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啓蒙か、希望か——『ドント・ルック・アップ』感想

Don't Look Up: Screenplay

 『ドント・ルック・アップ』をみたので感想。

 ミシガン州立大学の博士課程の学生による世紀の発見。新たな彗星。その彗星が、半年後に地球を直撃すること。即座にホワイトハウスにアポイントメントをとり、世界の危機を伝えようとする学生とその指導教員だが、大統領の反応は予想外の鈍さ。世界はこの危機にいかに対峙するのか。

 Netflixによるオリジナル作品で、監督は『マネー・ショート』、『バイス』のアダム・マッケイ。レオナルド・ディカプリオジェニファー・ローレンスのダブル主演で、いかにも頭が弱そうな女大統領役はメリル・ストリープアメリカ政府の方針にも影響を及ぼす超大企業のCEOにマーク・ライランス、そのへんのちんぴらにティモシー・シャラメなどなど、見知った顔が続々出てくるのでビビる。

 『ディープ・インパクト』や『アルマゲドン』の再話のようなプロットだが、前作の『バイス』同様、ポスト・トランプ時代の空気を存分に吸った諷刺劇の趣が強い。Twitterで暴言を連発し、最終的には永久に追放された元大統領が実在するという事実によって、もはや現実の底はいよいよ抜けてしまっていて、並大抵の破天荒具合ではギャグになりえないという我々の言説空間と巧妙な共犯関係を結んでいる、という気もする。作り手側に、「これがギャグにみますか?ほんとに戯画だといえますか?」と繰り返し問われている——そしてそれに「これは流石にギャグだろ」と言い返せない居心地の悪さを強く感じるわけです。

 いかにも大作映画風のガワで人を呼び寄せ、居心地悪い気分にしてそれぞれのことを省みてもらう——という意味では、『マネー・ショート』、『バイス』と同様、ある種の啓蒙映画とはいえるのかもしれない。でも、映画というかフィクションの使命って、そのくそみたいな現実に対してなにかしらのカウンター、見せかけであってもそれを信じるに値すると思わせてくれるようなビジョンをみせてほしいとわたくしは願ってしまうわけですね。いまさら『ディープ・インパクト』や『アルマゲドン』をもう一度とはいわんから、もっとなにか、新たな一歩を見出したかった。

 それはたとえば『逆襲のシャア』に対するカウンターとしての『地球外少年少女』みたいにさ。

 

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