宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2015年8月に読んだ本

 最近8月だっつーのに最高の夏感がすっかり何処かへ行ってしまったようで、大変遺憾でした。あれほど憎らしかった灼熱の日差しが恋しい。太陽がんばれ。

 いよいよ首がまわらなくなりつつありますが、わたしは元気です。

 先月のはこちら。

2015年7月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

 

  やっぱり、ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』が印象深いです。

その意図の雄大、小説的構成の複雑、哲学的達観の深遠なことは『ファウスト』を凌ぎ、その人間愛の熾烈、宗教的信仰の高邁なことは『神曲』と並んで劣らず、まさに世界文学の古典となるべき偉大な作品の一つである。*1

 解説のこのほめ殺し具合に偽りなし、まさに「すべて」がある、という感じでありました。恥ずかしい話ですが読み通すことができた、ということが結構うれしくて、外国文学読めない病とおさらばできるかも。できないかも。

 

 それと長い間積んでいた本をようやく崩したり。こちらも心にきました。

  それとコミケに参加したのも思い出深い。それ関連の文章がしたの記事です。

 

読んだ本のまとめ

2015年8月の読書メーター
読んだ本の数:32冊
読んだページ数:9008ページ

 

マクベス (光文社古典新訳文庫)

マクベス (光文社古典新訳文庫)

 

 ■マクベス (光文社古典新訳文庫)

 3人の魔女のささやきに導かれるようにして、男は王を裏切り玉座を手中におさめる。 

 裏表紙に引かれている「ヘエエエイ、マクベース!」に衝撃を受け、どんな前衛的な翻訳なんだろうかと思ったらふつうに読みやすい感じの訳だった。「きれいはきたない、きたないはきれい」みたいな有名な台詞を大胆に訳し直してたりとかするので革新的なのかもしれないですが。魔女の予言と妻のささやきによって、マクベスの運命は決定付けられてしまう。他者によって規定された運命を、しかし最後には自ら選びとったもの、自分自身のものとして生きようとしてるような気がし、なんというかそこに悲劇的なものを感じた。
読了日:8月1日 著者:ウィリアムシェイクスピア
http://bookmeter.com/cmt/49222936

 

社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ (岩波ブックレット)
 

 ■社会を結びなおす――教育・仕事・家族の連携へ (岩波ブックレット)

 バブル崩壊以後、日本社会が「ひどく行き詰まっているように感じられる」のは何故か。それを戦後日本の歴史的な位相の中で捉え、仕事・家族・教育の三つの社会領域から成る「戦後日本型循環モデル」の破綻こそがその要因であるとする。そのモデルが機能していたころは、それぞれが一方向的な矢印によって強くむすびついていたが、それはすでに綻びをみせている、と指摘する。そこで、一方向的ではなく双方向的に三領域をむすびなおすことの必要性を説く。抽象度の高い社会構造について論じているのにも関わらず読み易かった。
読了日:8月1日 著者:本田由紀
http://bookmeter.com/cmt/49224087

 

 ■先人たちの「憲法」観―個人と国体の間 (岩波ブックレット)

 中江兆民から石橋湛山司馬遼太郎まで、江戸末期から現代にいたる知識人の「憲法」を語る文章が抜粋され、それに著者が解説を加えていく。憲法というよりは、副題にある個人と国家との関係性について述べた文章が取り上げられていて、憲法の専門家でない、所謂知識人17人の文章がそれぞれ3頁という短い紙幅の中で検討される。最後に取り上げられている渡辺一夫の終戦直後の日記が大変印象に残った。安堵感のなかで、すでに「戦後」に期待を失いつつあった渡辺。そこから現在はどれほどの距離があるのか。
読了日:8月1日 著者:
http://bookmeter.com/cmt/49225160

 

ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)

ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)

 

 ■ジュリアス・シーザー (光文社古典新訳文庫)

