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総てを震わす鋼の振動―『ガールズ&パンツァー 劇場版』感想

ガールズ&パンツァー 劇場版 (特装限定版) [Blu-ray]

 

 『ガールズ&パンツァー 劇場版』をみました。戦車道は人生の大切なことがすべて詰まっているということがわかってきました。以下で感想。ネタバレが含まれます。

 

 すべては収まるべきところに収まったはずだった。戦車道の名門、黒森峰女学園から、戦車道を忘れて久しい大洗女子学園へと逃げるように転校した少女、西住みほ。戦車道の家元の家系に生まれた彼女は、悲しいかなその血の定めから逃れること能わず、大洗の地でも戦車を駆ることになってしまう。学園の廃校を賭けて戦車道全国大会を戦うみほと仲間たち。並み居る強豪打ち倒し、ついには古巣にして姉・まほの率いる黒森峰さえ打ち破り、みほは自分と戦車とを再び結びなおし、学園も守られた。かくして、すべては収まるべきところに収まったはずだった。

 しかし、少子高齢社会が、あるいは逼迫した国家の財政が、あるいは運命の歯車が、そんな予定調和を許さない。健闘むなしく学園は夏の終わりとともに閉鎖される。そんな決定が彼女たちにつきつけられる。しかし、運命の女神は彼女たちを見放してはいなかった。残された最後のチャンス。立ちはだかるは大学選抜チーム。規模も技量も圧倒的に勝る、最強の敵。そんな絶望的な状況にある大洗女子学園チームを、かつてのライバルたちが黙ってみているはずがない。規模も熱量も桁違いの最終決戦の火蓋は、こうして切って落とされた。

 かくしてオールスターゲームの様相を呈する『ガールズ&パンツァー 劇場版』なわけですが、TV版で短い時間ながらに深い印象を残してきたライバルたちが一堂に会する展開に、テンションがあがらないわけない。劇場版で加わった新たな仲間たちも、言行一致で旧日本軍ジョークを軽快に飛ばすクレイジー集団知波単学園に、スナフキン率いる継続高校と、強烈な個性があって楽しい。そんなオールスター集団だけれども、チームとして違和感がない。それは大洗女子学園チームが、そもそも初期メンバーからして個性全開のメンツしかそろっていない雑種集団だから、という気がする。とりわけ目立った特色がないというか、大洗の雑多な雰囲気が、お国柄の個性豊かすぎる面々を受け入れる土壌になっているというか。大洗チームの無国籍っぷりはこのオールスターゲームのために設定されたのかと。

 そんなオールスターゲームな戦車戦ですが、なによりもまず音が凄まじい。砲撃の爆発音、砲弾が空を切り裂き振動する空気、無限軌道によって軋む大地の唸り、そうしたもろもろの音の洪水を劇場で浴びることができる、それだけで映画館に足を運ぶ意味がある。画面の向こうで震える空気の音が、スピーカーを伝ってそのまま現実世界の我々の耳に届いている、そういう感覚。そうした震えを通して、画面に映し出される戦車、ひいてはそれを駆る人間に魂があるのだと感じる。この振動は確かに画面の向こうで生きる彼女たちに通じている、そう感覚させるだけの威力がこの音響にはある。

 そうした振動を浴び続けるうち、無駄なことを考えるだけの思考の余地がだんだんと薄れてゆき、そしてスクリーンに映し出される戦車とこのわたしが一体化したかのごときテンションへと導かれる。戦闘の間ものべつまくなしに続けられ、死闘に花を添えた女の子たちのおしゃべりは、クライマックスに至って完全に消失し、無言で砲弾を応酬する三機の戦車のみがそこに残る。沈黙のなかで戦う大洗チームの二機。それは、映画館で食い入るように画面をみつめるわたしたちに似る。

 

 というわけで、『ガールズ&パンツァー 劇場版』大変楽しみました。すでに二度鑑賞しているわけですが、これは得難い体験だという思いが強烈にあるので、これから何度足を運ぶのかわかりません。TV版を予習したかいがあったというもの。

 

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【作品情報】

‣2015年

‣監督:水島努

‣脚本:吉田玲子

‣キャラクター原案:島田フミカネ(原案)、野上武志(原案協力)

‣キャラクターデザイン:杉本功

‣音楽:浜口史郎

‣アニメーション制作:アクタス