宇宙、日本、練馬

映画やアニメ、本の感想。ネタバレが含まていることがあります。

2014年5月に読んだ本

 今月読んだ本のまとめ。今月はあんまり読書が進まなかったというのが正直なところ。特段きちんとなにかについて理解が深まったとはいえないけれど、「他者」について考えたひと月だったような気もする。以下で印象に残った本と読んだ本の感想を。

 先月のはこちら。

2014年4月に読んだ本―哲学にちょっくら手を出してみた - 宇宙、日本、練馬

 印象に残った本

他者といる技法―コミュニケーションの社会学

他者といる技法―コミュニケーションの社会学

 

  今月一番印象に残ったのは、奥村隆『他者といる技法』。他者の問題を社会学的に考察した本なんですが、本当に心に沁みたというか。他者とは、見田宗介の言葉をかりるなら「あらゆる歓びと感動の源泉である」と同時に「不幸と制約の、ほとんどの形態の源泉」でもある。そうした他者とどう向き合えばいいのか。この『他者といる技法』以上にそのことに向き合っている本を、僕はまだ読んだことがない。

 この「他者」の問題にかかわる本をきちんと読んでみようと思ったのは、多分『輪るピングドラム』とか吉浦康裕監督の作品とかで、なんとなく自分の中でぼんやり考えていたことが描かれている気がして、それをきちんとした言葉にしたいなと思ったからなんですね。

『輪るピングドラム』感想 きっと何者にもなれない人のための「生存戦略」 - 宇宙、日本、練馬

吉浦康裕監督作品における「他者」―『水のコトバ』から『アルモニ』まで - 宇宙、日本、練馬

 そういう創作物によって浮かび上がってきた問題が、この奥村さんの本でなんとなく、問題そのものが明確になったというか、はっきりした輪郭をもってようやくとらえうる地点に立てた気がします。そういう意味でも、この本は忘れられない、何度も何度もよんで自分の中の「他者」の問題を考えるよすがになる、そんな1冊だったと思います。

 

読んだ本のまとめ

読んだ本の数:18冊
読んだページ数:4974ページ

 

文明の生態史観 (中公文庫)

文明の生態史観 (中公文庫)

 

 ■文明の生態史観 (中公文庫)

 表題論文「文明の生態史観」を中心に、比較文化論的な論考が集められている。西欧と日本を第一地域に、それ以外のユーラシア地域を広く第二地域に分け、それらの地域の歴史的共通性を提示する。マルクス主義的な発展段階論が瀕死に追い込まれている現代においては、それが社会に与えたインパクトは測りかねるが、フィールドワークに裏打ちされた生態史観には一定の説得力があるように思われる。しかし生態史観の枠組みは、事件や事象の個別性、特殊性にあくまで注意を払う歴史学的な発想と馴染まない気もする。
読了日:5月2日 著者:梅棹忠夫
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37641286

 

社会(学)を読む (現代社会学ライブラリー6)

社会(学)を読む (現代社会学ライブラリー6)

  • 作者: 若林幹夫
  • 出版社/メーカー: 弘文堂
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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 ■社会(学)を読む(現代社会学ライブラリー6)

 社会学の研究を読むこととはいかなることなのか、様々な古典的研究を参照しつつ提示する。「社会学を読む」ことは、内容を知るということ以上に筆者の思考の形、方法を自分なりに読み解くことである。全体の構成を捉えること、書かれた時代性を視野に入れることなど、その読み解き方の例を具体的に示している。社会学を専門としない人間でも、社会学を読むこと、社会を読むことを通して、「社会学すること」が可能であり、むしろそうするべきだという著者の姿勢を感じた。

「本には、終わりがある。だが、本という形をとって展開する学問には終わりがない。」(若林幹夫『社会(学)を読む』p94) 

読了日:5月2日 著者:若林幹夫
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37647069

 

反コミュニケーション (現代社会学ライブラリー 11)

反コミュニケーション (現代社会学ライブラリー 11)

 

 ■反コミュニケーション (現代社会学ライブラリー 11)