 タイトルはシーザーだが主役はむしろブルータスを中心とする暗殺を企む者たち。清廉潔白な男を引き入れたがゆえに、シーザー暗殺の共謀者たちは一時は群衆の支持を得られたかと思いきやシーザーを信奉するアントニーに付け入る隙を与えてしまう。こうした権力者の扇動で右から左に瞬く間に転換する群衆の姿は、シェイクスピアの生きた時代より後、近代におけるそれのあり方を彷彿とさせる。となると群衆っていうのは近代固有の現象じゃない気もしてくるのだけれどどんなんだろうか。
読了日:8月2日 著者:シェイクスピア
http://bookmeter.com/cmt/49251094

 

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

 

 ■ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

 炎上という現象を中心に据えた、インターネット論。ネットの特質を「可視化」と「つながり」という二点から捉え、サイバーカスケードによってある種の意見が強化され、リアリティを与えられることによって自走し始めるという現象が起きやすくなっていることを指摘する。そうしたネットのあり方は、本書が出た2007年からアーキテクチャの面では変化すれども変わっていないような感じがする。そうした内容とは別に、語彙の意味内容は10年もしないうちに大きく変わったなーという印象もあった。ネトウヨという略称とかまとめサイトとか。
読了日:8月2日 著者:荻上チキ
http://bookmeter.com/cmt/49251853

 

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

 

 ■東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

 タレントが東大は上野ゼミで修行した記録。芸能界と東大というガクモンの世界の落差に戸惑いながらも必死で適応しようと奮闘している様を面白く読んだ。上野のスパルタぶりはすごい。しかしザ・学問の世界みたいな東大的な環境に適応してしまったら芸能界なんてあほらしくてしょうがないんだろうなーと。
読了日:8月4日 著者:遥洋子
http://bookmeter.com/cmt/49297159

 

鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと (ちくま学芸文庫)

鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと (ちくま学芸文庫)

 

 ■鉄砲と日本人―「鉄砲神話」が隠してきたこと (ちくま学芸文庫)

 「信長は鉄砲を効果的に用いたことで長篠の合戦に勝利した」、「戦国時代の合戦は刀や槍での近接戦闘が主だった」、「江戸時代には日本人は鉄砲を捨ててしまった」のような「常識的な通説」に、史料を駆使して異議を唱える。戦国時代においては銃火器は戦略レベルにおいても戦術レベルにおいてもそれほどの効果を発揮せず、火器の性能が戦局を大きく左右するようになったのは幕末期からである、というような戦史の理解に裏付けられた叙述に貫かれている。著者の意見の妥当性を判断する能力は僕にはないが、読み物として楽しく読めた。
読了日:8月4日 著者:鈴木真哉
http://bookmeter.com/cmt/49301654

 

アニメの魂: 協働する創造の現場

アニメの魂: 協働する創造の現場

 

 ■アニメの魂: 協働する創造の現場

 アニメの制作現場からファンによる受容のあり方までを射程におさめたアニメ論。細田守の現場から『ぜんまいざむらい』、ゴンゾなど様々な場所のフィールドワークは読み物としても面白いのだが、とりわけファンサブ問題を扱った章はアニメの話題にもかかわらず完全に知らない世界という感じで興味深く読んだ。制作現場だけに留まらない人々の社会的な実践によって、ニッチとマスとの循環的な流れが生じ、それが「アニメの魂」なるものをかたちづくっている、というのが全体を通しての著者の主張だろうか。
読了日:8月5日 著者:イアン・コンドリー

関連?

