白く読んだ。
この本にも電子書籍版があるのはなんというか批評性があるなーと思ったり。
読了日:3月12日 著者:ウンベルト・エーコ,ジャン=クロード・カリエール
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■歴史と私 - 史料と歩んだ歴史家の回想 (中公新書 2317)
歴史学者が今までの自身の歩みを回顧する。それまで歴史学の対象とされてこなかった昭和を歴史学の対象とし、その前提となる様々な史料の収集整理を行うあたりは、まさに日本近現代史の一分野が形作られる過程の記録として特に面白く読んだ。また、共産主義への接近と離脱によって、著者の学問的な立ち位置も大きく左右されてきたのだなという印象を受け、当時の学会の空気みたいなものがなんとなく感じられた。しかし著者の「歴史」は政治史偏重という感じがし、「オーラルヒストリーを簒奪している」(『立ちすくむ歴史』の鼎談より)みたいな批判がなされるのもわかるという感じ。
読了日:3月14日 著者:伊藤隆
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■日本に古代はあったのか (角川選書)
書名で提起された問いに対する結論を先に記しておくと、日本に古代はなかった、というのが著者の立場。古代の大帝国(ローマないし漢)が崩壊し様々な勢力の分立していくのが中世の有様だとするならば、古墳時代は漢の崩壊を受けた中世とみなし得るとする。現在支配的な時代区分は、明治政府の東京遷都をある意味正当化する関東史観であり、それに対して著者がオルタナティブとして対置するのは内藤湖南、宮崎市定の流れをくむ京都史観。封建制など様々な論点をめぐる史学史的な対抗関係こそ、本書が記述しているものであると感じた。
読了日:3月15日 著者:井上章一
http://bookmeter.com/cmt/54874810
■科学の本一○○冊
タイトル通り科学の本についてのブックガイドなのだが、アインシュタインから『古事記』まで、扱う範囲はめちゃくちゃ広い。夏目漱石から宮沢賢治、『聖書』や『ソクラテスの弁明』などを科学者の目で読んで紹介していておもしろく読んだ。もっとも、科学史上の名著だったり科学的な啓蒙書なんかの扱いにもちろん大きな紙幅が割かれていて、それが大変勉強になったのだけれども。半世紀近く前の岩波新書から最近の啓蒙書まで幅広くおもしろそうな本を知れてよかった。
読了日:3月15日 著者:村上陽一郎
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■井上ひさしの読書眼鏡 (中公文庫)
書評を集めたもの。米原万里の全著作解説、藤沢周平の思い出を語ったエッセイ以外は新聞連載の短文。辞書や事典の類を取り上げて楽しげに語っているのが印象的で、井上の言葉に対するこだわりを強烈に感じた。それと興味範囲の広さも。
読了日:3月16日 著者:井上ひさし
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「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか―日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎
- 作者: 小池滋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/10
- メディア: 単行本
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■「坊っちゃん」はなぜ市電の技術者になったか―日本文学の中の鉄道をめぐる8つの謎
近代文学を鉄道に着目して論じたエッセイ集。表題にある『坊ちゃん』他、田山花袋や永井荷風、芥川龍之介、宮沢賢治などなどが取り上げられている。内容は、なんというか、鉄道が好きならおもしろく読めるんだろうなーという感じでそこらへんへに僕はあんまり興味ないんだなあと改めて気付いたわけですが、田山花袋「少女病」から鉄道が東京という街をいかに作り変えたのか論じたエッセイはおもしろく読んだ。
読了日:3月16日 著者:小池滋
http://bookmeter.com/cmt/54906152
ネオ・プラグマティズムの入門書。ウィトゲンシュタイン、クワイン、セラーズという、ネオ・プラグマティズムの源流とされる三者の思想を簡潔に記したのち、ローティ、ブランダム、マクダウェル、環境プラグマティズムについてそれぞれ一章ずつを割いて概説するという構成。ローティ以外は本書出版時には(今もあまり状況は変わっていない気がするが)日本で紹介されてこなかった論者を取り扱っていて勉強になったような気がした。でもローティ以外についての理解はあんまり明確に得られなかったという感じもあるので要再読。
読了日:3月17日 著者:岡本裕一朗
http://bookmeter.com/cmt/54940934
■承認をめぐる病