 コミュニケーションの在り方を、多くの論者を訪ねながら考える。ルソーに始まり、ジンメルやゴフマンなど、参照先は多岐にわたり、それらの議論を噛み砕いて説明しているのでわかったような気になる。お互いをわかりあう純粋なコミュニケーションを至上とするのか、秘密を抱えてあくまで儀礼的、演技的なコミュニケーションをとっていく他ないのか。著者はいずれの立場もある意味ユートピア的であると退け、見田のいう「他者の両義性」に立ち返る。コミュニケーションとは何か、わからないなりに問い続けることこそ、唯一可能な方法なのかな。

 不思議な本だったというのが率直な感想。色んな論者を訪ね歩くという変なシチュエーションもさることながら、無限の円環を描くが如き構成も。大変面白かった。
読了日:5月3日 著者:奥村隆
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37661850

 

日本とドイツ 二つの全体主義  「戦前思想」を書く (光文社新書)

日本とドイツ 二つの全体主義 「戦前思想」を書く (光文社新書)

 

 ■日本とドイツ 二つの全体主義 「戦前思想」を書く (光文社新書)

 日本とドイツの第二次世界大戦に至るまでの思想を、ナショナリズム社会主義、市民主義、近代批判の四つのトピックから比較する。扱われるスパンが長く、網羅的に話題を取り上げてようと試みているためか、なんとなく表層だけなぞったような読後感。日本とドイツは両者ともに破滅的な戦争へと突き進んだという点で共通しており、思想にも共通点は見出せるものの、しかし相似していると片付けられない差異もある、という全体としての主張は極めて常識的であるように思う。
読了日:5月4日 著者:仲正昌樹
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37707008

 

大学とは何か (岩波新書)

大学とは何か (岩波新書)

 

 ■大学とは何か (岩波新書)

 新たな大学のあり方を探るため、中世から近代を経て現代に至るまでの大学の変容を辿る。中世型の大学が様々な社会変動によって衰退し、国民国家の成立とともに現代に直接連続するような大学が出現した。そして現在、国民国家が揺らいでいるのと重なって大学のあり方も揺らいでおり、新たな大学モデルを創出せねばならない時期にある、というのが著者の認識。中世に始まり現在に至るまでの大学についての研究を数多く引用して説明しながらも、全体としてまとまった印象を受ける。
読了日:5月5日 著者:吉見俊哉
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37753514

 

まなざしの地獄

まなざしの地獄

 

 ■まなざしの地獄

 永山則夫の分析を通して社会構造を分析する表題論文と、時代背景を補足する小論を所収。永山とその背景としての統計調査を分析することで、他者たちのまなざしが、尽きなく生きようとする主体の意思を挫く「まなざしの地獄」としての都市、という像を提起。大澤真幸による解説では、永山と90年代以降の猟奇殺人犯との比較から社会の分析視覚を提示している。そこで改めて、「まなざしの地獄」としての社会像はある程度の普遍性があると強く感じた。

関連

『輪るピングドラム』における「運命」ー『まなざしの地獄』から考える - 宇宙、日本、練馬

読了日:5月6日 著者:見田宗介
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37758975

 

地形を楽しむ東京「暗渠」散歩

地形を楽しむ東京「暗渠」散歩

 

 ■地形を楽しむ東京「暗渠」散歩

 かつて川、水路が存在したが蓋をされて隠されてしまった「暗渠」の痕跡を、豊富な写真を示しながら辿る。今は隠されてしまっていても、意外と水が通っていた頃の痕跡が残っているんだな、ということに素直に驚く。古地図と僅かの証拠を頼りにかつて存在したものを見出して味わう、というのがただただ楽しい。実際に歩いてみる楽しさが本という媒体を通してもはっきり伝わってきて、実際に暗渠を辿ってみたくなる、本当にいい本だと思う。
読了日:5月9日 著者:本田創編著
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37852061

 

凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

 

 ■凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩

  流し読み。東京区部のスリバチ地形をガイドする。コンクリートジャングルの只中にも、面白い景色が広がってるんだなー、と思いを馳せた。お散歩に出かけたくなるいい本。地名の由来や成り立ちなんかもトリビア的に記述してあるのもよい。