 細田監督の挫折について、この前の『プロフェッショナル 仕事の流儀』よりちゃんとディティールを指摘している印象でした。

http://bookmeter.com/cmt/49320260

 

レヴィナス入門 (ちくま新書)

レヴィナス入門 (ちくま新書)

 

 ■レヴィナス入門 (ちくま新書)

 レヴィナスの入門書。主著である『全体性と無限』、『存在するとは別の仕方で』を軸に、レヴィナスの思想をたどる。何がわかったのかといえばイマイチよくわかっていないのだが、存在するというだけで呼びかけにあらかじめ答えてしまっている、ゆえに他者に対する「責め」を負うのだという発想やハイデガー批判なんかはなるほどなーという感じであった。
読了日:8月6日 著者:熊野純彦
http://bookmeter.com/cmt/49341199

 

言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)

言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)

 

 ■言論抑圧 - 矢内原事件の構図 (中公新書)

 1937年、東大教授矢内原忠雄が職を辞した事件を、その発端から帰結までを様々なファクターから詳細に分析し、その提起する思想的な論点を摘出する。矢内原の辞職は、学問の自由・大学の自治が国家の抑圧に敗北したものとして今日的な視点からは捉えうるが、東大経済学部や無教会キリスト教信徒など当事者にとっては必ずしもそう捉えられてはいなかった。蓑田胸喜との対比で愛国心のあり方を再考したり、言論抑圧のメカニズムを解く結部も面白く読んだが、やはり史料に分け入り細部を再構築する叙述が何より魅力的な本だなーと感じた。
読了日:8月6日 著者:将基面貴巳
http://bookmeter.com/cmt/49342668

 

ネット時代の反論術 (文春新書)

ネット時代の反論術 (文春新書)

 

 ■ネット時代の反論術 (文春新書)

 どう考えても話にならない相手に、それでも反論するための技術をアイロニカルに説く。まずなんのために反論するのか、という目的設定が必要であるとし、それに応じた三パターンが述べられる。自分のイメージを守るため、見かけ上議論しているように見せかけて体面を保つ。ディベート的に反論したいなら、論点と場の設定をきっちりする。相手のイメージを下げるための人格攻撃を行うならば、自分のイメージをかなぐり捨てる必要がある。不毛な論争におけるレトリックの解説は読んでいて下世話に楽しかったです。
読了日:8月8日 著者:仲正昌樹
http://bookmeter.com/cmt/49382822

 

もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書)

もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書)

 

 ■もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書)

 若者や教育、家族などの問題を扱った論考やインタビューなどをまとめたもの。家族・学校・企業からなる戦後日本型循環モデルとその衰退が、社会に様々な軋轢を生み出しているという、『社会を結び直す』においても語られた認識は本書でも再論される。その他ハイパーメリトクラシーや、単なる学力トラッキングを形成するものでなく、キャリアにつながる「柔らかな専門性」を身につけるために高校を位置づけることの必要性など、本田のこれまでの仕事と主張をなんとなくざっくり確認した気になれた。
読了日:8月9日 著者:本田由紀
http://bookmeter.com/cmt/49417770

 

文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫)

文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫)

 

 ■文学とは何か――現代批評理論への招待(下) (岩波文庫)

 下巻では、ポスト構造主義精神分析が扱われたのち、著者の文学理論観が開陳される終章、そして出版後約15年を経て書かれたあとがきを収める。文学理論のイントロダクションと思われた本書がその実、旧来の文学理論を葬って新たな局面を開こうとする意図をもって書かれたことが明らかになる終章が熱い。文学理論は単なる言葉遊びではなく、現実を変えていく可能性があるのだと力強くカルチュラルスタディーズはこういう現状認識と戦略的な目標をもって出発したのだなあと。
読了日:8月9日 著者:テリー・イーグルトン
http://bookmeter.com/cmt/49425387

 

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

 

 ■日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

 ユダヤ人をダシにした俗流日本人論、日本特殊論。地理的な条件から日本列島で培われてきた気質の特殊性を述べる序盤はまあなるほどなといった感じだが、日本教を軸に展開される中盤以降はちょっと。「日本教」は分析概念ではなく、「厳として存在している」(p.114)にも関わらず日本人は「日本教徒などという自覚は全くもっていない」(p.115)という。それは宗教として「存在している」といえるのか?百歩譲って分析概念としては使えるかも、とも思うがこうした著者の姿勢はどうにも。『にせユダヤ人と日本人』を併せて読もうと思った。
読了日:8月10日 著者:イザヤ・ベンダサン,IsaiahBen-Dasan
http://bookmeter.com/cmt/49444995

