Twitterのタイムラインが『ガールズ&パンツァー 劇場版』に沸くのを見ていたらミーハーなわたくしめはぜひとも劇場に足を運びたくなってしまい、結果一日かけて録画を消化する運びとなりました。ミリタリーに全然興味ない僕でも大変楽しめたので、よかったです。劇場版もすんばらしかった。以下ではとりあえずテレビシリーズをみての感想を。
ミリタリー的なものとかわいらしい女の子を両立させる手練手管は、多分、相当蓄積されている、と思う。有名な戦闘機乗りの名を冠した美少女がパンツじゃないから恥ずかしくない衣装をまとって戦う『ストライクウィッチーズ』やら、第二次世界大戦期の艦船を擬人化したソーシャルゲーム『艦隊これくしょん』、などなど。これらの作品で描かれる美少女は、斎藤環が「戦闘美少女」と名指したファリックマザー的な存在とは一線を画しているように僕には思われる。「かわいらしさ」がことさら強調され、かわいい女の子同士の関係性を描くことに重心が置かれ、男性との関係が切れている。そのような仕方で、所謂「萌え」とミリタリーが接続されてきた。
『ガールズ&パンツァー』は、うえで上げた両作品に関わっている島田フミカネ氏によってデザインされたキャラが、空でも海でもなく、今度は陸で、戦車を乗り回す。擬人化などの方途をとらず、戦車そのものを取り上げ、それと「萌え」を接続するために、あるものが発明された。その偉大な発明によって、作品全体の方向性が定まったのはほぼほぼ間違いないのではなかろうか。
その発明こそが、戦車道。戦車を動かすことを「乙女のたしなみ」であるとぶちあげて、作品世界において「女らしさ」とミリタリーを接続したこのアクロバットこそ、『ガールズ&パンツァー』のすべてだと僕は思う。
かつて嘉納治五郎は、サムライの時代が終わったことによって廃れかけた武術を、「和魂洋才」的な発想で近代化した。武の技はもはや単に敵を倒し、窮極的には殺害する技術ではもはやなくなり、心身を鍛えるための「道」へと変貌を遂げる。それらを現代に生きる我々は、「武道」と呼ぶ。その武道は今日ではスポーツの領域へとますます接近している、とするのが井上俊による見立て。
故に、戦車の道たる「戦車道」もまた、スポーツ的な競争の要素を胚胎するは必定*1。「戦車道」の発明は、「女らしさ」とミリタリーを接続しただけでなく、物語上の準拠枠すら決定づけた。その準拠枠とは、すなわちスポ根。『ガールズ&パンツァー』は、いまや語られすぎて陳腐化した「弱小校がなんとかがんばって勝ち進む」というスポ根モノ的な骨組みに、戦車道という未だかつて誰もみたことのない実質を組み合わせることで、古くて新しい、新しいけどクラシック、珍奇だけど安心感あるという、絶妙のバランス感覚をもつ作品たりえている。
語られつくした物語を新たに語りなおすその手際も見事で、王道をなんのてらいもなく堂々と突き進んでいく展開が爽快。1クールという短い尺のなかでキャラをたたせるために、ライバルたちに異国の要素を背負わせてこちらの先入観に取り入る形でキャラ付けし、それに合わせて戦い雰囲気も変化させる。見せ方と語り方はまさに職人芸だなあと。というわけで非常に楽しみました。スポ根が根っこにあるから、ミリタリー的な知識は「あれば一層楽しめる」けれども、「知らないと楽しめない」感じではない気がして、これもミリタリーに関心の薄い僕には非常にありがたかった。
以下どうでもいいお話ですが、「武道の誕生」において産婆の役割を担った嘉納治五郎は、武術の達人であるというより「言説の人」だった、と井上俊は指摘する。
嘉納は柔道家であると同時に、柔道について倦まず弛まず語り続けた「言説の人」でもあり、その精力的な言論活動を通して、もはや武士階級の存在しない近代社会における柔道(ひいては武道)の存在意義を確立することに成功した。その意味で講道館柔道の発展と普及は、全体として見れば、実戦の勝利というよりもむしろ「言説の勝利」であった。
戦車という殺戮兵器を「乙女のたしなみ」へと意味づけしたのは、嘉納治五郎以上の「言説の人」ないし集団が歴史上にいるとしか思えない。作品世界においても、劇中の映画の様子からは第二次世界大戦時には男性が戦車に乗っていたのではないかと推測されるし、言及される歴史上の人物も男性っぽい。
戦争=男らしさという前提は現実と共通で、男女役割分業的な意識も同様のように感じられる中で、どのような理路で戦車道が「乙女のたしなみ」になったのか、その言説戦略を描いた「戦車道の誕生」みたいな話が、ぼくはみたい。誰が喜ぶんだよ。
劇場版の感想。
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【作品情報】
‣2012年
‣監督:水島努
‣シリーズ構成・脚本:吉田玲子
‣キャラクター原案:島田フミカネ(原案)、野上武志(原案協力)
‣キャラクターデザイン:杉本功
‣音楽:浜口史郎
‣アニメーション制作:アクタス
*1:戦車道って武道というよりは、茶道とか華道に近い位置づけなのかもですが。