『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を見直したのでせっかくだから感想を残しておきます。
自分の意志でエヴァに乗ることを選び、第6使徒を退けた碇シンジだったが、未だに自分がなぜエヴァに乗るのか、その答えをはっきりと言葉にはできずにいた。そんな彼の憂鬱を切り裂くように空から少女が舞い降りて、物語の幕は開く。
『序』においてはTVシリーズの再演の趣が強烈に残っていた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は、この『破』で急激に違う方向へと舵を切り始める。TV版の展開を踏襲しつつ、登場人物の運命に決定的な変化を加えることで、碇シンジの物語が誰もみたことのない場所へと向かい始めた。
その碇シンジの運命にとってもっとも重要なことは、「なぜエヴァに乗るのか?」という問いで、『序』はその問いにさしあたっての回答を見出すまでの物語だ、ともいえる。
『序』でさしあたっては回答を見つけ出したかにに思えたその問いが、彼のなかでいまだくすぶり続けていることが冒頭で示され、その後もその煩悶は何度も反復される。その意味で『破』で展開されるのは『序』の延長線上にある、「碇シンジがエヴァに乗る理由を探す物語」だといえる。
みんなの期待に応えて私たちを救ったのよ。
そう信じに告げる葛城ミサトは、『序』のクライマックスでシンジがエヴァに乗った理由を、たぶん抽象的な「みんな」のためであると推定しているように思われる。たぶんそれは理由のひとつを言い当ててはいるけれども、結局シンジの戦う理由は抽象的な「みんな」のため、というだけでは足りない。その理由を充足させるものは、『序』の序盤に、あるいはクライマックスにおいて確実に示されてもいるのだけど、碇シンジはそれに気づかない。空から隕石のように飛来した第8使徒を倒したあとに、式波アスカとの会話のなかで「父さんに褒めてほしいのかな」とこぼしたりする。確かにそれも動機のひとつかもしれない。でも多分それは戦う理由の核心ではない。
自分の命を危険にさらして、友人をその手にかけてまで、なぜ戦わなければならないのか。その問いに唯一無二ともえいる回答が提示されるのが『破』のクライマックスで、碇シンジが自分は綾波レイのためならば、抽象的な「みんな」ではなくただ一人の特別な人のためならば、エヴァに乗って戦うことができる、そのようにして彼はクライマックスの戦いに臨む。
振り返ってみれば『序』において最初にエヴァに乗ることを決意したのも、そして第6使徒との戦いで死力を尽くしたのも、綾波レイの存在が碇シンジを突き動かしたわけで、極めて私的な理由で戦いに臨むこのクライマックスは、『序』の時点で半ば予告されていたともいえる。その私的な戦いは、自分はどうなったっていいし、それどころか世界がどうなったっていい、そのような境地にまで碇シンジを導き、それが結果的に綾波レイを救った。救ったのだと信じていた、のちに『Q』が公開されるまでは。
『Q』が公開されて久しい今このクライマックスをみると、「世界の終わり」の予感に満ち満ちていて、『破』の公開当初のように、運命を意志の力で乗り越えた、そういう楽天的な物語をここに見出すことはとてもできない。たしかに、TV版で死ぬ運命にあった綾波の運命は塗り替えてみせたかもしれない。しかしその代償が世界の終わりだとはだれが想像できただろうか。世界でただ一人の君を救うために、世界すべてを引き換えにしてもいい。その覚悟が実際に世界を破滅に導くとは、はっきり言って想像もしていなかった。
その後の『Q』で、碇シンジはまたしても運命を変えるため/世界を救うためにエヴァに乗るわけだけれど、それはみるも無残な結果を生じせしめ、『破』のような一時の勝利に酔うことも許されず、ただ無残な敗北だけが残された。『Q』でシンジは「ガキ」よばわりされるわけだけれど、その「ガキ」性の核心には戦う根拠が徹頭徹尾私的なものでしかないことがあるのではないか。翻っていえば、大人になったアスカたちはおそらく確信的に抽象的な「みんな」のため、言い換えれば世界のために戦っていて、そういう仕方で戦うことこそが、この世界の大人の証明なのかもしれない。
しかし、再びシンジが「みんな」のために戦えるのか、というと非常に微妙な気がするし、そのように決着する物語を僕はみたくない、という気もする。「なぜエヴァに乗って戦うのか」を煩悶する碇シンジの物語は、「なぜ社会のなかでわたしは生きるのか」ということを考えてしまう我々の物語ときっと重なるのだと思う。だから、なにか希望めいたものが、来る『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で提示されてくれたらな、と思う。
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【作品情報】
‣2009年
‣原作:庵野秀明
‣脚本:庵野秀明
‣音楽:鷺巣詩郎
‣アニメーション制作:スタジオカラー
‣出演