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五十嵐×榎戸アニメの、これまでと、これから―『キャプテン・アース』によせて


TVアニメ「キャプテン・アース - Captain Earth」PV - YouTube

 昨日、4月から放映される予定のTVアニメ、『キャプテン・アース』の公式サイトがオープンし、それに併せて上の第1弾PVが公開された。スタッフは、 『STAR DRIVER 輝きのタクト』とかなり重なっていて、監督は五十嵐卓哉、脚本は榎戸洋司。この二人が監督と脚本としてタッグを組んだのは、スタドラ以前には2006年に放映された『桜蘭高校ホスト部』。つまり、『キャプテン・アース』で三度目ということになる*1

 この2作、毛色は違えどどちらも大変好きな作品で、それゆえ『キャプテン・アース』には否が応にも期待せざるをえない。自分がホスト部とスタドラを好きな理由はいろいろあるけれど、その理由のひとつは、どちらも、未来観を提示している、という点にある。この機会に五十嵐×榎戸アニメについて自分なりに整理しておこうと思う。

 『桜蘭高校ホスト部』―無限の未来に開かれたオープンエンド

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 五十嵐・榎戸両氏が監督―脚本としてはじめてタッグを組んだ『桜蘭高校ホスト部』は、少女マンガを原作としたギャグアニメ。俺がこのアニメをみたきっかけは、五十嵐氏でも榎戸氏もなくて、主人公藤岡ハルヒの声を坂本真綾さまがやっておられたから。見始める前は美少年が多すぎて、真綾さまが出演なさっているとはいえあまり気乗りしなかったのだが、ギャグのキレはいいし、1話ごとのまとまりがあってすっきりしてるしと、自分が思っていた以上にハマってしまった。

 自分は原作を未読なので、アニメと原作の違いはあんまりわからないのだが*2、その結末が、まだ原作が完結していなかったために、アニメオリジナルのものになった、ということは知っている。その、アニメオリジナルの結末にこそ、後のスタドラにも繋がる、五十嵐×榎戸アニメの未来観が表れているのではないか、と思う。

 

 アニメ版は後半で、部員のうち幾人かがハルヒへの好意を明確に自覚し始める。しかし、結末でその恋愛感情の帰結が描かれることはない*3。最後の最後で問題として浮上するのは、彼らの所属する、ホスト部という共同体、それ自体の危機だった。

 最終2話で、ホスト部部長の環に婚約を迫る女性、エクレール・トネールが突然現れ、結婚すれば環を生き別れの母親に会わせると持ちかける。それを受けて環は、「自分のわがままで作ったホスト部に、いやがる他の部員を巻き込んでいるのではないか」との疑念もあって、ホスト部を解散して、母と会うために結婚の道を選んでフランスへ渡ろうとする。

 しかしそれに納得できないホスト部員は、環を翻意させるべく説得に向かう。彼らは、いやいやホスト部に所属していたわけではなかった。それぞれ、なんらかの形でホスト部に救われていたのだ。かつて、借金の返済という義務によって強制的にホスト部に入ったハルヒさえも、ホスト部という共同体はかけがえのないものになっていた。「ホスト部が好きなんです!」とハルヒは力強く叫ぶ。

 

 ホスト部全員が、ホスト部という、いつか必ず終わる*4、しかしそれゆえかけがえのない共同体を自覚的に選び直すこと。それがアニメ版の提示した結末だった。それまで散々描いていたハルヒをとりまく恋愛関係の問題はひとまず棚に上げ、未解決のまま残すことによって、作品自体は終わっても、彼・彼女らの、これからも続く人生は、あらゆる可能性に無限に開かれた。この無限に開かれた未来、という未来観は、『STAR DRIVER 輝きのタクト』に受け継がれることになる。

 

STAR DRIVER 輝きのタクト』―「これとは違う、もっとすごい空を、きっと見るさ」

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 ホスト部から4年を経て、五十嵐、榎戸両氏が再びタッグを組んだのが『STAR DRIVER 輝きのタクト』だった。『STAR DRIVER 輝きのタクト』については今まで何度も記事を書いてみた。それほど自分にとっては思い入れのある作品である。

『STAR DRIVER 輝きのタクト』 未来への信頼 - 宇宙、日本、練馬

『スタードライバー THE MOVIE』 まだ見ぬ空のその先へ - 宇宙、日本、練馬

 スタドラでは、ホスト部より強い未来志向が感じられる。主人公のタクトは、とにかく「先を見」続ける主人公だった。それは最終話の、「これとは違う、もっとすごい空を、きっと見るさ」という台詞に集約されている。五十嵐監督のインタビューを引用しよう。

五十嵐 (前略)タクトは最終話で「これとは違う、もっとすごい空を見るさ」っていうんですけど、彼が見てる空はこれ以上すごい空はないっていう空なんですよ。それを前にしても、コイツはまだ「これよりすごい空を見る」って言う。それくらい「先を見る」ってことに対して、一点の曇りもないんです。この先に待っているのは、素晴らしいことではないかもしれないし、ある意味、ツラいことかもしれない。それでも、この先にあるものを見たい。そういう主人公だったんだな、と思いますね。

 「STAR DRIVER STAFF INTERVIEW EXTRA 五十嵐卓哉×榎戸洋司」『STAR DRIVER VISUAL MATERIALS CHARACTERS&MECHANICS III』より抜粋

  その目指す先、未来について、ホスト部ではその明るさがあくまで強調されていた。対して、スタドラではその未来が、明るいものではなく、暗いものである可能性までもが示唆されている。未来は暗いかもしれないが、それでも前に進むという強い意志、それこそが、スタドラが提示した人間の生き方ではなかろうか。そして、無限に開かれていると同時に、先行きもわからないもの、それが未来だと力強く示している。それが、『STAR DRIVER 輝きのタクト』の未来観だと自分は考える。

 

キャプテン・アース』で未来はどうなる?

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 そして、来年4月から放映が開始される『キャプテン・アース』で三度の五十嵐×榎戸タッグとなるわけだが、まあ、今からスト―リーの予測など不毛極まりない。そんな中で『キャプテン・アース』の未来観など語れるはずもないのだが、このコンビならば、再び、現代に生きる我々にとっての「未来」とはなんなのか、を提示してくれるに違いない、と信じている。その時が、今から楽しみでならない。

 

 

 

「桜蘭高校ホスト部」Blu-ray BOX

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STAR DRIVER 輝きのタクト Blu-ray BOX

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*1:それ以前にも両氏はセーラームーンシリーズや『少女革命ウテナ』にスタッフとして関わっているが、あくまで監督―脚本関係にしぼると。

*2:Blu-ray版のオーコメによると、第13話「不思議の国のハルヒ」もアニメオリジナルの回のようだ。最終話のコメンタリーでは、最初の5分くらいは最終話そっちのけで、五十嵐、榎戸両氏は13話について熱く語っている。

*3:Blu-ray版に収録されているオーディオコメンタリーで榎戸氏は以下のように語る。少女漫画の結末は、たいてい主人公の恋の成就であるが、漫画版が完結していない以上、その終わり方はできない。そのような制約の中でなんとか考えだされた結末が、以下のものだという。

*4:オーコメの榎戸氏によると、最終話の花火は「一瞬で終わる青春」のメタファーであるそうだ。