 

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

 

 ■カラマーゾフの兄弟〈第1巻〉 (岩波文庫)

 フョードルとその三人の息子たち。それぞれ腹に一物抱えてるっぽい一族が僧院に集って物語の幕は開く。父親フョードルの激烈な性格と台詞がとにかく印象的。ひたすら喚き散らすことでその場を支配し、周りのものをすっかり不快にさせる様子が文章から痛いほど伝わってきて、読んでるだけなのに気まずい思いをした。放蕩の限りを尽くすミーチャと心の底がみえないイワンという兄弟たちのなかで、ひたすら純粋にみえるアリョーシャの姿が不憫。
読了日:8月10日 著者:ドストエーフスキイ
http://bookmeter.com/cmt/49452369

 

にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)

にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)

 

 ■にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)

 『日本人とユダヤ人』を中心として、山本七平の著作と思想を強烈に批判する。端的に要約するなら、まえがきで述べられている「特殊によって一般を推定するエピソード主義」に対する批判と、ユダヤ人に関する知識の誤りの指摘、また語学力への疑義の三つの方向性に大別できるだろうか。批判はいちいちもっともだと思うのだが、批判が過熱し山本への人格攻撃こと少なくなく、読んでいて気持ちのよい本ではないなあ、とも。
読了日:8月11日 著者:浅見定雄
http://bookmeter.com/cmt/49468595

 

カラマーゾフの兄弟〈第2巻〉 (岩波文庫)
 

 ■カラマーゾフの兄弟〈第2巻〉 (岩波文庫)

 16世紀に再臨したキリストが裁かれる劇中劇『大審問官』が白眉。キリストを否定することで人々を救おうとした法王庁の理想と、それを継がんとする無神論者イワン。そのイワンとアリョーシャの対決から一気に物語のギアが上がってきた感じがしてぐいぐい引き込まれた。人は「正しき者の汚辱」を望む。ゾシマもその人々の欲望によって汚されることからは避けられなかった。清らかなるものであるアリョーシャは、はたして同じように汚辱に塗れてしまうのか、それとも。
読了日:8月12日 著者:ドストエーフスキイ
http://bookmeter.com/cmt/49482258

 

カラマーゾフの兄弟 第3巻 (岩波文庫 赤 615-1)

カラマーゾフの兄弟 第3巻 (岩波文庫 赤 615-1)

 

 ■カラマーゾフの兄弟 第3巻 (岩波文庫 赤 615-1)

 ついに殺人事件が発生し、疑いをかけられた長兄ミーチャは窮地に立たされる。アリョーシャとイワンが一旦舞台から降り、放埓なる長兄にスポットライトが当たるこの三巻は、彼の行き当たりばったり極まる行動に呆れ果てるも、その愚直さが痛烈に印象づけられ、だからこそ彼の言葉が検事たちの耳に届かないことにやきもきさせられた。後半の利発な少年コーリャとその周辺が描かれる場面は、コーリャのクソ餓鬼っぷりと、虚栄心に塗れた内面の描写が真に迫っていて胸糞悪くなりつつ楽しく読んだ。
読了日:8月13日 著者:ドストエーフスキイ
http://bookmeter.com/cmt/49528063

 

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

 

 ■スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

 甲子園の熱気に誘われて野球関連のエッセイを再読。異色の高校球児の内面に寄り添う表題作も嫌いじゃないが、「江夏の21球」と「八月のカクテル光線」の二篇は図抜けて面白い。ダイヤモンドの内側と外側の悲しいくらいの懸隔、そして何より江夏豊という男の人並み外れたプライドと才能が滲み出る前者、人生を決定づけるような「一瞬」のドラマの積み重ねを、伝説の試合の当事者たちの視点を縦横無尽に行き来しながら描く後者。文章を読むだけでその場にいるかの如き臨場感と熱気にむせかえる。
読了日:8月15日 著者:山際淳司
http://bookmeter.com/cmt/49584217

