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反転と反射——『アンブレイカブル』感想

アンブレイカブル(字幕版)

 『アンブレイカブル』をみました。Amazonのほしいものリストから送ってくださった方、ありがとうございます。思えばシャマランぜんぜん通らずにきてしまいましたが、この機にみましょう。以下、感想。

 100人以上もの犠牲者を出した列車事故から、なぜか無傷で生還した男。唯一の生存者となった彼の前に、アメリカン・コミックスの収集家である謎の男が現れ、告げる。お前は選ばれし者なのだ、と。

 『シックス・センス』で一躍その名を知らしめたM・ナイト・シャマラン監督による、超常的な能力をもつらしい男を主役に据えたドラマ。マーベル・シネマティック・ユニバースはじめ、スーパーヒーロー映画が氾濫する2010年代以降の目から眺めると、本作の抑制された語り口はかえって新鮮である。ブルース・ウィリス演じる男は、病にもかからず不死身の肉体をもつらしいが、自身はそのことに無自覚で、平凡な労働者として過ごしている。自身の超常的な力に気付いた後の展開も、たかだか一人の犯罪者を成敗するくらいで、コミックのヒーロー然とした華々しい活躍とは無縁である。真の黒幕に対しても自ら制裁を加えるのではなく、警察に通報して幕を引く。このあたりの、現実から半歩だけ遊離したような現実感覚は、昨今のヒーロー映画と一線を画している。言ってしまえば地味のひとことで概括できる物語を、しかしおもしろくみせてしまうあたりが監督の手腕なのだろう。

 コミックスそれ自体を物語上の重要なよりどころとするヒーロー映画として、たとえば2010年代ならば『X-MEN』のスピンオフにしてその歴史を見事に総括してみせた『ローガン』があるが、同作がそれをまさにキャラクターたち≒私たちにとっての希望の徴、あるいは北極星のごとき輝きとして提示したのに対し、本当の偉大さはコミックスのコマのなかにはおさまらないと嘯く『アンブレイカブル』の目線は極めて醒めている。その偉大さの発露が極めてストイックな点も含めて。

 さて、演出の上で何度も反復されるのは、「反転」と「反射」のモチーフ。列車事故のニュースをみるデヴィッドの息子は仰向けに寝転がりながらテレビをみていて、その目線が仮託されたカメラは反転したニュース映像をスクリーンに映す。同様の構図で、サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャは階段から転げ落ちて、さかさまの状態で「銀の銃」を目撃する。そのイライジャの子ども時代、プレゼントを開封した彼が目にしたコミックスは上下逆になっている。「反射」でいえばもっとも印象的なのは、ギャラリーでコミックスの原画をセールスするイライジャが滔々と語る姿がガラス越しに映る場面だろう。

 この「反転」のモチーフはまさしく結部の予示でもあり、また「反射」は他者の誇大妄想的な認識によってこそヒーローがつくられうることを示したこの映画の構図の反映でもある。無論なにより、それらは「ガラス」と密接に紐づいている。

 このようなわかりやすい暗喩の積み重ねを示して観客を気持ちよくさせてくれるのは、親切すぎると嫌味になると思うんだけど、でもみていて気持ちよくなっちゃうのでずるいですね。『スプリット』、『ミスター・ガラス』もみましょう。