「承認」という問題意識は通底しているが、エヴァンゲリオンから精神医学の問題、家庭内暴力、フランクルなどなど、様々な問題を取り上げた論考を所収。「承認」をめぐる問題については、「キャラ」的なふるまいを強いられ、客観的な指標でなく「コミュ力」によってその場その場の承認を得ようとする、最近のコミュニケーションの有様へ批判的なまなざしを向けオルタナティブを提示しようとしているように思われた。精神医学的な立ち位置としては、「ひきこもり」問題のときから割と一貫した姿勢を貫いているような感じを受けた。
読了日:3月20日 著者:斎藤環
http://bookmeter.com/cmt/54999941
■増補版 ドキュメント死刑囚 (ちくま文庫)
5人の有名死刑囚をとりあげたルポルタージュ。著者は死刑制度が凶悪犯罪を抑止する機能を持つということに懐疑的であり、犯罪者の命を奪うことによってその犯罪者を生み出した社会の問題が隠蔽されてしまうのではないか、と考えているように感じた。死刑囚と縁組する人物を取り上げるなど死刑囚にある意味寄り添う視線がある一方で、被害者家族の「死刑以上の刑罰を与えたい」という感覚も併記されていて、死刑の問題がどうにも考えるのが難しい問題であるのだということが強く印象にのこる本だった。
読了日:3月21日 著者:篠田博之
http://bookmeter.com/cmt/55032823
ホッブスの生涯を辿りつつその思想を概説する。ピューリタン革命期のイングランドという危機の時代を生きた思想家として、人間の「自己保存」を最も重要なものとみなした、というのが本書におけるホッブスの位置付けだろうか。ホッブスの近代思想史上の影響関係なんかの記述もあって勉強になる。思想史的には超重要人物なのにもかかわらず、その生涯については史料があまり残されておらずそれほど明らかになってないっていうのはなんか意外だった。
読了日:3月22日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/55053441
明治期から現代まで、皇居前広場の意味変容の様相を五つの時期に分節して論じる。「無用の長物」とみなされた空き地が、天皇制の儀礼空間となり、敗戦直後は占領軍と左翼がそれぞれ利用し、また「愛の空間」としても存在していくことになる。その後空白期間を経て、20世紀末からまた儀礼空間として活用され始めている、というのが大まかな見取り図だろうか。著者も述べているように「皇居前広場の空間政治学」という趣があり、現代の儀礼と戦前の軍国主義的な祝祭とのそれとは意識されない連続性みたいなものが見えてきたような感じがした。
読了日:3月22日 著者:原武史
http://bookmeter.com/cmt/55065353
世界で一番やさしい建築入門 増補改訂カラー版 (エクスナレッジムック 世界で一番やさしい建築シリーズ 23)
- 作者: 小平惠一
- 出版社/メーカー: エクスナレッジ
- 発売日: 2013/06/11
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■世界で一番やさしい建築入門 増補改訂カラー版 (エクスナレッジムック 世界で一番やさしい建築シリーズ 23)
建築とはなにか、というところからはじまり、デザイン、工法、法規、設備や材料などおおよそ建築に関わるものについて網羅的に解説してある。解説はいい意味で教科書的で簡潔平明。通読するよりは手元に置いておいて適宜レファレンスしていくみたいな感じで使う本なのかなーという印象をうけた。
読了日:3月23日 著者:小平惠一
http://bookmeter.com/cmt/55076307
■興亡の世界史 アレクサンドロスの征服と神話 (講談社学術文庫)
アレクサンドロスの生涯を辿り、その歴史上の意義を考察する。ギリシア世界の辺境から出発し、ペルシアを手中に収め、そしてインドまでその手を伸ばしたアレクサンドロス。その支配は一見ペルシア的な文化を受容するものであったが、それは表層的なものにとどまってもいた。遠征を続けるなかで広大な版図は王の目が十分に行き届かなくなり、後継者が定まることなく没したことで彼の帝国は瓦解することになる。しかし、分割された彼の帝国を継ぐものたちが確かにその遺産を継承してもいたのである。みたいな感じだろうか。
アレクサンドロスの人物像が多面的に浮かび上がってくるという感じがし、ホメロス的な英雄像への拘泥や、母譲りと思われる激情が発露して残虐な殲滅戦を展開したり朋友を殺害したりなんかのエピソードが印象的。彼の征服によってギリシア世界は一気にその影響力を高め、ヘレニズム文化の興隆につながることになる。とはいえ、それを文明=ギリシアの野蛮=に対する勝利と捉えるのは古代ローマ以来再生産され続けた東方蔑視的な、あるいはオリエンタリズム的なまなざしであることには留意しなけれならないよなーと。著者も述べるように。
『ヒストリエ』はやはり完結しないのではないかとの不安が募って悲しくなる一冊だった。
読了日:3月24日 著者:森谷公俊
http://bookmeter.com/cmt/55104827
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/05/18
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■天地明察(上) (角川文庫)