 

カラマーゾフの兄弟 第4巻 (岩波文庫 赤 615-2)

カラマーゾフの兄弟 第4巻 (岩波文庫 赤 615-2)

 

 ■カラマーゾフの兄弟 第4巻 (岩波文庫 赤 615-2)

 罪の意識に苛まれるイワン、裁かれるミーチャ、そして訪れる静かな幕引き。検事と弁護士が全身全霊の語りをみせる裁判の場面に引き込まれ、その熱気を切断するかのごとき呆気ない幕切れに脱力していたら、最後の美しい別れの場面に心を撃たれた。「正しきものの堕落」を人は欲望する。百姓どもが我を通し、真実は葬り去られる。しかし我々には失われえない美しい過去の記憶があるはずだ。それを拠り所にせねばならないし、それしか拠り所はないのだ。そんなことを語りかけられている思いがした。
読了日:8月19日 著者:ドストエーフスキイ
http://bookmeter.com/cmt/49676957

 

 ■プラトンとの哲学――対話篇をよむ (岩波新書)

 「プラトンさん」「あなた」とプラトンに呼びかける、一人対話みたいな形式で書かれた入門書。プラトンの対話篇を題材に、そこで議論される論点について掘り下げていく。イデア論や形而上学的思考が大きな向かい風の中にある現代においてプラトンを読む、ということにこだわりがあるような印象があり、そのおかげか興味深く読むことができた。しかし著者の読み解くイデア論が理解できたかというと、正直あんまり、という感じ。プラトンについて理解は進まなかったが、現代においてもプラトン研究に取り組む人の情熱みたいなものは理解?できた。
読了日:8月19日 著者:納富信留
http://bookmeter.com/cmt/49688506

 

現象学は思考の原理である (ちくま新書)

現象学は思考の原理である (ちくま新書)

 

 ■現象学は思考の原理である (ちくま新書)

 フッサール現象学の再読解を基礎にして、現象学の意義を捉え直し、そこから言語論、身体論の書き換えを試みる。現象学とは何か?が論じられる第1部ののちは、その現象学という思考の原理の使い方が示されているというような印象。フッサールは「人間の認識一般についてその「信憑構造」を検証し、それを「意識の本質構造」として記述すること」を行っており、確信的な世界の見方が成立する条件と構造を解明するのが現象学的還元なのである、というのが著者の現象学理解だろうか。

 それを軸に、イデオロギー対立の構造を明らかにする第2部、言語哲学の蹉跌を指摘し現象学的言語論を展開する第3部、その延長として欲望の原理論としての身体論を論じる第4部という構成だが、身体論、欲望論についてはあまりわからず。
読了日:8月20日 著者:竹田青嗣
http://bookmeter.com/cmt/49702144

 

 ■ライアーズ・ポーカー (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 著者の実体験をもとに、80年代のウォール街における狂騒を描き出す。金融業界における大きな変化についても叙述されているが、何より入社して数年で凄腕セールスマンとして名を馳せ、そして退社して物書きに転身した著者の体験談が面白い。研修でウォール街で生きるためのスタイルを叩き込まれて選抜され、現場では下等生物扱いされ身内に騙されたりしつつも功をなすサクセスストーリーは、事実は小説より奇なり、という感じ。会社内の内輪もめと足の引っ張り合いはマフィア映画かよって感じで、それも面白く読んだ。
読了日:8月21日 著者:マイケルルイス
http://bookmeter.com/cmt/49716479

 

宮台教授の就活原論 (ちくま文庫)

宮台教授の就活原論 (ちくま文庫)

 

 ■宮台教授の就活原論 (ちくま文庫)