読了日:5月10日 著者:皆川典久
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37879087

 

世界がわかる宗教社会学入門 (ちくま文庫)

世界がわかる宗教社会学入門 (ちくま文庫)

 

 ■世界がわかる宗教社会学入門 (ちくま文庫)

 キリスト教イスラム教、仏教のいわゆる三大宗教と儒教について、その成立と展開を社会学的に論じる。宗教社会学入門の名を冠してはいるけれども、どちらかといえば宗教それ自体の解説本という印象。それぞれの宗教を社会学的に捉える、という意味での宗教社会学という書名なのだろうか。とはいえ、宗教史が簡潔かつ平明に記述されていて勉強になった。一通り読了したあとも、適宜疑問が湧いたら参照するのに使えると感じる。
読了日:5月10日 著者:橋爪大三郎
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37899573

 

 ■池上彰教授の東工大講義 学校では教えない「社会人のための現代史」

 冷やかしで読んだ。歴史事象の説明が一面的、「近代化」など言葉の使い方が適当に感じられる、安易に「歴史に学ぶ」という姿勢…。これでいいのか?と思うこと多数。特に参考文献が付されていないことに大きな不信感を覚える。ジャーナリスティックな「分かり易さ」はあるが、この本で分かった気になることが一番危険では。しかしこの本がある意味で「受けている」ことの意味は、歴史に関わる人間として軽く考えてはいけないとも感じる。
読了日:5月11日 著者:池上彰
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37902742

 

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 

 ■あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 古代バビロニアの話からヴィクトリア期ロンドンの話、キリスト教的な色彩の濃い話から言語学やら数学やらの知見を縦横に援用するお話まで、様々な中短編が収録されている。特に印象に残ったのは表題作「あなたの人生の物語」。奇妙な構成に驚き、何処と無くもの悲しくもロマンチックな結末が未だに心に深く残っている。「理解」もある意味俺ツエー系の極みみたいなお話でとても楽しかった。
読了日:5月14日 著者:テッド・チャン
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/37990345

 

増補 地図の想像力 (河出文庫)

増補 地図の想像力 (河出文庫)

 

 ■増補 地図の想像力 (河出文庫)

 地図が実在するものを写し取ったものである、という素朴な理解に異を唱え、地図の在り方の変容を社会の在り方、社会実践との関連から辿る。天使など存在しないものが記載されている古代、中世の地図も、当時を生きた人々にとっては「正しい」認識を示すものであり、それと同様に近代に出現した客観的に世界を写す地図も「リアリズム」という観点から「正しい」地図であるに過ぎない、というのが著者の主張か。一方で近代の地図のもつ「普遍性」も指摘しており、簡単には近代のエピステーメーを乗り越えることはできないことも、また示唆されている。
読了日:5月14日 著者:若林幹夫
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38005098

 

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

 

 ■批評理論入門―『フランケンシュタイン』解剖講義 (中公新書)

 『フランケンシュタイン』の読解を通じて、様々な批評理論の概要を解説する。『フランケンシュタイン』という具体的なひとつの題材を設定されていることで、それぞれの理論の特徴というか印象を掴みやすくなっており、なおかつ理論によって如何に読解が豊かになるのかを身を以て感じることができた。批評理論を通した読解の面白さを十全に伝えているという点で、良い入門書だと思う。
読了日:5月17日 著者:廣野由美子
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38058718

 

消費者の権利 新版 (岩波新書)

消費者の権利 新版 (岩波新書)

 

 ■消費者の権利 新版 (岩波新書)

消費者の権利について安全、価格、行政などとの関連から解説している。「市民革命を経なかった日本は欧米諸国と比べて権利に関する認識が弱い」的な紋切り型の発想、消費者がシステムの中で弱い立場にあることを認識しながらも、その可能性を過大に評価しているように思える点など、どうにも肌が合わないと感じた。とはいえ権利の侵害について簡潔かつ平明にまとめてあり、その語り口も啓蒙的な戦略のうちだと考えるとまあ悪くない本のような気もしてくる。好きではないが。
読了日:5月22日 著者:正田彬
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38206514

