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宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

プロフェッショナルの生きざま―『マネーボール』感想 

映画

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 『マネーボール』のBlu-rayが出たので、購入&視聴。劇場で観た時から好みのタイプの映画だと思っていたが、その思いをより一層強くした。弱いものが創意工夫で強者に立ち向かうという物語の構造と、登場人物が徹底的なプロフェッショナルとして描かれている点が、その理由だ。

 二重の下克上! 

 本作は、貧乏球団アスレチックスのGMビリー・ビーンとその相棒ピーター・ブランドが、新理論を武器にシーズンを戦いぬく、というのが大筋となっている。主力選手がごっそり抜けてしまった貧乏球団が、なんとかして金持ち球団に立ち向かうという構図が、前提としてある。

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 加えて、主要な登場人物であるビリーとピーター、彼らのビリーは、過去に野球選手として過大に評価され、それゆえ人生を曲げられた男。一方のピーターは、自信なさげな所作から、今まで不当に低く評価されてきたことをうかがわせる。彼らはある意味で負け犬(成功者でない)として描かれているのである。

 この、今まで適切な評価を得られなかった二人が、新たな評価機軸を打ち出して、選手に新たな評価(正当だと思える評価といいかえてもいい)を与えてチームをつくっていく。これもある種の下克上のような構造といえる。

 球団の逆境と、登場人物の立ち位置をオーバーラップさせ、いわば二重の下克上のような構造が創り出されている。そこからの反攻を描いた映画が、この『マネーボール』というわけだ。そして、結末で彼らは勝利を手にするわけではない。それでも、ビリーは同じ境遇で戦い続けることを選ぶ。その再出発の過程までをも描ききっている。そこに胸が熱くなるし、同じ時代を生きる人間として勇気をもらえる。

 

プロフェッショナルの信念

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 『マネーボール』が好みであるもうひとつの理由は、登場人物の誰もが、徹底的なプロフェッショナルとして描かれている点だ。貧乏球団アスレチックスは、一枚岩の集団としては描かれない。ビリーの提示した評価機軸、チーム編成に誰もが賛同しているわけではないからだ。

 例えばスカウトは、自身の経験に拠ってビリーに対して反論する。そのシーンからは、長年の仕事に対する自信と誇りが感じられる。故に、見ている側としても一定の説得力を感じるのである。つまり、劇中での盛り上がりのために、作劇上の都合でスカウトマンに反論させているような、反論のための反論という雰囲気が一切感じられない。こうしたこだわりが随所に感じられるため、作中の人物の会話に嘘っぽさを感じないのである。

 またビリーは新理論を取り入れたことで、徹底的に自身の、ひいてはスカウトマン経験を疑っていくことになる。その経験に対する偏執的ともいえる懐疑は、スカウトマンに個人的な恨みかと指弾されるレベルである。だがそう詰られようとも、新理論で戦うと決めたビリーは揺らがない。その信念の強さは劇中で何度も示されるが、この点もプロフェッショナルとしてのこだわりを感じさせる。

 一方で、ビリーは弱く、迷う人間としても描かれる。劇中何度も物に当たり散らす場面が印象的だが、そうでもしなければやっていけない、彼の弱さ・人間味を言葉に拠らず表す気の利いた演出だ。またチームが不調の時に、娘にネットも新聞も見るなと冗談半分で訴える場面なんかは、彼自身も己の理論の正しさを信じ切れていないことがわかる。このように仕事の時はプロとして迷いなく振舞いながらも、その実弱さや迷いを抱えて闘うビリーの姿は、作品全体を魅力的なものにしていると思う。

 

吹き替えの魅力

 余談ではあるが、吹き替えの出来もまた素晴らしかった。劇場で観た時は字幕だったので、この吹き替え版を見れた(聞けた?)だけでもBlu-ray版を買った価値があろうというものである。ブラット・ピットを吹き替えているのは東地宏樹氏であるが、これがとんでもないマッチ具合。ややオーバー気味な演技が、ビリー・ビーンという男に新たな魅力を与えていると思う。

 また、スカウトマンの会議の場面などは、些細な会話が全て吹き替えられているので、字幕では追えなかった情報が次々と頭に入ってくる。情報量がケタ違いである。

 

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 加えて、吹き替え声優陣の豪華さも尋常ではない。レッドソックスのオーナー、ジョン・ヘンリー役(上の写真)にキャスティングされているのは、あの堀内賢雄氏である。ジョン・ヘンリーが登場する場面は後半も後半、しかも5分程度である。とても重要な場面ではあるのだが、普通大御所の堀内氏を起用したりしまい。堀内氏のおかげで、この場面は非常に印象的な場面になった。また、アスレチックスノオーナー役は井上和彦氏が吹き替えを担当している。こちらも登場する場面は少ないだけに、贅沢なキャスティングだなと感じた。

 

 以上長々と『マネーボール』の魅力について語ってきたが、語りつくせたとは到底思えない。それだけ、強く心ひかれる、素晴らしい映画だった。

 

 

 

【作品情報】

‣2011年/アメリカ

‣監督:ベネット・ミラー

‣脚本:スティーヴン・ザイリアンアーロン・ソーキン

‣出演

 

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