江戸時代、碁打ちとして幕府に仕える渋川春海は、真剣勝負とはかけ離れた囲碁の世界に飽き、算術の世界にのめり込む。上巻では関孝和という途方もない巨人と出会った春海が、未熟さゆえに挫折を味わい、北極星を観測するため日本を巡る旅の中で再び立ち上がる物語が語られる。一矢報いたと同時に、恋では敗れもする、という結着が青春小説っぽくて好き。戦火の時代から離れ泰平の世で職以外のことに存在証明を見出し生きる男の姿は、なんとなしに現代人と重なるような感じがあって、それが江戸時代の魅力の一端なのかなーとか思ったり。
読了日:3月26日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/55150385
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/05/18
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■天地明察(下) (角川文庫)
ついに渋川春海に改暦の大事業が命じられ、長い長い苦闘が始まる。誤謬と敗北を乗り越えて、ついには天地明察へと至る。もちろん春海の物語なのだけれど、彼を取り巻く関孝和にしろ本因坊道策にしろ、泰平の世にあってそのなかで何がしかの革新を目指したものたちの群像劇という感じがあって強烈に心躍った。誤っても一度誤った自分を受け入れて乗り越えるために立ち上がり続ける春海の姿もそうなんだけれども。
読了日:3月27日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/55168896
マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁,寺田克也
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/23
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■マルドゥック・ヴェロシティ1〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
戦場で深く傷つき生存のため異能の力を得たものたちが、戦争によって富み栄えた街で、その有用性の証明のために戦う。主人公たちの出自が否応なしに「戦後」という舞台設定を強調し、戦争によって存在を規定されたものたちが都市のなかでうごめき、そしてやがては衝突するのだろうなという予感を強く感じさせる。ボイルドとウフコック、そのコンビの辿り着く先を既に知っているがゆえに、この作品で語られる彼らが良きコンビであった時代の物語はもうそれだけでもの悲しさがあるなーと。
読了日:3月29日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/55209860
マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁,寺田克也
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/23
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■マルドゥック・ヴェロシティ2〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
09チームとカトル・カール、戦争が生み出した異形のものたちがついに街で相見える。その背後には街を操らんとするものたちの陰謀の影。2巻は錯綜したその輪郭が次第にはっきりとしてくるのだが、そうした刑事ものっぽい展開と同時に、ボイルドの温度の低い愛の物語が語られ始める。「終わりの始まり」が告げられるかの如きラストに、ああいよいよこのチームが破局に向かっていくのだなという決定的な予感を感じて、覚悟を決めて続きを読まなければならないなと。
読了日:3月29日 著者:冲方丁
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マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁,寺田克也
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/08/23
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■マルドゥック・ヴェロシティ3〔新装版〕 (ハヤカワ文庫JA)
そして男は虚無へと至る。仲間が次々と敵の手にかかり、あるいは裏切り、あるいは男の手で葬られる最終巻はひたすら陰鬱でおおよそ救いなどあるようには思われない。それでもひたすら虚無へと男が落ちていくさまを見届けねばならないという謎の使命感に駆られて一気に読ませるのは、乾ききったクランチ文体のなせる業なのか。人の死は唐突で残酷で、それを導いた血の因縁はおおよそ理解し難い狂気が渦巻く。今はただ男の運命を決定付けた、街の底知れぬ虚無に打ちのめされていて、まともな感想が出てくる気がしない。
読了日:3月29日 著者:冲方丁
http://bookmeter.com/cmt/55227359
来月のはこちら。