 

アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)

アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)

 

 ■アメリカの民主政治(上) (講談社学術文庫)

19世紀前半のアメリカ政治について論じる。「アメリカにおいてアメリカ以上のものを見た」というフレーズに象徴されるよう、トクヴィルはアメリカの政治体制を高く評価している。平等という理念を反映しているように見える現実、それぞれ確固として存在し自立している共同体、それに支えられた連邦制、法制度…。それらがこの上巻では議論されている。とはいえ、それらの制度の美点がポピュリズム的な機制によって形骸化、無効化する可能性まで視野に入れている。
読了日:5月24日 著者:DE・アレクシス・トクヴィル
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38240326

 

他者といる技法―コミュニケーションの社会学

他者といる技法―コミュニケーションの社会学

 

 ■他者といる技法―コミュニケーションの社会学

 「他者」に関する論考を集めた論文集。冒頭で「この本に書かれていることは、ほとんどがあなたがすでによく知っていることである」とある。それは一面では真実だと感じる。確かに書かれていることがすっと腑に落ちるという意味では、すでに知っていたことなのかもしれない。しかしその感覚を論理だてて説明していることが本書の魅力であり、稀有な面白さを持つ所以であると思う。他者との関わりをどう引き受けるか、という問いを全体を通して突きつけられたような読後感。

 「他者は本当には理解出来ないから、理解しなくてもいいんだよ」じゃなくて「理解出来なくてもいっしょにいる方法はある」。他者と関わるその苦しみを投げ出すでも開き直るでもなく、引き受ける。他者という存在を理解しきろうとする欲望を断念し、そのわからなさをまた引き受ける。そんな姿勢に強く心を打たれた。
読了日:5月26日 著者:奥村隆
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38321319

 

「近代」の意味―制度としての学校・工場 (NHKブックス (470))

「近代」の意味―制度としての学校・工場 (NHKブックス (470))

 

 ■「近代」の意味―制度としての学校・工場 (NHKブックス (470))

 「近代」の基本的な傾向を均質化と群衆化であると捉え、主に均質化のなされる場としての学校、工場を取り上げて議論する。学校、工場ともに具体例として挙げられるのはフランスのものが多い。最後に日本社会の分析もあるが刺身のツマ程度。学校と工場という場の出現とそれによる人々のあり様の変化を描くことで近代という時代の特徴をざっくり提示していてるが、なんとなく物足りない感じもある。この物足りなさは、それほど「近代」そのものの意味について、ダイレクトに言及している部分が少ないからか。
読了日:5月31日 著者:桜井哲夫
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38419782

 

滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)

滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)

 

 ■滝山コミューン一九七四 (講談社文庫)

 もはや「政治の季節」が終わったとされる1970年代において、多摩地域の滝山団地を中心におこった学校改革運動の帰趨を、当時児童であった著者の目線から描く。教育行為のもつある意味で暴力的な一面に無自覚であることが、ナチズム的な集団的熱狂につながる様を、排除されたものの立場から見事に跡づけている。当時の教育のあり方からすると極めて特殊的、個別的であったとしても、当事者としてその歴史を語ることの意味は大きいと感じる。それがある種の恣意性をはらんでしまうにせよ。

 今から考えるとぞっとするような教育実践が書かれているが、ぞっとしただけで終わってしまっては意味がないとも思う。当時の実践者はそれが良かれと思っていて、なおかつそれを児童が受け入れたからこそ実践が成立し得た(とはいえ「子どもも受け入れていた」というのは子どもの判断力を過大に見積もっているようにも思われるが...)。教育とは、地獄への道を善意で舗装している可能性をはらまざるを得まい。教育する側ができるのは、自らの作る道が地獄へ続いているかもしれないと常に疑い続けることだけなのかもしれない。


読了日:5月31日 著者:原武史
http://book.akahoshitakuya.com/cmt/38423615

 

来月のはこちら。

2014年6月に読んだ本 - 宇宙、日本、練馬

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