 「任せて文句垂れる社会」・「空気に縛られる社会」から、「引き受けて考える社会」・「知識を尊重する社会」に日本社会を変えなければならない、すげえ人間と接触して感染しろ、内発的な人間になれ、みたいな最近の宮台先生的なアジテーションをバックに就職を語る。就職に関する情報が流通しすぎたことで適職幻想が蔓延している、面接の場ではコンテクストを読んで聞いたり話したりすることが重要、自己実現は仕事に求めるべきではなく、仕事で挫折しても戻ってこれるホームベースを作れ、というのが宮台先生流の就活術という印象。
読了日:8月21日 著者:宮台真司
http://bookmeter.com/cmt/49732067

 

思考実験: 世界と哲学をつなぐ75問 (ちくま新書)

思考実験: 世界と哲学をつなぐ75問 (ちくま新書)

 

 ■思考実験: 世界と哲学をつなぐ75問 (ちくま新書)

 古今東西のさまざまな思考実験を通して、「私」とは何か、心とは何か、といった哲学的な問題について考察する。そうしたテーマ別の章立てのおかげで、無味感想に実験の例だけが述べられる退屈な印象はなく、どのような問題を考えるためにその実験が考案されたのか/使えるのかというのがはっきりしていてよかった。サンデル先生のトロッコ問題や「水槽の中の脳」から、科学の進歩によってもたらされた問題まで幅広い思考実験が取り上げられているが、その多くを現代的な問題との関連からの解説とともに提示するかたちになっていて面白く読めた。
読了日:8月22日 著者:岡本裕一朗
http://bookmeter.com/cmt/49745147

 

魯迅――東アジアを生きる文学 (岩波新書)

魯迅――東アジアを生きる文学 (岩波新書)

 

 ■魯迅――東アジアを生きる文学 (岩波新書)

 魯迅の生涯から日本をはじめとする魯迅受容を概観したのち、村上春樹魯迅の接続を論じる。魯迅は生まれは地方都市だけど、日本への留学などを経て都市的なものにかぶれていったのだなあと。なんとなく親近感を覚えた。竹内好による魯迅の翻訳は「土着化」させたものである、との視点から厳しく批判しており、相対的に太宰治の描いた魯迅像を再評価しているような印象。そこらへんは光文社古典新訳文庫『故郷・阿Q正伝』の訳者解説と記述が重なっている。

 後半の村上春樹論はなんとなく蛇足感があり、斎藤美奈子が「ゲーマー的」と評した村上春樹の読まれ方の典型例じゃね?と思ったり。
読了日:8月23日 著者:藤井省三
http://bookmeter.com/cmt/49782101

 

 ■岩波新書で「戦後」をよむ (岩波新書 別冊11)

 戦後70年を10年ごとに区切り、それぞれ三冊選んだ岩波新書についての鼎談が収められている。第五福竜丸の事故から安保闘争水俣病ソ連崩壊など時代を象徴する事件、出来事を扱ったものや、家族や豊かさなど時代の雰囲気を伝えるような題材を取り上げたものをチョイスしているという印象。それらの議論を現代の視点から捉え直し、可能性と限界を論じていていくというスタイル。「戦後」を読む、というタイトルに表されているように戦後の雰囲気の変化をなんとなく感じとることができるような。欲を言えば選書の議論も収めてほしかった。
読了日:8月23日 著者:小森陽一,成田龍一,本田由紀
http://bookmeter.com/cmt/49793438

 

Running Pictures―伊藤計劃映画時評集〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

Running Pictures―伊藤計劃映画時評集〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

 

 ■Running Pictures―伊藤計劃映画時評集〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

 今まで適当に拾い読みしていたのだけれど、なんとなく通読。映画という媒体項を通して、伊藤計劃の視線が感じとれ、その繊細な感度に唸る。優れた書き手というのは圧倒的な解像度で世界をみているのだなと。約2年間の文章が収められているが、その短い期間にも文章が洗練されていくのがなんとなく感じとれて、やっぱり継続して書くことにはそれなり以上の効用があるなと思った。本書所収のテクスト群は最初っからすげー筆力を感じるけど。
読了日:8月26日 著者:伊藤計劃
http://bookmeter.com/cmt/49857619

 

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

 

 ■ふたりの距離の概算 (角川文庫)

 なぜ新入部員は退部したのか。長い道のりを走った末に折木が辿り着いたのは、どうしようもないコミュニケーションの行き違い。掛け違えたボタンを解きほぐした折木も、ふたりの関係を結び直すことまでは至らない。もはや姿が見えなくなった後輩の姿に、彼は自分の意思の限界、それほど遠くまでは伸ばすことのできない手を自覚させられることになる。しかし、結び直すことはできなくても、ほつれを解きほぐした意味はきっとあったはず。いつかふたりが再び結び合う可能性を救いとったということに仄かな希望を感じる、爽やかでしかしビターな読後感。

関連

読了日:8月27日 著者:米澤穂信
http://bookmeter.com/cmt/49867295

 

 ■Cinematrix: 伊藤計劃映画時評集2 (ハヤカワ文庫JA)

 1巻と比べてそれぞれの評の分量が多く、読みごたえがあった。伊藤の映画評でとりわけすぐれているのは、映画の素筋を自分の言葉で語り直すその手際だと感じる。時に客観的に、時に登場人物の一人を語り手に設定し、様々なバリエーションで的確にあらすじを要約してみせるのは流石だなあと。膨大な情報が詰め込まれた映画評の中に、自身の未来や現代社会への目線を惜しみなく挿入し、一つの世界像を描写するというパターンが少なくなく、単なる映画時評の枠を超えた伊藤の思考の像を垣間見ることができ楽しく読んだ。
読了日:8月28日 著者:伊藤計劃
http://bookmeter.com/cmt/49900161

 

エ/ヱヴァ考

エ/ヱヴァ考

 

 ■エ/ヱヴァ考

 「偽りのリアリティ」と「ホメオスタシストランジスタシス」という二つのテーマを軸に、エヴァンゲリオンを論じる。ネルフ/ゲンドウの独裁の下で「偽りのリアリティ」に満たされた作品世界で、留まろうとする力と変化しようとする力とのせめぎあいを描いたのが『新世紀エヴァンゲリオン』である、というのがおおまかな見取り図だろうか。庵野秀明という作家に大きく着目している点に特色がある気がし、先行する作品やインタビュー、企画書などとの差分から作品を分析している。

 「ホメオスタシストランジスタシス」の問題系は、著者の見立てには反して、本書刊行後に公開された新劇場版Qでも違う形で再び前景化しているのでは、という印象。それと細部と大きなドラマの流れを統合して論じる必要がある、というのは大瀧『エヴァンゲリオンの夢』の姿勢と重なるところがあると感じたが、両者の語り口の対照性は面白いなーと思ったり。
読了日:8月30日 著者:山川賢一
http://bookmeter.com/cmt/49963890

 

あの頃マンガは思春期だった (ちくま文庫)

あの頃マンガは思春期だった (ちくま文庫)

 

 ■あの頃マンガは思春期だった (ちくま文庫)

 マンガ論かと思いきやマンガを絡めた自伝的エッセイ集だった。全共闘など時代背景が所々に顔をだす、70年前後に青春を過ごした人間の回想みたいな。ジャズ喫茶でだらだら過ごす、みたいな生活は現代からすると隔世の感がある。いかにもおっさんくさい文体(「〜なんである。」)が正直勘弁してくれよという感じで、取り上げられているマンガについて全くといっていいほど知らないことあって語りにイマイチのれなかった。
読了日:8月31日 著者:夏目房之介
http://bookmeter.com/cmt/49985085

 

 

 

 

amberfeb.hatenablog.com

 

*1:岩波文庫版1巻に付された解説より。